PROGRAMプログラム

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2018-

東京春祭マラソン・コンサート vol.8ロッシーニとその時代(没後150年記念)
~混乱の世を生き抜く知恵と音楽

2018年に没後150年を迎えるイタリアの作曲家ロッシーニ。激しい変化の最中にあったヨーロッパに生を受け、数々の有名オペラで一世を風靡しながらも、早すぎる引退の後に悠々自適の人生を送った傑物の生き方に迫ります。

プログラム詳細

2018:03:25:19:00:00

■日時・会場
2018.3.25 [日][各回約60分]
東京文化会館 小ホール

企画構成・お話:小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院 都市イノベーション学府教授)


【第 I 部】11:00開演(10:45開場)

悲喜こもごものロッシーニ劇場
悲劇喜劇を問わず、傑作オペラを次々と作ったロッシーニ。時にオペラの結末を無理矢理作り変えることさえおこなった、彼ならではの処世術。

■出演
ヴァイオリン:依田真宣平塚佳子
ヴィオラ:中村洋乃理
チェロ:湯原拓哉
コントラバス:髙橋洋太
ソプラノ:天羽明惠
メゾ・ソプラノ:富岡明子
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団
 テノール:岡本泰寛、高柳 圭
 バス:押見春喜、髙田智士
ピアノ:朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ | レーマン

■曲目
ロッシーニ(シェーンベルク編):歌劇《セビリアの理髪師》序曲 [試聴]
パイジェッロ:歌劇《セビリアの理髪師》 より 「退屈は禁物で」 [試聴]
ロッシーニ:
 歌劇《セビリアの理髪師》 より 「おいらは町の何でも屋」 [試聴]
 弦楽のためのソナタ 第6番 ニ長調 より 第3楽章 嵐 [試聴]
ハイドン:弦楽四重奏曲 第37番 ロ短調 Hob.III:37 より 第1楽章 [試聴]
ロッシーニ:歌劇《パルミラのアウレリアーノ》 より 「運命の時がやって来ました」 [試聴]
モーツァルト:歌劇《フィガロの結婚》 より 「準備はできた 〜 男たちよ、眼を開けろ」 [試聴] [試聴]
ロッシーニ:歌劇《タンクレディ》 より 「ああ、祖国よ! 〜 胸騒ぎに満ちて」 [試聴] [試聴]

ページの先頭へ戻る


【第 II 部】13:00開演(12:45開場)

辣腕興行師バルバイヤとの出会い
フランス革命、ナポレオンの台頭、保守反動の嵐...。乱世を逆手にとって頭角を現した稀代の興行師、バルバイヤとの交流に見る、若きロッシーニの姿。

■出演
ヴァイオリン:依田真宣平塚佳子
ヴィオラ:中村洋乃理
チェロ:湯原拓哉
ソプラノ:天羽明惠
メゾ・ソプラノ:富岡明子
テノール:糸賀修平
合唱:二期会合唱団
 ソプラノ:青木雪子、盛田麻央
 アルト:喜田美紀、実川裕紀
 テノール:岡本泰寛、高柳 圭
 バス:押見春喜、髙田智士
ピアノ:岡田 将朴 令鈴

■曲目
ロッシーニ(A.ペッシンガー編):歌劇 《オテッロ》 序曲
ベッリーニ:歌劇《ビアンカとフェルナンド》 より 「悩める父君を」 [試聴]
チマローザ:ソナタ ニ長調
ロッシーニ:歌劇《イングランドの女王エリザベッタ》 より 「心からの感謝を捧げ」 [試聴]
パガニーニ:モーゼ幻想曲 (ロッシーニの歌劇 《エジプトのモーゼ》 より 「汝の星をちりばめた玉座に」 のテーマによる序奏と変奏曲) [試聴]
ドニゼッティ:歌劇《ロベルト・デヴリュー》 より 「君に告げよう、この最後の涙の時に」
ロッシーニ:歌劇《湖上の美人》 より 「この瞬間にたくさんの愛が」 [試聴]

ページの先頭へ戻る


【第 III 部】15:00開演(14:45開場)

「ロッシーニ・フィーバー」の諸相
生誕の地イタリアはもとより、ウィーンやパリといったヨーロッパの大都市でも大成功を収め、話題をさらい続けたロッシーニ。彼の絶大な存在感がもたらした影響。

■出演
クラリネット:コハーン・イシュトヴァーン
メゾ・ソプラノ:富岡明子
テノール:糸賀修平小堀勇介
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団
 ソプラノ:青木雪子、盛田麻央
 アルト:喜田美紀、実川裕紀
 テノール:岡本泰寛、高柳 圭
 バス:押見春喜、髙田智士
ピアノ:岡田 将朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ | レーマン

■曲目
シューベルト:イタリア風序曲 第1番 ニ長調 D590 [試聴]
ロッシーニ:歌劇《ゼルミーラ》 より
 「運命よ! お前に従うのなら」
 「懐かしき地よ!」 [試聴]
ルドルフ大公:ロッシーニ変奏曲 (ロッシーニの 歌劇《ゼルミーラ》 より 「運命よ! お前に従うのなら」のテーマによる変奏曲)(抜粋)
ロッシーニ:歌劇《ラ・チェネレントラ》 より
 「二人の娘のどちらかが」 [試聴]
 「私はもう暖炉のそばで」 [試聴]
ディアベリ:ロッシーニ・ワルツ より (1, 2, 3, 5, Coda)
ロッシーニ:歌劇《コリントの包囲》 より 「敬愛するあなたを~偉大なる神は」

ページの先頭へ戻る


【第 IV 部】17:00開演(16:45開場)

英雄ウィリアム・テルの変容
ロッシーニにとって最後のオペラとなった《ウィリアム・テル》。革命の時代に市民階級の崇拝を集め、数多くの芸術家を魅了したスイスの英雄のイメージ。

■出演
ソプラノ:馬原裕子
テノール:糸賀修平小堀勇介
バリトン:吉川健一
合唱:二期会合唱団
 ソプラノ:青木雪子、盛田麻央
 アルト:喜田美紀、実川裕紀
 テノール:岡本泰寛、高柳 圭
 バス:押見春喜、髙田智士
ピアノ:岡田 将朴 令鈴

■曲目
J.シュトラウス1世:ヴィルヘルム・テル・ギャロップ [試聴]
A.グレトリー:歌劇《ウィリアム・テル》 より
 序曲 [試聴]
 「けっしてならぬ」
 「クレルヴォーのロンスヴォー」
 フィナーレへの転換曲
B.A.ウェーバー:劇音楽《ヴィルヘルム・テル》 より
 「草原よ さようなら」
 「天には雷鳴が轟き」
 「死の近づくのは早く」
 「農民の婚礼の行進」
ロッシーニ:歌劇 《ギヨーム・テル》 より
 「ティロリエンヌ」
 「我が父の庵よ~友よ、友よ」 [試聴] [試聴]
ロッシーニ(リスト編):歌劇《ギヨーム・テル》序曲

ページの先頭へ戻る


【第 V 部】19:00開演(18:45開場)

食えない男の痛快人生
37歳で実質的にオペラの筆を折ったロッシーニ。その後、40年近くに及ぶ「隠退」生活の中で生み出された作品に浮かび上がる、彼一流の世界観。

■出演
ソプラノ:鵜木絵里、熊田祥子馬原裕子
メゾ・ソプラノ:押見朋子
テノール:小堀勇介
合唱:二期会合唱団
 ソプラノ:青木雪子、盛田麻央
 アルト:喜田美紀、実川裕紀
 テノール:岡本泰寛、高柳 圭
 バス:押見春喜、髙田智士
ピアノ:岡田 将朴 令鈴
ピアノ・デュオ・タカハシ | レーマン
ハルモニウム:大木麻理

※ 当初、出演を予定しておりました天羽明惠(ソプラノ)は、喉の不調のため、代わりまして、鵜木絵里(ソプラノ)と熊田祥子(ソプラノ)が出演いたします。


■曲目
ロッシーニ(チェルニー編):《スターバト・マーテル》 より 「アーメン」 [試聴]
タドリーニ:《3つのアリエッタ》 より 「旅路の再会」
マイヤベーヤ:歌劇《ユグノー教徒》 より 「美しき地よ」 [試聴]
ピアーソル/ヴァイセ/(ロッシーニ):猫の二重唱 [試聴]
ロッシーニ:
 踊り [試聴]
 楽しい汽車の小旅行(滑稽描写) [試聴]
 《小荘厳ミサ曲》 より
  「クム・サンクト・スピリトゥ」 [試聴]
   「アニュス・デイ」 [試聴]

ページの先頭へ戻る


【試聴について】
[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、プログラム楽曲の冒頭部分を試聴いただけます。ただし試聴音源の演奏は、「東京・春・音楽祭」の出演者および一部楽曲で編成が異なります。


~春祭ジャーナル~


チケットについて チケットについて

■チケット料金(税込)

席種 全席指定
1日券
(5公演通し券)
第 I 部
(各回券)
第 II 部
(各回券)
第 III 部
(各回券)
第 IV 部
(各回券)
第 V 部
(各回券)
料金 ¥7,700 ¥2,100

 ■発売日
  一般発売:2018年1月28日(日)10:00

チケット予約・購入 お買い物カゴ トリオ・チケット

※1日券(5公演通し券)はトリオ・チケットの対象外です。

■曲目解説

小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院 都市イノベーション学府教授)

【第 I 部】悲喜こもごものロッシーニ劇場

ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)の代名詞で、喜劇オペラの傑作と言われる歌劇《セビリアの理髪師》。1816年にローマで初演されたこの作品、特に序曲は有名ですが、彼が既に発表していた《パルミラのアウレリアーノ》《イングランドの女王エリザベッタ》の2作品(しかも両方悲劇!)で用いられていた序曲を、使いまわしたものなのです。

元々《セビリアの理髪師》は、フランスの劇作家カロン・ド・ボーマルシェ(1732-99)が1775年に書いた同名の戯曲で、諷刺的な内容はフランス革命前後のヨーロッパで大人気となりました。こうした状況を受けて1782年に初演されたのが、イタリアの作曲家ジョヴァンニ・パイジエッロ(1740-1816)による歌劇《セビリアの理髪師》。本日は、主人公であるセビリアの理髪師=フィガロ登場の場面(「退屈は禁物で」)を、ロッシーニのそれ(「おいらは町の何でも屋」)と聴き比べていただきます。

ロッシーニがオペラ作曲家としてデビューする以前の少年時代、音楽の基礎的な勉強をしてゆく中で生まれたのが、1804年に作られた6曲からなる「弦楽のためのソナタ」です。本日は第6番目の作品の、「嵐」と名付けられた第3楽章を取り上げますが、第4部で演奏される歌劇《ギヨーム・テル》(ウィリアム・テル)の序曲に描かれた嵐の場面との比較もお楽しみください。

当時のロッシーニは、ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)やヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91)の作品も学んでゆきました。前者については1781年に書かれ、古典的な佇まいの中に「嵐」を予感させる第1楽章が特徴的な「弦楽四重奏曲 第37番」を。後者についてはボーマルシェが『セビリアの理髪師』の続編として発表した戯曲に基づき、1786年に初演された歌劇《フィガロの結婚》より、フィガロの歌う「準備はできた〜男たちよ、眼を開けろ」をどうぞ。

順番が前後しますが、先ほど触れた歌劇《パルミラのアウレリアーノ》(1813年にミラノで初演)からは、「運命の時がやってきました」をお聴きください。パルミラ王国の女王ゼノビアが、ローマ軍の侵略に対して戦いを決意する場面で歌われます。1813年にヴェネツィアで初演され、ロッシーニの出世作となった歌劇《タンクレディ》から「ああ祖国よ!〜胸騒ぎに満ちて」も、亡命の身だった主人公タンクレディが、祖国帰還への喜びと恋人との再会への期待を歌い上げるもの。フランス革命後の動乱期に生まれ育ったロッシーニが、実は喜劇だけではなく、悲劇も得意としていたことの証なのですが……。

ページの先頭へ戻る

【第 II 部】辣腕興行師バルバイヤとの出会い

イタリアオペラ界の若き才能として頭角を現したジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)。そんな彼を座付き作曲家としてナポリへ招聘したのが、当時この街の王立劇場の支配人を務めていた辣腕の興行師ドメニコ・バルバイヤ(1777-1841)でした。こうして生まれた歌劇の1つが、1816年に初演された《オテッロ》。ウィリアム・シェイクスピア(1564-1616)の悲劇に基づく作品ですが、序曲だけを聴くと、悲劇か喜劇か分からないノリのよさが特徴です。

ロッシーニ以外にもバルバイヤの目に止まった作曲家の1人が、ヴィンツェンツォ・ベッリーニ(1801-35)。1826年にナポリで初演された歌劇《ビアンカとフェルナンド》より「悩める父君を」は、王位を追われた父に対する、王子フェルナンドの苦渋の想いが込められた1曲です。 ロッシーニ以前にナポリで活躍した音楽家に、ドメニコ・チマローザ(1749-1801)がいます。歌劇を中心に幅広いジャンルで健筆をふるい、本日お聴きいただくニ長調の作品をも含め、鍵盤楽器のために夥しい数のソナタも書きました。

ナポリ赴任直後のロッシーニが、1815年に初演した悲劇が歌劇《イングランドの女王エリザベッタ》「心からの感謝を捧げ」は、主人公のエリザベッタ(エリザベス1世 [1533-1603])が、廷臣レイチェステル(レスター伯爵ロバート・ダドリー[1533-88])の勝利への喜びと、彼への秘かな想いを込めて歌う1曲ですが、初演でこの役を歌ったのが、バルバイヤの愛人だったイザベラ・コルブラン(1784-1845)でした。

ロッシーニの同時代人で、超絶技巧のヴァイオリニストとして名を馳せたニコロ・パガニーニ(1782-1840)。1818年にナポリで初演されたロッシーニの歌劇《エジプトのモーゼ》に感銘を受けて書かれたといわれるのが、いわゆる「モーゼ幻想曲」ですが、作曲年などの詳細は分かっていません。

バルバイヤとナポリ繋がりということでは、ガエターノ・ドニゼッティ(1797-1848)も忘れられません。1837年にナポリで初演された歌劇《ロベルト・デヴリュー》は、エリザベス1世の寵臣ロベルト・デヴリュー(1565-1601)を主人公にした愛憎劇で、「君に告げよう この最後の涙の時に」は、謀反の疑いで処刑されることになったデヴリューが、自らの無実と潔白を訴える1曲です。

《湖上の美人》は、1819年にナポリで初演されたロッシーニの歌劇。ウォルター・スコット(1771-1832)の叙情詩を原作にしており、「この瞬間にたくさんの愛が」は、ハッピーエンドの幕切れにあたり、主人公のエレナによって歌われる喜びの1曲です。なお初演でこの役を歌ったのも、コルブランでした。

ページの先頭へ戻る

【第 III 部】「ロッシーニ・フィーバー」の諸相

第2部でご紹介した興行師ドメニコ・バルバイヤ(1777‐1841)は、経営手腕を買われ、ウィーンのケルントナー門劇場の支配人にも就任します。そこでバルバイヤは、人気沸騰中のジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)を呼び寄せ、この街でロッシーニ・フィーバーを巻き起こしました。1817年に作られたフランツ・シューベルト(1797-1828)の「イタリア風序曲 第1番」も、ロッシーニ・フィーバーの前触れをなす作品です。

ロッシーニのウィーン滞在中に上演された新作が、1822年初頭にナポリで初演されたばかりの歌劇《ゼルミーラ》でした。ギリシアのレスボス島をめぐる政争と愛憎の物語ですが、「運命よ!お前に従うのなら」は、王位簒奪者が自らの支配へ欲望を滾らせた1曲。このメロディはウィーンで人気となりました。そしてルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827)の弟子でありパトロンでもあったルドルフ大公(1788-1831)もこのメロディを基に、クラリネットとピアノのためのいわゆる「ロッシーニ変奏曲」を作りました。順番は前後しますが、本日はこの歌劇からもう1つ、戦争に勝利し、混乱するレスボス島へ戻ってきた王子が、帰還の喜びと家族との再会への期待を歌う「懐かしき地よ」もお楽しみください。

歌劇《ラ・チェネレントラ》は、1817年にローマで初演され、その後ウィーンでも大人気を博した作品です。童話の『シンデレラ』(イタリア語で『チェネレントラ』)を下敷きとしていますが、魔法の類は登場せず、登場人物も異なります。「二人の娘のどちらかが」は、チェネレントラの姉2人が玉の輿に乗ることを妄想する継父の歌、ロッシーニの喜劇に特有の早口言葉が聴きものです。「私はもう暖炉のそばで」は、ハッピーエンドの幕切れを飾る、チェネレントラの歓喜の歌となっています。

このようなロッシーニ・フィーバーにあやかった1人が、ウィーンで活躍した楽譜出版商のアントン・ディアベリ(1781-1858)。彼はロッシーニの幾つもの歌劇に登場する有名メロディを基に、一般家庭で演奏されることを目的に「ロッシーニ・ワルツ」を作曲、1821年にはピアノ独奏版を出版しました。

ヨーロッパ中で引っ張りだことなったロッシーニは、その後ロンドンを経て、パリに腰を落ち着けますが、そこで1826年に初演されたのが歌劇《コリントの包囲》。1820年にナポリで初演された歌劇《マホメット2世》の改訂版にあたり、フランス語の台本が基となっています。「敬愛するあなたを〜偉大なる神は」は、コリント島を包囲したトルコ軍に対し、島の人々に徹底抗戦を訴える軍隊長の熱い呼びかけの1曲です。

ページの先頭へ戻る

【第 IV 部】英雄ウィリアム・テルの変容

ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)が1829年にパリで初演した歌劇の主人公にして、歌劇のために書かれた「序曲」が本編以上に広く知られているウィリアム・テル(なお「ウィリアム・テル」は英語読みで、ドイツ語では「ヴィルヘルム・テル」、フランス語では「ギヨーム・テル」といいます)。ウィーンのダンス音楽界に君臨したヨハン・シュトラウス1世(1804-49)も、序曲のクライマックスを成す行進曲の部分をほぼそのまま転用して、この歌劇がウィーンで上演される以前の1829年に、「ヴィルヘルム・テル・ギャロップ」を発表するという便乗商法をおこなったほどです。

テルは14世紀にスイスにいたといわれる人物で、神聖ローマ帝国に支配されていたスイスが独立するきっかけを作った英雄と崇められてきました。そんなテルの伝説は、18世紀後半になると、王侯貴族の支配を覆し自由を求める市民の間で、人気を博すようになってゆきます。1789年に勃発したフランス革命がまだ熱気を帯びていた最中の1791年にパリで初演された、アンドレ=エルネスト=モデスト・グレトリ(1741-1813)の歌劇《ギヨーム・テル》はその代表作。本日は序曲に始まり、テルの宿敵である悪代官のゲスラーが歌う「けっしてならぬ」、テルとともにスイスの人々が団結しゲスラー打倒を誓う「クレルヴォーのロンスヴォー」、スイス解放に向けたフィナーレへの転換曲を取り上げます。

ドイツの詩人フリードリヒ・シラー(1759-1805)もテル伝説に魅せられ、1804年に戯曲『ヴィルヘルム・テル』を初演。それに際して劇音楽を書き下ろしたのが、ベルンハルト・アンゼルム・ウェーバー(1764-1821/歌劇《魔弾の射手》等で有名なカール・マリア・フォン・ウェーバー [1786-1826] とは別人)です。その中から今回は、牧童の歌う「草原よ さようなら」、狩人の歌う「天には雷鳴が轟き」、僧侶の合唱曲「死の近づくのは早く」、さらに「農民の婚礼の行進」をお聴きいただきます。

このシラーの戯曲を基に作られたのが、ロッシーニの歌劇《ギヨーム・テル》。なおこの作品は、彼にとって図らずも最後の歌劇となってしまいました。そんな因縁の歌劇から、スイスはチロル地方の民族舞踊をイメージした「ティロリエンヌ」、囚われの身となったテルを解放し、祖国独立に向けて立ち上がる若者とスイスの人々の熱い思いが一体となる「我が父の庵よ〜友よ、友よ」。そして、スイスの自然を背景に、圧政の嵐やそれに対する闘いといった、歌劇の筋書きそのものを彷彿させる「序曲」をお楽しみください。

ページの先頭へ戻る

【第 V 部】食えない男の痛快人生

1830年にフランスで起きた七月革命により、ジョアッキーノ・ロッシーニ(1792-1868)は契約打ち切りや年金受給の停止といった危機に見舞われます。結果、30歳代でオペラ創作の筆を折った彼は、フランス新政府を相手にした裁判に勝訴。手にした莫大なお金を基に、美食三昧の悠々自適な生活を送るようになりました……。

ただしその後、心身の疲れや不摂生から来る体調不良、母の死などに見舞われる中、1830年に着手するも未完のまま放置され、1841年になって完成された宗教曲が《スターバト・マーテル》(悲しみの聖母)です。本日はその中から、悲痛な感情が怒涛のごとく押し寄せる「アーメン」を、ピアノ編曲版でお聴きいただきましょう。

なおロッシーニは一時《スターバト・マーテル》の補筆を、知人であるジョヴァンニ・タドリーニ(1789-1872)に依頼していました(結局、自力で全曲を完成させますが)。そんなタドリーニが作曲し、1836年に出版された《3つのアリエッタ》から、「旅路の再会」を取り上げます。

ロッシーニに代わって、パリを中心にオペラ界の寵児となったのが、ジャコーモ・マイアベーア(1791-1864)です。彼の代名詞ともいえる、いわゆる「グランド・オペラ」の代表作の1つで、1836年に初演された歌劇《ユグノー教徒》から、本日は「美しき地よ」をお楽しみください。

ところでロッシーニの名声を物語る証拠として、「ロッシーニ作」の触れこみで勝手に曲が出回るという場合がありました。デンマークのクリストフ・エルンスト・フリードリヒ・ヴァイセ(1774-1842)による「猫のカヴァティーナ」を基に、イギリスのロバート・ルーカス・ピアーソル(1795-1856)が、ロッシーニの歌劇《オテッロ》の旋律を交えて1825年に偽名で出版し、長らくロッシーニ作と信じられてきた「猫の二重唱」もその1つです。

逆にロッシーニ自身が、知人友人を招いたサロン等、プライヴェートの場での披露を念頭に書いた曲も多数あります。この演奏会では、1835年出版の『音楽の夜会』に収められ、独唱が早口で活躍する「踊り」と、1850年後半以降断続的に作られた『老年のいたずら』所収のピアノ独奏曲「楽しい汽車の小旅行」をお聴きいただきます。

《小荘厳ミサ曲》は、銀行家のアレクシ・ピレ=ヴィル(1805-71)の邸宅での上演を目的に書かれたと言われる、声楽、ピアノ2台、ハルモニウム1台という変わった編成の作品です。初演はロッシーニ晩年の1864年。ジャズのようなノリに満ちた「クム・サンクト・スピリトゥ」、作曲者自身が激動の人生を静かに振り返るかのような「アニュス・デイ」で、今年のマラソンコンサートを終えましょう。

ページの先頭へ戻る

主催:東京・春・音楽祭実行委員会 後援:日本ロッシーニ協会 協力:ウィーン楽友協会資料館


※掲載の曲目は当日の演奏順とは異なる可能性がございます。
※未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる可能性がございますが、出演者・曲目変更による払い戻しは致しませんので、あらかじめご了承願います。
※チケット金額はすべて消費税込みの価格を表示しています。
※ネットオークションなどによるチケットの転売はお断りいたします。

(2018/03/25更新)

ページの先頭へ戻る