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ヴヴヴのヴェルディ

第2回 熾烈!ヴェルディ対ヴェルディ

ヴヴヴのヴェルディ 第2回 熾烈!ヴェルディ対ヴェルディ

文:飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

東京・春・音楽祭2021イタリア・オペラ・アカデミー in 東京公演より©︎青柳 聡

 ヴェルディとヴェルディの静かな戦いが検索エンジンでくりひろげられている。
 ジュゼッペ・ヴェルディ対東京ヴェルディのことだ。ジュゼッペ・ヴェルディについて調べたいと思い、検索エンジンに「ヴェルディ」と入力したが、筆頭に出てくるのはJリーグの東京ヴェルディだった……。たいていのオペラ・ファンはそんな経験をしているのでは。
 Googleで「ヴェルディ」を検索すると、まず東京ヴェルディの直近の試合結果が大きく表示され、その後、東京ヴェルディの公式サイト等が続いて、ようやくWikipediaのジュゼッペ・ヴェルディが登場する(個人的な検索履歴が反映されないようにシークレットウィンドウを起動して試してみた)。同様にMicrosoft Bingで「ヴェルディ」を検索すると、やはり東京ヴェルディの直近の試合結果が表示された後、東京ヴェルディの公式サイト、Wikipediaのジュゼッペ・ヴェルディが続く。

 東京ヴェルディの「ヴェルディ」は作曲家の名前ではなく、ポルトガルの「緑」に由来する造語。サッカー界でヴェルディといえば読売クラブを前身とする名門クラブであり、かつての人気チームだ。しかし、近年はすっかりJ2に定着しており、J1で戦ったのは2008年が最後だ。以来、昇格は果たせていない。たまに味の素スタジアムに試合を観にいくが、客席は空いている。かつての栄光を思えば寂しいかぎりである。
 だが、イタリア・オペラ最大の巨匠ジュゼッペ・ヴェルディはそんな東京ヴェルディの後塵を拝している。ヴェルディのオペラはあんなに人気があるのに、人々の関心度は東京ヴェルディに及ばないと言うのか。がんばれ、オペラ。検索結果を目にするたびに、思わず心のなかで口にしたくなる。

 おそらく、オペラについて知りたくてつい東京ヴェルディのサイトをクリックしてしまう人もいるだろうし、なかには東京ヴェルディ・ファンがヴェルディのオペラについてのサイトに迷い込むこともあるだろう。
 いくぶん話をややこしくしているのは、ジュゼッペ・ヴェルディがサッカーとは無関係ではないという点だ。まもなくワールドカップも開幕するが、世界のサッカー・シーンで定番となっているチャント(応援歌)のひとつに、ヴェルディの「アイーダ」の「凱旋行進曲」がある。日本代表のチャントとしても使用される。勇ましい凱旋の場はスポーツ・シーンによく似合う。

 ジュゼッペ・ヴェルディとサッカーにはもうひとつ接点がある。かつて中田英寿も所属したセリエA(当時)のクラブにパルマがある。往年のスター、ジャンフランコ・ゾラを擁した黄金時代にUEFAカップ優勝を果たすなど、強豪の一角とみなされていた名門だ。このクラブが1913年に創設された際の名称がヴェルディFCなのだ。これはジュゼッペ・ヴェルディがパルマの生まれであることにちなんでいる。オペラ作曲家の名を冠したサッカークラブが誕生するあたりはイタリアならでは。その後、クラブは名称をパルマに変更した。
 ただし、パルマは2015年に破産している。いっときは栄光のヨーロッパ・チャンピオンに輝いたが、後に消滅する。「アイーダ」の筋書きと同じく、凱旋の後に訪れる結末は苦い。




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