JOURNAL
ハルサイジャーナル
ハルサイライブラリー
2022/12/13
ヴヴヴのヴェルディ
第4回 仮面の向こうの素顔
文:飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
ヴェルディの「仮面舞踏会」のクライマックスは第3幕第3場。リッカルドを暗殺するために、レナートらが華やかな仮面舞踏会の会場にやってくる。仮装していればこちらの正体はわからない。襲撃者たちは仕事が容易になったと考える。 だが、小姓オスカルはレナートの仮装を見破って、声をかけてくる。レナートは小姓のマスクを外して、相手がオスカルであることを確かめる。そして、リッカルドがどんな仮装をしているかを聞き出す。もし、オスカルがレナートの仮装を見破らなければ、レナートだって誰が誰やら分からないまま、暗殺に失敗したかもしれないのに……。レナートはリッカルドを見つけ、そっと近寄って刺す。たちまち騒ぎになり、犯人のマスクが剥がされる。なんと、レナートがやったなんて! 人々が仮面舞踏会で身につけるマスクは、おおむね目の周りを覆うタイプのようだ。オペラである以上、口まで覆うようなフルフェイスのマスクは用いづらい。 そこではたと気づくのは、私たちも日々マスクを着用して人々と接しているということだ。「仮面舞踏会」のマスクは目の周囲を覆っていたが、現代のマスクは口元を覆っている。不織布のマスカレードはすでに3年目を迎えており、この間、何人もの初対面の人と名刺交換をしてきたが、知っているのはマスクを付けた顔のみ。素顔を見ても、はたして正しく相手を認識できるものか、いまひとつ自信がない。 パンデミックが過ぎ去った後、皆がマスクを外して集まったとき、だれがだれなのかよくわからない「逆仮面舞踏会」が自然発生する……かも!?