東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2016-
東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.3レスピーギ ―《ローマ3部作》を生んだ作曲家の知られざる素顔
交響詩で有名なイタリアの作曲家<レスピーギ>。作曲家、音楽学者、指揮者、弦楽器奏者など多忙を極めた彼の人生は、イタリア古楽への深い愛情で溢れていました。室内楽におけるレスピーギ の知られざる一面と功績を発見する貴重な一夜です。
プログラム詳細
2016:03:20:18:00:00
2016.3.20 [日・祝] 18:00開演(17:30開場)
上野学園 石橋メモリアルホール
■出演
ヴァイオリン:久保田 巧、渡邉ゆづき
ヴィオラ:柳瀬省太
チェロ:長谷部一郎
メゾ・ソプラノ:成田伊美
テノール:与儀 巧
ピアノ:河原忠之、寺嶋陸也
お話・企画構成:原口昇平
■曲目
レスピーギ:
ヴァイオリン・ソナタ ロ短調

「古風な5つの歌」より
I. ときおり耳にするのだ
V. エンツォ王のカンツォーネ
グレゴリオ旋法による3つの前奏曲 より

ダンヌンツィオ『楽園詩篇』 より 4つの抒情詩

ドリア旋法の弦楽四重奏

【試聴について】

~春祭ジャーナル~
チケットについて
■チケット料金(税込)
席種 | 全席指定 | U-25※ |
---|---|---|
料金 | ¥2,600 | ¥1,500 |
残席状況 | 本公演は終了いたしました。 |
■一般発売日
2016年1月31日(日)10:00
※ U-25チケットは、2016年2月12日(金)12:00発売開始
(公式サイトのみで取扱)

原口昇平(音楽文芸、翻訳家)
オットリーノ・レスピーギの音楽の特徴は、代表作「ローマ三部作」を飾る華やかな管弦楽法よりもむしろ、まずはよくできていて、しかもわかりやすいということにある。
実際、この点で彼の音楽は同時代のなかでも際立っている。20世紀前半という〈前衛〉の時代、多くの芸術家が、たびたび評論やインタビューのなかで独自の美的理念や主義主張を唱えては、斬新な表現語法やスタイルを開発し、個々の作品のなかで実践してみせた。しかしオットリーノは、黙して語らず、すでによく知られている音楽作品に向き合い、既存の表現語法を自分のものになるまで消化してから、表現したいものを表現するために組み合わせた。
よくできているという印象にせよ、わかりやすいという感覚にせよ、いずれも彼の音楽がすでに名作と認められた古典によくのっとっていることから生じている。管弦楽法でさえ、もとはといえばリムスキー=コルサコフから受け継いで発展させたものだ。
オットリーノは、新しい理念や語法を創出する芸術家というよりはむしろ、学び取った技法を目的に応じて適切に使い分けていく職人だった。
《ヴァイオリン・ソナタ》(1917)では、卓越したヴァイオリニストとしての自身の経験を活かし、ブラームスからフランクまでの先人たちによる取り組みの精髄を結集し、数々の代表作に自ら活かしていくことになる技法の礎を築いた。
《古風な5つの歌》(1908)では、最も古いイタリア語詩から着想を得ながら、パリゾッティ編《イタリア古典歌曲集》(1885-94)のスタイルを踏襲し、簡潔ながら力強い声楽曲を編み出し、やがて管弦楽組曲《リュートのための舞曲とアリア》I - III(1917, 1923, 1931)などに発展していく古典趣味を表しはじめた。
《グレゴリオ旋法による3つの前奏曲》(1921)では、ドビュッシー《版画》《映像》の数曲の響きから異国情緒を差し引いて、代わりにグレゴリオ聖歌に基づく素材と自分らしい歌心を加え、ほぼ独学で身につけたといわれる特徴的なピアノ奏法を盛り込んだ。これら前奏曲はのちに作曲家自身によって管弦楽編曲され、交響的印象《教会のステンドグラス》(1925)に組み込まれる。
《ダンヌンツィオ『楽園詩篇』より4つの抒情詩》(1920)では、まず、88編を収めた詩集から4つの詩を選び出して配列しなおし、詩の語り手「私」をめぐる物語を仕立てた。そして1曲ごとに、後期ロマン主義の変転する調性、印象主義の旋法や響き、自分自身の1910年代の無調へ近づく和声、新古典主義のスタイルなどを採用した。そうすることで、20世紀初頭の西洋音楽史の展開を振り返りつつ、自己の内省から古い美の発見と再生へ向かうというテーマを表現しようとした。
《ドリア旋法の弦楽四重奏曲》(1924)では、主顕祭の晩課で歌われる聖歌の自由な変形に基づく主題を、しばしば断片化しながら周期的に立ち帰らせ、印象深いラプソディ風の単一楽章を織り上げてみせた。
自分の夢想を言葉で語ろうとはせず、音楽のなかで生き続けた職人。幼い頃から死や暴力をひどく忌み嫌い、円熟してからも不穏な政治状況に背を向けていた彼は、夢想のなかで古典とモダンのあいだを自由に行き来し、古きよき美をいま・ここによみがえらせようとした。しかしその個人的な夢想は、きわめて皮肉にも当時の危険な独裁者に気に入られるほど、時代の熱病を捉えてしまったかもしれない。本人は国際的な人気のおかげで権力に媚びずに済んだとはいえ、彼の死後、同世代の作曲家カゼッラは1941年に次のように書かなければならなかった。「彼の芸術家としての個性をまったく望ましいほど平静に評価する機会は、おそらくまだ到来していない」。それから75年。オットリーノ・レスピーギは、私たちの再評価を待ち続けている。
主催:東京・春・音楽祭実行委員会 特別協力:上野学園 石橋メモリアルホール
※掲載の曲目は当日の演奏順とは異なる可能性がございます。
※未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる可能性がございますが、出演者・曲目変更による払い戻しは致しませんので、あらかじめご了承願います。
※チケット金額はすべて消費税込みの価格を表示しています。
※ネットオークションなどによるチケットの転売はお断りいたします。
(2016/3/18更新)