春祭ジャーナル 2017/12/22
ロッシーニに学ぶデキる男の仕事術
第2回 グルメをきわめるセカンドライフ編
文・飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
37歳の若さであっさりとオペラから引退してしまったロッシーニ。しかし、彼の人生はそこからが並外れている。ロッシーニは筋金入りの食通として社交界で名を馳せたのである。
これは作曲家がただの食いしん坊になったという話ではない。美味を追求し、料理を創案し、とりわけトリュフとフォアグラを使った料理にその名を残すことになったのだ。現在でもフランス料理に「ロッシーニ風」と名のついたメニューがしっかりと定着している。たとえば、フォアグラとトリュフをぜいたくに組み合わせた「牛ヒレ肉のロッシーニ風」といったように。
牛ヒレ肉のロッシーニ風
食べログで「ロッシーニ風」を検索すると、ヨダレがこぼれそうになるようなメニューが次々と見つかる。「宮崎県産黒毛和牛ヒレ肉とフォアグラのロッシーニ風」「鴨肉とフォアグラのロッシーニ風」「ミンク鯨と鮟肝のロッシーニ風」......。おいしそう、でも健康的とはいいがたいのがロッシーニ風。極めつけはあるグルメ関連サイトで出会った次の記述だ。
「ロッシーニは、イタリアにオペラを広めた大作曲家としての側面もあります」
そう......だよね。料理並みに有名な曲も書いてるから!
こうなるとロッシーニの第一の功績はオペラなのか料理なのかわからなくなってくる。ロッシーニのオペラと同じように、彼の料理も味わってこそ、ロッシーニの本質が理解できるのではないか。ただ音楽を聴くだけではなく、「ロッシーニ風」を賞味すべきなんじゃないか。そう思うものの、そのためにフランス料理店に行くのもな......と躊躇したところでハタと気づく。
ここは食べログよりもクックパッドを頼りにすべき場面では!?
クックパッドで検索すると、出るわ出るわ、ロッシーニ風ステーキのレシピが。
うん、これならわが家でもロッシーニ風が作れそうだ。材料は牛ヒレ肉、バター、赤ワイン、バルサミコ酢、しょうゆ、砂糖、塩、コショウ、フォアグラ、小麦粉。ふむふむ、作り方は簡単だ。ステーキを焼く。フォアグラは小麦粉をまぶしてカリッときつね色に焼く。赤ワインソースを作って、盛り付けたステーキとフォアグラにかければできあがり。一般家庭で作るにはフォアグラのハードルが少々高い。しかし妙手がある。鶏レバーを茹でてから、すり鉢ですって代用するのだ(この分野の名著『明るい食品偽装入門』魚柄仁之助著を参考にしたい)。
今晩のおかずはロッシーニ風ステーキで決まり。期待感をロッシーニ・クレッシェンドで高めながら、買い物に出かけよう。
(つづく)
ロッシーニに学ぶデキる男の仕事術
第1回 夢の早期リタイア編 |
第2回 グルメをきわめるセカンドライフ編 |
第3回 爆速仕事術編
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