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【山田五郎おすすめ!!】
文化のコンソメに音楽のトリュフを添えて

【山田五郎おすすめ!!】文化のコンソメに音楽のトリュフを添えて

文・山田五郎(評論家)


©︎Koji Iida

 上野恩賜公園の広さは約54ha。広大な印象がありますが、例えばニューヨークのセントラルパークと比べると6分の1にも満たず、世界の大都市にある公園の中ではむしろ狭い方です。けれどもその限られた敷地の中に、摺鉢山古墳や寛永寺五重塔や東照宮など長い歴史を物語る遺構が点在し、4つの美術館と2つの博物館、2つの音楽ホールに動物園や大学、図書館、資料館など、あらゆる文化施設が密集。その多くは収蔵品だけでなく建物自体も文化財なので、ただ散策するだけで歴史と文化に触れられます。これほど文化密度の高い公園は、世界にも例がないでしょう。

©︎Taira Tairadate

そんな上野恩賜公園を、桜咲くいちばんいい季節に音楽で満たしてくれるのが、東京・春・音楽祭。今年で19年目を迎え、上野の春の風物詩として当たり前の存在になっていますが、改めて考えればすごいイベントです。日本の文化が凝縮した空間で、世界中から集まった音楽家の名演が聴けるのですから。濃厚なコンソメに極上のトリュフの香りを添えるのにも似た、最高の贅沢といえるでしょう。いや、「春祭」を料理にたとえるなら、世界の一流シェフが腕を競い合うフルコースのバイキングというのが正解かもしれません。毎年、新たに登場する演目に加え、常連の指揮者や奏者が今年はどの曲を聴かせてくれるのか、考えただけでワクワクします。今年はリッカルド・ムーティの「イタリア・オペラ・アカデミー」がヴェルディの『仮面舞踏会』、ワーグナー・シリーズはマレク・ヤノフスキの指揮で『ニュルンベルクのマイスタージンガー』が上演されるとか。

ピアニスト佐藤卓史さん

美術が好きな私が楽しみにしているのが、「ミュージアム・コンサート」。毎年恒例の「東博でバッハ」シリーズに加え、今年は「エゴン・シーレ展」を開催中の東京都美術館でのピアニスト佐藤卓史さんのコンサートも気になります。同展でシーレと並んで作品が展示されているリヒャルト・ゲルストルは、作曲家ツェムリンスキーの妹で同じく作曲家シェーンベルクの妻だったマティルデとの道ならぬ恋の末に25歳で自ら命を絶った画家。佐藤さんは、そんな因縁のある2人の作曲家の作品を演目に加えてくれています。
国立西洋美術館では「憧憬の地ブルターニュ展」が開催中。フランスのブルターニュは独自のケルト文化が残り、19世紀後半にゴーガンら多くの画家が訪れた土地。大竹奏さんのフィドルによる同地方の舞踏曲のコンサートにはダンサーも参加して、知られざるフランスのケルト文化を垣間見せてくれそうです。 抜群の音響を誇る東京文化会館で開かれる大コンサートの素晴らしさは言うに及ばず、美術と音楽の関わりを通じて文化への理解を深めてくれる「ミュージアム・コンサート」もまた、美術館や博物館が世界一密集する上野恩賜公園でしか味わえない贅沢な体験だと思います。

山田五郎 やまだ・ごろう(編集者・評論家)

1958年 東京都生まれ
上智大学文学部在学中にオーストリア・ザルツブルク大学に1年間遊学し西洋美術史を学ぶ。
卒業後、㈱講談社に入社『Hot-Dog PRESS』編集長、総合編纂局担当部長等を経てフリーに。
現在は時計、西洋美術、街づくりなど、幅広い分野で講演、執筆活動を続けている。

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