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ショパン協会に保存されている原典や資料を閲覧し
版の研究や奏法の確認なども行っています

(ヤン・リシエツキ)

ショパン協会に保存されている原典や資料を閲覧し 版の研究や奏法の確認なども行っています(ヤン・リシエツキ)

文・伊熊よし子


©︎Christoph Köstlin

 1995年ポーランド人の両親のもとカナダに生まれたヤン・リシエツキは、15歳のときにドイツ・グラモフォンと専属契約を結び、以来ソロ作品とピアノ協奏曲の両面で定期的に録音を行っている。
「僕は有名な作品ばかりではなく、あまり演奏される機会に恵まれない作品に焦点を当てることに意義を感じています。ショパンのアルバムでは《ロンド・クラコヴィアク ヘ長調》を収録していますが、これもほとんど演奏されません。でも、ショパンを知るにはこうした曲も大切。クラコヴィアクはポーランド南部の山岳地帯に伝わる2拍子の舞曲で、ショパンはそれを作品に取り入れています」

フレデリック・ショパン

 10代前半からポーランドに招かれ、ショパンにまつわる音楽祭などで演奏を続けている。
「ショパン協会に保存されている原典や資料を閲覧し、版の研究や奏法の確認なども行っています。ひとつの作品をステージにかけるときは徹底的に版を研究し、奏法を極めます」
いま彼は、各地の資料室や研究室を訪ね、ショパンのみならずさまざまな作曲家のオリジナル楽譜や作曲家が残した手紙をはじめとする資料を閲覧し、楽譜も多数の版を研究して作曲家の意図に近づこうと試みている。
 演奏は音がみずみずしく透明感に満ち、躍動感あふれるリズムが音楽に高揚感を与え、聴き手を作品のすばらしさへと近づける。とりわけショパンが民族舞踊からインスパイアされて書いた作品への共鳴が感じられ、踊りのリズムが自然な美しさを醸し出す。
「子どものころから論理的なものが好きで、数学がもっとも得意な科目です。両親の話では、生後7カ月から歩き始め、話し始め、エネルギーがあり余って興奮して眠れないような子でした。両親の友人の勧めで5歳からピアノを習い始めたら、エネルギーが全部ピアノに向かうようになったそうです」

 椅子に浅く腰かけ、リズムに合わせて髪を揺らしながら演奏するリシエツキ。若きショパンを連想させるその姿は愛らしくも凛々しく、聴き手をショパンの時代へといざない、いつしか共に旋律をうたっていることに気づく。
「幼いころからピアノひと筋の人生を送ってきました。ふつうの子どものように外で遊びまわることはありませんでしたが、ピアノが大好きですから悔いはありません。今後、自分の人生がどのように発展していくのか、とても興味がある。以前トルルス・モルクと共演してショパンのチェロ・ソナタを演奏したのですが、こんなすばらしい作品を演奏できるなんてと、音楽家になった喜びをかみしめました。今後も室内楽を多く演奏したい」




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