JOURNAL

ふじみダイアリー 今日のハルサイ事務局

《パルジファル》公演中止の無念

いよいよ開幕目前。しかしそんなタイミングで1都3県の緊急事態宣言が再延長され、さらに出口が見えなくなっています。すでに、外国人アーティストが出演する一部の公演の中止という苦渋の決断をせざるを得ませんでした。今後も予断を許さない状況ではありますが、最悪の場合も頭の片隅に置きながら、とにかく開催準備を進めている東京・春・音楽祭事務局です。「ふじみダイアリー」では、現在直面しているさまざまな課題や、準備の進捗状況などをお知らせしています。

 東京・春・音楽祭の目玉でもあるワーグナー・シリーズですが、お知らせしたとおり、昨年の《トリスタンとイゾルデ》に続いて、今年の《パルジファル》も中止せざるを得なくなりました。説明するまでもなく、外国人出演者の入国のめどが立たないためです。ヤノフスキのワーグナーを楽しみにしてくださっていたファンの皆さまには、たいへん申し訳ないです。本当に無念です。ワーグナー・シリーズの公演中止は2011年の《ローエングリン》も含めて3回目。音楽祭にとっても大打撃です……。

 指揮者のマレク・ヤノフスキには、一日おきぐらいのペースでベルリンに電話して、状況を報告していました。マエストロ自身は最後まで訪日に前向きでした。何事も自分でやってしまうのがヤノフスキ流です。ベルリンの日本大使館に何度も出かけて、ビザの発行を請求していたのだそうです。でも当然ながら今それは無理。「頑固な職員がダメだって言い張る」と、いかにも不機嫌そうに報告してくるので、こちらは「あまりカッカしないでくださいね」となだめるのが役まわりになっていました。

 もしも予定どおり3月7日に宣言が解除されて日本への渡航が再開されていた場合には、3月11日にもベルリンを出発できるというので、一応その予定で飛行機を手配しようとしたところ、航空会社から「すでにマレク・ヤノフスキ様のお名前でご予約いただいております」という返事が返ってきました。どうやらマエストロが自分で手配したらしく、マネージャーは何も知らない様子。それどころかマネージャーからは、「最近マエストロに動きはないかしら。そちらで何か聞いてない?」と、逆にこちらに問い合わせがあったぐらいです。

 2月に82歳を迎えた大巨匠が、訪日のために、このようにとても意欲的に動いてくれたことに心から感謝しています。そのマエストロの信念が、わたしたちが最後まで可能性を信じてあがいた原動力になっていたと思います。

 結局先週末、現時点でも入国の見通しが立たないことを伝えると、寂しそうに、「私も年だから、これ以上不安定な状態のまま待つのは限界だ。リハーサルのスケジュールを考えると、もうリミットでもある。来週なかばまでに日本政府の判断が出ないのだったら、どうするべきか、われわれ自身で決めるべきじゃないか」とおっしゃって、最終的に3月10日の夜に公演中止という決断を下しました。公演に期待し、チケット発売を心待ちにされていたファンの方々に、決断が遅くなってしまったことをお詫びします。

 年齢を考えると、マエストロを日本に呼べる機会はだんだん限られてくるのかもしれませんが、今年の《パルジファル》も昨年の《トリスタンとイゾルデ》も、必ず上演を実現するべく可能性を探っていきます。なんとしてもこのコロナ禍を乗り越え、あの緻密で崇高な、現代最高峰のワーグナーを、桜満開の上野で聴ける春を、わたしたちと一緒にお待ちください。

 でも……。残念です。





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