JOURNAL

上野街歩き
2010/04/05

歩いてみよう、上野界隈

第四回「谷中、根津、千駄木」

コンサートの日、少し早めに家を出て、春の上野を散策してみると、新たな出会いがあるかも----。
情緒あふれる上野とその近隣の街をたずねる本コラム。最終回となる今回は、通称「谷根千」と呼ばれる、谷中〜根津〜千駄木をご紹介します。

文・網倉俊旨

谷中「夕やけだんだん」

東京の下町情緒漂う「谷根千」を歩く

 JR日暮里駅から谷中ぎんざ商店街にむかう道の途中に、「夕やけだんだん」と呼ばれる階段があります。名付け親は、地域雑誌『谷根千』の編集人をつとめた、作家の森まゆみさんです。1984年に創刊された『谷根千』は、谷中、根津、千駄木界隈が「谷根千」と呼ばれるきっかけをつくりましたが、残念ながら去年の8月に終刊となってしまい、現在はインターネットのサイト「谷根千ねっと」に引き継がれています。


 この地域は、山手線の内側であるにもかかわらず、戦災をあまり受けず、大規模な再開発も行われなかったため、いわゆる東京の下町の懐かしい風景が残っています。たしかに、「夕やけだんだん」から眺める美しい夕日と小さな商店が軒を連ねる谷中ぎんざの町並みは、多くの人が抱く「これぞ下町」というイメージに近いかもしれません。またこのあたりは、たくさんの猫と出会える「猫町」としても有名で、休日にはカメラを持った人たちが数多く集ります。


 「自雷也も蝦蟇(がま)も枯れたり団子坂」(「自雷也」とは歌舞伎などに登場する盗賊・忍者で、がまの妖術を使う)と正岡子規が詠んだ、文京区千駄木2丁目と3丁目の境を東へ下る団子坂は、幕末から明治末にかけて菊人形で有名だったところで、この坂の上にある観潮楼に住んだ森鷗外の『青年』をはじめ、江戸川乱歩の『D坂殺人事件』、二葉亭四迷の『浮雲』、夏目漱石の『三四郎』など、多くの文学作品に登場します。


 根津には、東京十社のひとつに数えられる根津神社があります。「根津権現」とも呼ばれるこの神社は、本殿、幣殿、拝殿が一体となった権現造の傑作と言われ、国の重要文化財に指定されています。ここは、つつじの名所でもあり、境内のつつじ苑では毎年4月から5月のゴールデンウィークに「文京つつじまつり」が開催されます(今年は4月9日~5月5日)。


 今の季節は、谷中霊園の桜も見逃せません。園内の中央園路は「さくら通り」とも呼ばれ、道の両側に植えられた満開の桜がつくりだす「桜のトンネル」は圧巻です。谷中霊園は、15代将軍の徳川慶喜をはじめ、長谷川一夫、横山大観、渋沢栄一、色川武大、森繁久彌など、数多くの著名人が眠っていることでも知られ、最近は「墓マイラー」と呼ばれる、有名人の墓参りを趣味とする人たちの聖地にもなっているそうです。
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