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JR上野駅に「駅ピアノ」がやってきた!!

〜イギリスから始まる ”ストピ” 物語〜

JR上野駅に「駅ピアノ」がやってきた!! 〜イギリスから始まる ”ストピ” 物語〜

文・飯尾洋一


©︎Koji Iida

 すっかりブームが定着した感のあるストリートピアノ。商業施設や駅、空港などの一角にピアノが置かれ、だれもが自由に奏でることができる。いつの間にか「ストピ」という略称までできている。これがひと昔、ふた昔前だったら、ピアノを置いてもみんな尻込みして弾いてくれなかったり、苦情が出るのではないかと心配する場面も多かったと思うのだが、今や開かれた音楽文化の一形態となっている。YouTubeなど、ソーシャルメディアとの相性の良さも大いに貢献しているのだろう。
 日本ではこの数年間で爆発的に広まった感のあるストリートピアノだが、国外に目を向けても始まりはそう古い話でもないようだ。一説によれば、その起源はイギリスのシェフィールドにある。2003年、新居にピアノを運び入れようとしたところ、階段を上らせることができず、困った持ち主が一時的に外に置きっぱなしにしたのが始まりだとか。持ち主がだれでも自由に弾いてよいと貼り紙をしたところ、多くの人がこれを歓迎し、ピアノはコミュニティに受け入れられた。あるときピアノが盗まれるという災難に遭ったが、それでも人々の厚意により新しいピアノに置き換えられて、持ちこたえたという。
 ピアノという楽器の最大の特徴のひとつは、可搬性の低さにある。ふつう、ピアニストは楽器を選べない。アマチュアはもちろんのこと、たとえ世界的な名手であっても、会場にあるピアノを弾くことがほとんど。ヴァイオリニストと比べてみると、ピアニストの楽器に対する寛大さは際立っている。有名ヴァイオリニストは、しばしばプロフィール欄に誇らしげに「1714年製ストラディヴァリウス"ダ・ヴィンチ"を使用」といったように、歴史的名器の名を明記する。名器を使っているという事実が、奏者の水準の高さの証明のようなものだ。なにかのきっかけで楽器を変更したときなどは、新しい楽器を自分の思う通りに鳴らすためにどんな苦労をしたかとか、どういう個性を持った楽器であるかなどを、好んで語る。ピアニストはそうはいかない。
 そんな可搬性の低さゆえに、シェフィールドの新居で途方に暮れた持ち主の思い付きからストリートピアノが誕生したともいえる。そして、運べない楽器だからこそ、そこに置いてあれば人々に「せっかくこんなところで出会ったのだから弾いてみたい」という気持ちにさせるのだろう。
 この春、上野駅にもストリートピアノがやってくる。「東京・春・音楽祭」では音楽祭の開幕と鉄道開業150年を機にJR上野駅構内(公演口改札)に、2月20日から3月19日までの一か月間、「駅ピアノ」を設置する。JR上野駅への「駅ピアノ」の設置は今回が初めて。「文化の杜」の玄関口に置かれたピアノは、どんな音色を奏でるのだろうか。




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