JOURNAL

ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

できることをやるだけ。媚びない、ぶれない──鈴木幸一実行委員長とのおしゃべり

桜の開花とともに開幕した東京・春・音楽祭2021。1か月はあっというまに過ぎてゆき、4月23日(金)にはリッカルド・ムーティと東京春祭オーケストラによるモーツァルトの超熱演の興奮でフィナーレを迎え、そしてゴールデン・ウィーク明けの5月8日、9日にストリーミング配信した、ミュンヘンで事前収録した歌曲シリーズ2公演をもって全日程を終了しました。ハルサイ事務局も東京文化会館内の特設オフィスを引き上げて、千代田区富士見のオフィスに戻りました。
ご好評をいただいた「ふじみダイアリー」も最終回。ご愛読ありがとうございました。最後は、モーツァルトの公演直前にホールの楽屋でハルサイを振り返った、鈴木幸一実行委員長とのおしゃべりです。

なんとかゴールまでたどり着きました。

 今年はお客さんも演奏者も、音楽に飢えている気がした。やっぱりみんな、音楽のない生活が寂しくなってるんだと思う。演奏にも拍手にもいっそう熱がこもっているのを感じた。
  そこに最後にムーティさんがさらに火をつけてくれた。あそこまで感動的な演奏になるとは思わなかったけど。うれしかったのは若いオーケストラ。どんどんよくなって。どのオケよりいい。《マクベス》なんか最後のほう、終わるのが寂しかった。

開幕してからも海外勢の来日が決まらず、でも鈴木さんは一度もあきらめませんでしたね。

 

 そうね。できることを、いろんな努力をしながらやりましょう。それだけ。できることはできる。できないものはできない。あたふたしてもしょうがない。
  ワーグナー・シリーズのヤノフスキさんの《パルジファル》はやりたかったな。個人的には一番好きな作品だし、中止は残念だった。でもカタリーナさんの「子どもためのワーグナー《パルジファル》」は上演できたからね。まあ、まだこれから。長く見るほかない。
  開催の決定が遅くなると、チケットの販売期間も短くなってしまうから、採算を考えたら普通は難しかったと思う。でも採算だけで判断していたら、何かあったときに自分たちの意思が消えちゃう気がする。震災の時もそうだったけど、ここは過去17年間ずっと、方針が変わったことがない。
  むかしムーティさんがいいことを言ってた。「ともかく鈴木さん。自分が思うとおりに進めていくと、音楽祭になるんだ」って。どこもみんな、始めた人の名前は消えて、音楽祭だけが残っている。最初に一番お金を出して損をした人の名前は忘れられていく。鈴木さん、それが理想だ、と。だから、僕が死ぬ頃にいい音楽祭になるのかな(笑)。

媚びない、ぶれない。それは全体の雰囲気に出ていると思います。

 結構売れないものが好きなんだよね(笑)。
  でも、もうじき音楽祭は20年。50年先の将来とか、長くやるためにどういう形がいいのか真剣に考えている。僕も年齢的にあと10年持つかどうかわからないからね。これをずっと続けよう、みんなでやっていこう。それをどうやって実現していくか。こういうことがあると、やっぱりあらためて真剣に考えるよね。
  今は難しい時期だけど、生きた遺産としてきちっと残していきたい。そのためにはちゃんとした財政基盤がないと。
  でも少しずつ定着して、たくさんの企業がスポンサーとして協力してくれてる。苦しい時に頑張ると、鈴木さんクレージーだから応援しようっていう人が多いんだ(笑)。

ただ「お金を出してください」じゃなくて、鈴木さんは皆さんを気持ちで仲間にしようとしますよね。

 そう。洗脳してんの(笑)。今回、《マクベス》を珍しく聴きにきて、「鈴木さん、これすごいね」って言ってくれた人がいた。海外のオペラを招聘するんじゃなくて、ここで作り上げて、それで感動させるんだからすごいって。そうやってみんな、聴きに来れば音楽に目覚めてくれる。ハルサイのファンになってくれる。だから来年はまたもっと大々的に洗脳しようと思って(笑)。
  もちろん、将来音楽祭をもっと大きくするなら、スタッフのみんなには、もっと努力してほしいし、そのためには事務局としてもなにか変わらなきゃいけない。長く続け、発展するためにどうすればいいか。共感する人、一緒にやりたい人が集まるだけでは、いい企画は出ない。思いを実現するためにどうすればいいか真剣に取り組まないといけない。

来年に向けて、なにか決意を新たにしていることはありますか。

 同じだよ。できることはやろうってこと。最善の努力をして、それでもできなかったら、しょうがないと。あんまりぶれないでね。そのほうがみんなも安心するんじゃない? 頑張りましょう。

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 会場へお運びいただいた皆さま、ストリーミング配信をご視聴いただいた皆さま。東京・春・音楽祭2021へのご声援に、心より、深く感謝いたします。来年の東京・春・音楽祭2022にもどうぞご期待ください。次の桜の季節、できることならマスクを外してなんの憂いもなく音楽を楽しめる日常が戻っていることを祈りながら準備を進めてまいります。だから、またお目にかかるその日まで、なにとぞ健やかにお過ごしください。




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