HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2012/02/10

ようこそハルサイ〜クラシック音楽入門~
ヨハン・セバスティアン・バッハとライプツィヒ

文・後藤菜穂子(音楽ライター)

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ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)

 バッハゆかりの街といえば、ドイツのライプツィヒがまず思い浮かぶのではないでしょうか。彼が活躍した聖トーマス教会は現在も街の中心部に建っており、教会前の広場にあるバッハ像は、道行く人々を見守っているかのようです。バッハが指導した聖トーマス教会合唱団は、当時すでに由緒のある合唱団で、今年なんと創立800周年を迎えたということです。

 バッハがライプツィヒの職を得たのは1723年、彼が38歳の時でした。それまでも教会のオルガニストとして、また宮廷音楽家としてドイツのさまざまな都市を渡り歩いてきたバッハでしたが、ようやくライプツィヒに定住の地を見出し、1750年に亡くなるまでこの地にとどまることになります。彼の職務はトーマス学校の生徒を教え、合唱団を訓練し、さらに市内の4つの教会のために毎週教会音楽を提供することでした。敬虔なキリスト教徒であったバッハは勤勉に職務に励み、驚くほど完成度の高い作品を次々と生み出しました。その中でも最高傑作といえるのが《マタイ受難曲》(speaker.gif[試聴])および《ヨハネ受難曲》(speaker.gif[試聴])でしょう。

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トーマス教会の前のバッハ像 ©LTM/Schmidt

 すぐれた教育者でもあったバッハは、妻のアンナ・マグダレーナや息子たち(ヴィルヘルム・フリーデマン、カール・フィリップ・エマヌエルら4人の息子たちがのちに音楽家になりました)、そして多くの弟子たちのために数々の鍵盤作品を作曲しました。現在でもピアノ学習者にとってはおなじみの《インヴェンション》(speaker.gif[試聴])をはじめ、《フランス組曲》(speaker.gif[試聴])《イギリス組曲》(speaker.gif[試聴])や《平均律クラヴィーア曲集》(speaker.gif[試聴])などは、弟子たちの教材として少しずつ書きためたものを、のちに曲集としてまとめたと考えられます。

 とりわけバッハの器楽曲を聴くときに感嘆するのは、バッハが一見シンプルな楽想やテーマからあらゆる発展、展開の可能性を見出し、緻密に構築された作品を創り出すことです。しかもけっしてドライではなく、心に響く豊潤な音楽なのです。その最たる例は、ライプツィヒ時代の集大成ともいうべきチェンバロのための《ゴルトベルク変奏曲》(speaker.gif[試聴])でありましょう。シンプルかつ優美なテーマを素材に、技巧と工夫を凝らした30の変奏が繰り広げられさまは、まるで万華鏡のようです。今回の「東京・春・音楽祭2012」では、「東博でバッハ」シリーズのひとつとして、《ゴルトベルク変奏曲》を弦楽五重奏の編曲でお楽しみいただきますが、その見事な構築性ゆえにバッハの作品は他の楽器や編成に編曲されても、その真髄が失われることはないのです。



~関連公演~
「東博でバッハ」
【2013】


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