HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2016/02/27

ようこそハルサイ~クラシック音楽入門~
いくつもの顔を持つレスピーギ

文・飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)


 レスピーギはもっと語られるべき作曲家だと思う。決して人気がないわけではなく、むしろ人気作曲家であるはずなのだが、その割にはレスピーギについて熱く語っている人を見かけない。一部の作品だけが突出して演奏され、創作活動の全体像や人物像についてはあまり焦点が当てられていないからだろうか。裏を返せば、聴き手にとってまだまだ開拓しがいのある作曲家ともいえる。

オットリーノ・レスピーギ(1879-1936)

 レスピーギの代表作はなんといっても《ローマ三部作》。交響詩《ローマの噴水》 [試聴]《ローマの松》 [試聴]《ローマの祭》 [試聴]は、コンサートでもレコーディングでもよく取りあげられる。また、これらの作品に吹奏楽版の編曲で出会ったという方も少なくないはず。抜群の演奏効果を誇る名曲である。

 レスピーギが生まれたのは1879年、ボローニャにて。主要作品は20世紀に入ってから生まれている。1936年に56歳で世を去っており、活動期間は決して長いとはいえない。経歴でおもしろいのは、20代前半でロシアに渡っている点だろうか。ペテルブルグ劇場のヴァイオリン奏者を務めるとともに、管弦楽法の大家リムスキー=コルサコフに師事している。後の作品群に聴かれる鮮やかで色彩的なオーケストレーションは、リムスキー=コルサコフに学んだ賜物だろうか。

 オーケストレーションに加えて、もうひとつ作曲家レスピーギを特徴づけているのは、古楽への情熱だ。主にバロック期までの古いイタリア音楽を研究し、その成果を存分に自作に反映させている。この分野の代表作は《リュートのための古いアリアと舞曲》 [試聴](第1組曲) [試聴](第2組曲) [試聴](第3組曲)。16~17世紀のさまざまな作曲家によるリュート曲を選んで、20世紀のオーケストラ/弦楽合奏のために編曲した。3つの組曲が書かれているが、もっとも広く知られるのは第3組曲の「シチリアーナ」 [試聴]。テレビCMなどにも使われている。

  古楽由来の作品はほかにもいくつもある。バロック期の鍵盤楽器作品を用いた《鳥》 [試聴]、「ヴァイオリン協奏曲《グレゴリオ聖歌風》」 [試聴]、《ドリア旋法の弦楽四重奏》 [試聴]、《グレゴリオ旋法による3つの前奏曲》 [試聴]、等々。「《パッサカリアとフーガ》ハ短調」 [試聴]など、バッハ作品のオーケストラ編曲もある。

 現代人の古楽に対する基本的な姿勢として、「作曲された当時の姿を尊重する」という原則があると思うが、レスピーギの関心は古い時代の再現にはない。古い音楽はあくまで自由に用いることができる素材であって、新たな作品の創造のためのものだった。古楽への関心は当時よりも現在のほうがはるかに高まっているが、原典尊重の考え方が浸透した今では《リュートのための古いアリアと舞曲》のような作品はまず書かれそうにない。

 レスピーギの創作活動は案外幅広い。彼は歌曲の作曲家であり、またオペラ作曲家でもあった。室内楽の分野でもヴァイオリン・ソナタや弦楽四重奏などを残している。レスピーギは《ローマ三部作》だけからはうかがい知れないような、いくつもの顔を持っている。

 今年、東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.3では、日ごろ聴く機会の少ないレスピーギ作品が演奏される。これを聴けば、レスピーギについて熱く語りたくなる、かも。


【試聴について】
[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、プログラム楽曲の冒頭部分を試聴いただけます。



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