JOURNAL

ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

ハッピー・バースデイ! マエストロからの直電

緊急事態宣言が延長された早春の東京。海外からの入国規制がどうなるのかなど、先行きが見えないなかで、予測できない事態への対応も協議しながらの開幕準備に追われる東京・春・音楽祭事務局です。「ふじみダイアリー」では、現在直面しているさまざまな課題や、準備の進捗状況などをお知らせしています。

 2月18日はマレク・ヤノフスキの82歳の誕生日でした。マエストロのバースデイといえば思い出すのが数年前のできごと。例年2月中旬は、1ヶ月後に迫った音楽祭開幕に向かって準備が佳境を迎える時期です。そんなある夜、ハルサイ事務局の電話が鳴りました。

「ハロー。みんな元気かな?」

 声の主はマレク・ヤノフスキです。細かな検討事項もマネージャー任せにせず、メールを使わないので連絡手段はおもに電話というマエストロ。「直電」はけっして珍しくありません。でもそのときは差し迫って相談するようなタスクは思い当たらなかったので、もしや何か一大事かと一瞬身構えました。しかし話題は東京の食事の話やお互いの近況、そして激励と、とくに急を要する内容ではなく、ホッとひと安心。

「ありがとう。じゃあまた東京で……」

 15分ほどお話しして電話を切った後で思い至ったのですが、その日が2月18日、マエストロの誕生日だったのです。もしかしてマエストロ、「おめでとう」を言ってほしくて東京まで電話してきたのかも? 気がつかなくてごめんなさい!

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 ヤノフスキのことを、気むずしい孤高の老巨匠だと思っている人が少なくないかもしれません。でも、それは間違い。芸術家らしい頑固な一面もあるものの、人と人とのつながりを大事にする、情に厚い優しい人なのです。

 彼と仕事を共にする人々はみんな、その人柄に惹きつけられているようです。ヤノフスキが指揮する東京春祭ワーグナー・シリーズの楽譜は、マエストロが2002年から2016年まで首席指揮者を務めたベルリン放送交響楽団の協力を得て、同楽団のライブラリーからレンタルしています。2016年シーズンで彼がベルリンのポストを退いたあとも、「そんなこと気にしないで。マエストロのためならいつでも喜んで!」と、変わらず協力を続けてくれているのです。もちろん今年の《パルジファル》も。現在ロックダウン中のベルリンで、オフィスに出勤するのも難しいなか、きっと無理をしてくれているはず。感謝です。

 ワーグナー・シリーズで共演するNHK交響楽団とのエピソードにもホンワカします。練習場に用意されるヤノフスキ用のイスのこと。

 リハーサルの休憩時、ヤノフスキは用意された控え室に戻らず、ずっとリハーサル室に残るのを習慣としています。彼流のコミュニケーション術なのでしょうけれども、正直、最初は歓迎されていなかったような気がします。だって休憩中に指揮者がうろうろしていたら気が休まりませんよね。でも年を追うごとに徐々にそれを受け入れる空気が漂い始め、とうとうリハーサル室内に専用イスが用意されたのです。「じゃあ、立ってないで、どうぞここにお座りください」という感じ。私たちはこのイスがオーケストラからの歓迎の印だと思っています。そんな両者は、今年も世界水準のワーグナーを聴かせてくれるにちがいありません。

 すでに1980年代からN響に客演を重ねてきたヤノフスキですが、21世紀に入ってからはしばらく共演が途絶えていました。それが、2014年のハルサイの《ラインの黄金》以降は順調に復活。次回は2022年5月のA定期に登場予定です。そういえば、2018年の《第九》を指揮することが決まったときも、マエストロはそれを「直電」で知らせてくれたのでした。

 Happy Birthday ! マエストロ。3月に東京で会いましょう!





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