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東京春祭名物が復活! 街と人を音楽でつなぐ「桜の街の音楽会」

文・宮本 明

3月4日のJR上野駅パンダ橋での「桜の街の音楽会」の様子/©︎飯田耕治

 青空に高らかに響くトランペットのファンファーレが「東京・春・音楽祭」の開幕を予告する。街に音楽が戻ってきた。

 3月4日(土)、「桜の街の音楽会」がJR上野駅の「パンダ橋」で開催された。コンサートホールを飛び出して、店先など特設のイベント・スペースで行なわれる無料のミニ・コンサート。コロナ禍で2020年以来開催できなかった名物イベントが4年ぶりに復活した。
 この日は“Dreams” Trumpet ensemble(トランペット五重奏)の出演。最前列で聴いていた男性は、音楽祭の公式サイトを見て、これを聴くためにやってきたという熱心なファン。3年前の「桜の街の音楽会」では、旧博物館動物園駅で行なわれる予定だった人数限定のコンサートに当選していたのが中止になって残念だったとも話してくれた。
 午前11時と午後2時から各20分のプログラムに多くの人が耳を傾けた。始めから終わりまで聴く人はもちろん、通りがかりの人が、着けていたヘッドフォンを外して聴き入ったり、スマホで動画撮影したりと、興味の持ち方は百人百様。終演後に演奏者と記念撮影をリクエストする人もいる。批判的な聴き手など誰もいない、気軽で親しみやすい音楽の広場だ。
 このパンダ橋の企画。「桜の街の音楽会」はいつも、音楽祭のほうから各会場に開催をもちかけるのが通例だが、今回はJR社内で「かつて行なわれていた桜の街の音楽会を復活したい」という声があがり、先方の打診で話が進んだという。ちょうど2〜3月に山手線沿線でアート・イベント「HAND!」を開催したJR。上野駅に関して言えば上野公園150周年や、なにより脱コロナを目指して花見シーズンの賑わいを取り戻したいという思いもあっただろう。一方、「桜の街の音楽会」を復活して、音楽祭本来の姿を取り戻したい「東京・春・音楽祭」。両者の思惑やタイミングがうまく合致したわけだが、JR側でも「桜の街の音楽会」がキーワードとなったことは、この企画が“当然あるべきもの”として街に定着していたことの証でもある。
 パンダ橋は上野駅の東西を結ぶ自由通路だが、正直、普段から人通りは多くない。JRと台東区は、ここをもっと有効に活用して上野の回遊性を高めようと「パンダバシピクニック」を開催。この日のコンサートはその一環として行なわれた。これまで飲食系のイベントはなかったそうだが、この日はキッチンカーも登場し、今後の可能性を探った。近い将来、上野のコンサートの行き帰りに、パンダ橋で気軽に飲んだり食べたりを楽しめるようになるかもしれない。

3月19日に松坂屋上野店での「桜の街の音楽会」の様子/©︎松本和幸

 創設以来、地元・上野との共生にも積極的に取り組んできた「東京・春・音楽祭」。コロナ禍の停滞からの街の再活性化が図られるなかで、その姿勢はいっそう価値あるものになっているように見える。
 上野桜木の「旧吉田屋酒店(下町風俗資料館付設展示場)」に打診した際には、コンサートの実施を快諾してくれただけでなく、「じゃあ、われわれもやりますか」と、やはり開催を見合わせたままだった「うえの桜まつり」の再開が決まったという。まだすっきりと収束はしていない感染状況もあり、どうしようかと迷っていた実行委員たち。「桜の街の音楽会」がその背中を押した格好だ。
 関係者の家族が音楽家だという五條天神社では、「うちはもちろん! 東照宮はどうですか?」と次々に会場を提案してくれた。今年新たにラインナップに加わったノーガホテル上野東京は「東京・春・音楽祭」同様に地域との結び付きを大切にして、地元の工芸品や食材をサービスに取り入れている、都市型ホテルのニュー・ウェイヴだ。街と音楽の輪はどんどん広がっていく。
 東京文化会館をはじめとするコンサートホールでの音楽会を本体とするなら、「桜の街の音楽会」はいわばフリンジ企画。その充実は、音楽祭のバイタリティを測る指標のようなもので、とても大事だと思う。今年は現時点で55公演が開催予定だが、これからまだ増えるかもしれないとのこと。各地で史上最速で桜が開花した春。随時更新される最新情報を確認して、桜と街と音楽を楽しみに出かけたい。

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