HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2012/02/24

ようこそハルサイ〜クラシック音楽入門~
楽器にも訪れた産業革命が、音楽の可能性を広めた

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文・オヤマダアツシ(音楽ライター)

 「工場萌え」という言葉をご存知だろうか。「萌え」は簡単に言ってしまえば愛情表現の一種。「フェチ」という言葉(または意識)に近いだろう。「工場萌え」は、工場群が織りなす疑似生物的な営みや、重厚なフォルムなどに極度の愛情を感じてしまう現象のことを指す。実は筆者も「工場萌え」のひとりなのだ。

 そうした感覚で楽器(特にピアノなどの鍵盤楽器、管楽器など)に目をやると、見事なフォルムのボディやキー・システムを有する美しさに惹かれる。特にホルンやトランペットのルックスは実に工場的。奏者の指から発せられる命令を忠実に伝達していく、木管楽器のキー・システムは絶品だ。

 18世紀後半から19世紀にかけて、さまざまな楽器が発展し、演奏の可能性を広げた。その背景にあるのはヨーロッパ先進国の「産業革命」だ。工業化により技術が発達したせいで、それまではできなかった鋳造や成型が可能になり、繊細な奏者の動きを支える部品を作り出す。トランペットやホルンなどのバルブやロータリー、ピアノのボディやキー・システム、ハープの音程や調性を見事に変化させるシステムなども、工業技術の発展があってこそだった。

 音楽家たちの「こんな音が出たらいいのに」「この音程がもっと合えばいいのに」といった芸術的欲求も、技術によって解決されていく。最新型の楽器を有効活用した作品が生まれ、演奏者の技術も向上。すると楽器へのさらに高い欲求が生まれる。芸術と工業技術の両輪体制だ。ピアノの発達はベートーヴェンのソナタやショパン、リストの作品を生み出し、管楽器の発達はベルリオーズの《幻想交響曲》やワーグナーの楽劇などを生み出した。多彩な管楽器や打楽器を揃えたストラヴィンスキーのバレエ音楽などは、ある意味で集大成的なお披露目イヴェントだろう。

 芸術と技術、楽器と作品などの関係を考えて音楽を聴くと、音楽の違った側面が見えてくるかもしれない。


~関連公演~
【管楽器】
【ピアノ】
【オーケストラ】

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