PROGRAMプログラム

■曲目解説

シューベルトの室内楽

アルペジオーネ・ソナタ

ウィーンの楽器製作者シュタウファーが1823年に発案した「アルペジオーネ」というフレット付きの弦楽器は、いわばチェロのように弾くギターだったが、普及には至らなかった。本作は、そのアルペジオーネのために書かれたものとしてはおそらく現存する唯一の楽曲で、ヴィオラ、チェロ、ギターなど様々な楽器で演奏されている。音楽的にはシューベルトならではの哀愁が存分に感じられ、今日に至るまで広く愛聴されている。

ヴァイオリンとピアノのためのソナチネ 第２番

３曲の短いソナタが作曲されたのは1816年、若きシューベルトが代用教員を辞して、気ままなボヘミアン生活に入りたての頃である。おそらく家庭コンサート用に書かれたであろうこれらの曲は、シューベルトの死後「ソナチネ集」として出版された。３曲のなかで第２番は、音楽的にも規模としても最も充実した作品と言える。第１楽章アレグロ・モデラートは、ソナタ形式。冒頭の劇的な跳躍から印象的だが、その後、２分音符で引き伸ばすように歌うヴァイオリンの主題旋律も美しい。第２楽章アンダンテは変奏曲形式で、素朴な祈りのような佇まいがある。第３楽章のメヌエット、アレグロは主部がニ短調で、トリオが変ロ長調となる。第４楽章アレグロは、ロンド形式。短調と長調のせめぎ合いが絶妙な明暗の移り変わりをみせて、最後は思い切りよく曲を閉じる。

八重奏曲

1824年、クラリネットの名手トロイヤー伯爵の依頼で作曲。伯爵は、当時ウィーンで評判だった「ベートーヴェンの七重奏曲に匹敵する作品」を望んだという。こうした成立事情により完成された作品は、編成こそヴァイオリンが１本追加されているものの、調性関係や楽章数、楽章配列等、様々な点でベートーヴェンの七重奏曲に相似している。しかしシューベルトは、そこに抒情あふれる旋律美を織り込み、交響曲を見据えたスケールの大きな響きを追求している。全６楽章からなり、第１楽章は序奏を伴うソナタ形式。旋律に感じられる温かみが、いかにもシューベルトらしい。第２楽章アダージョではクラリネットがロマン的な旋律を奏でる。初演ではトロイヤー伯爵がクラリネットを担当した。第３楽章は力強く活気あふれるアレグロ・ヴィヴァーチェ。トリオでは気分を変えて、優しい雰囲気に満たされる。第４楽章アンダンテの主題は自作のジングシュピールから採られており、８つの変奏とコーダが続く。第５楽章は穏やかな舞曲調の主題によるメヌエット。そして第６楽章は、一転して嵐を予感させるような低弦のトレモロによる悲劇的な序奏で始まる。主部に入ると、トリルに飾られた第１主題とクラリネットによって軽やかに奏される第２主題とが、躍動感に満ちた世界をつくり、目まぐるしく転調を繰り返して盛り上がる展開部を経て、再現部の後にはまた序奏の悲劇的な影がよぎるが、最後は明るさを取り戻したコーダで気持ちよく全曲を締めくくる。

主催：東京･春･音楽祭実行委員会

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（2017/04/04更新）