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ヴヴヴのヴェルディ

第3回 その占いは当たる

ヴヴヴのヴェルディ 第3回 その占いは当たる

文:飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

1859年のヴェルディ

 みなさんは占いは好きだろうか。
 ワタシはあまり好きではない。年が明ければいつも初詣に足を運ぶが、決しておみくじは引かない。ひと頃、血液型占いが大ブームになって他人に血液型を尋ねるのが挨拶代わりになっていたが、その度に「さあ……よくわからないんですよー」と答えていた(事実よくわからない)。えっ、動物占い? 自分、ニンゲンっす! ニンゲンで占ってください!
 そこまで占いを避けるのは、逆にいえば占いというものに恐れを抱いているからでもある。気にしない人間なら、迷わずおみくじを引ける。

 ヴェルディ「仮面舞踏会」の主人公リッカルドは、おそらく占いなど恐れていなかったのだろう。評判の女占い師ウルリカのもとに足を運んだのは、おもしろ半分の軽い気持ちだったはずだ。水夫がウルリカから「金と昇進を手に入れる」と占ってもらう様子を目にすると、リッカルドはこっそり昇進の辞令を書いて、水夫のポケットに入れてやる。水夫は占いが当たったと大喜びするが、それを実現させたのはリッカルドだ。リッカルドは自分が運命をコントロールしていると思っている。だが、ウルリカから見れば、そんなリッカルドの気まぐれまで含めて、正しく占ったことになる。
 ウルリカはリッカルドに「最初にお前の手を握った友人の手にかかって死ぬ」と予言する。そこに現れたのが忠実な友レナート。リッカルドは迷わずレナートと握手をして、占いは外れたと宣言する。

マクベスが魔女に出会う場面

 もちろん、ウルリカの占いは当たるのだ。オペラに登場する予言はいつも当たる。百発百中だ。同じヴェルディの「マクベス」でも、シェイクスピアの原作通り、魔女が予言を的中させる。「マクベスは王となり、バンコーは王になれないが、子孫が王となる」「バーナムの森が動かない限りマクベスは敗れない」「女から生まれた者にマクベスは倒せない」(マクベスは帝王切開によって産まれたマクダフに倒される)。ビゼーの「カルメン」では、カード占いがカルメンの不吉な運命を予告する。ベルリオーズの「トロイの人々」では王女カッサンドラが禍を予言するが、だれも聞く耳を持たない。オペラじゃないが、大河ドラマ「鎌倉殿」にもウルリカみたいな歩き巫女が登場して、不吉な予言を当てる。当たりすぎて怖い。
 逆に外してばかりの予言者が出てくる話って、ないものなんでしょうか。




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