PROGRAMプログラム

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2013-

ircam×東京春祭 ~フランス発、最先端の音響実験空間

現代芸術を愛したフランスの故ポンピドゥー大統領が、巨匠ブーレーズに依頼して作った「音楽を研究するための研究所」、それがircam(フランス国立音響音楽研究所)です。世界の先端技術を駆使して、現代の作曲家たちの優れた作品群を紹介します。「音の空間移動」を体感してください。

プログラム詳細

2013:04:05:20:30:00

© 青柳 聡
■日時・会場
【ConcertⅠ】2013.4.5 [金] 18:30開演(18:00開場)
【ConcertⅡ】2013.4.5 [金] 20:30開演(20:00開場)
[各回約60分]
日経ホール(千代田区大手町)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ConcertⅠ】 18:30開演
■出演
アンサンブル・クール=シルキュイ
  コントラバス:ディディエ・ムゥ
  ハープ:ヴェロニク・ゲスキエール
  ギター:クリステル・セリ
  ツィンバロン:フランソワーズ・リヴァラン

■曲目
ヤン・マレシュ:スル・セーニョ
ジェローム・コンビエ:Kogarashi
ファウスト・ロミテッリ:Trash TV Trance エレクトリック・ギターのための

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ConcertⅡ】 20:30開演
■出演
サクソフォン:クロード・ドラングル

■曲目
ピエール・ブーレーズ:二重の影の対話(サクソフォン版)
野平一郎:
 息の道〜4つのサクソフォンを奏する1人のサクソフォン奏者と電子音響のための(静岡市文化振興財団委嘱作品、IRCAM制作作品/東京初演)


~関連コラム~

出演者

アンサンブル・クール=シルキュイ ensembre Court-circuit 1991年にフィリップ・ユレルとピエール=アンドレ・ヴァラードによって結成された。その後、ジュネーヴでギャラリー・アナリックスの創設者であるバーバラ・ポッラ、ルイジ・ポッラと出会う。音楽監督はジャン・ドロワイエ。トップレベルの演奏家を集めたこのグループは、またたく間に極めて優れたアンサンブルとして認められる存在となった。これまでに、ircam、パリ・オペラ座、 ▼続きを見る ラジオ・フランス、シテ・ドゥ・ラ・ミュジック(パリ)、フェスティバル・ムジカ(ストラスブール)、エクサン・プロヴァンス音楽祭、38e Rugissants(グルノーブル)、マンカ音楽祭(ニース)、GMEM(マルセイユ)、ホワイノート音楽祭(ディジョン)、ワルシャワの秋(ポーランド)、ウルトラシャル音楽祭(ベルリン)、ウルティマ現代音楽祭(オスロ)、トライエットーリエ(パルマ)、ヨーロッパ音楽祭(ローマ)、ミュージック・ファクトリー(ベルゲン)、ガイダ現代音楽祭(ヴィリニュス)、NYYDフェスティバル(タリン)、アリカンテ国際現代音楽祭、ウィーン・モデルン現代音楽祭、ダルムシュタット夏季現代音楽講習会、モントリオール国際ニューミュージック・フェスティバル(MNM)等、ヨーロッパの主要音楽祭や音楽機関に招かれている。ジャンルを超えたプロジェクトにも関わっており、パリ・オペラ座のバレエ初演にも度々参加している。《メディアの夢》アンジュラン・プレルジョカージュ/マウロ・ランツァ、《時の風》アブー・ラグラー/ジェラール・グリゼー等である。また、その他のジャンルにまたがるプロジェクトには、《眠る巴里》ルネ・クレール/ヤン・マレズ、《メトロポリス》フリッツ・ラング/マルティン・マタロン等のシネ・コンサートもある。2011/12年のシーズンには、ブッフ・デュ・ノール劇場(パリ)とのコラボレーションもスタートし、室内オペラの公演を行った。11年4月/5月に初演された最初の作品はジョン・カサヴェテスの映画『オープニング・ナイト』にインスパイアされた《セカンド・ウーマン》(音楽:F.ヴェリエール/演出:ギョーム・ヴィンセント)だった。クール=シルキュイの活動におけるもう一つの特徴は教育への深い関わりである。実際、パリやその郊外にある音楽学校と頻繁にコラボレーションをしている。12年からはオー=ド=セーヌ県に本拠地を置き、この地域の音楽学校や組織と協力して自分たちのプログラミングとリンクした多くのプロジェクトを立ち上げ、これにより大勢の新しい聴衆にアプローチできると考えている。”Integra”(ミクスチャー音楽に捧げられたプロジェクト)や”Re:New Music Project”(現存する高品質なアンサンブル・レパートリーの普及と上演を支援するプロジェクト)等、ヨーロッパにおけるプロジェクトのメンバーであり、現在はNewAud(観客層を広げるために現代音楽コンサートの新しいコンセプトの展開を提案するプロジェクト)のメンバーでもある。これまでにトリスタン・ミュライユ、P.ルロー、T.ブロンドー、ジェラール・グリゼー、D.ダダモ、フィリップ・ユレル、J.ファインバーグ、R.レイノルズ、マルティン・マタロン、ジャン=リュック・エルヴェ等の作品を録音している。助成金を得ているグループとして、文化・コミュニケーション省、イル=ド=フランス文化事業地方局(DRAC)の後援を受け、またCG92、SACEM、SPEDIDAM、フランス文化センター、MFA、FCMからも資金援助を受けている。 ▲プロフィールを閉じる

コントラバス:ディディエ・ムゥ Didier Meu 1960年生まれ。クラシック音楽の教育を受け、ヴェルサイユ地方音楽院(ジャック・カゾーランに師事)ではコントラバスで一等賞を獲得。マリウス・コンスタン指導のもと、アカデミー・オブ・オーケストラ(ベルナール・カゾーランに師事)を卒業。その後、パリ・アンサンブル・オーケストラ、ストラスブール・フィルハーモニー管弦楽団、パリ管弦楽団、 ▼続きを見る トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団(コントラバス・ソロ)、パリ国立オペラ等、数多くのオーケストラで演奏する。2004~09年まではルーアン歌劇場でソリストを務める。室内楽の分野では、パトリス・フォンタナローザやドビュッシー弦楽四重奏団と共演。また、アンサンブル・クアレンド・インヴェニティエス(アレクシス・デシャルム創設)のメンバーとして活躍している。現代音楽では、アンサンブル・クール=シルキュイとシヤージュに所属しており、アルス・ノヴァ、ファ(Fa)、イティネレール、ルシェルシュ、モデルン、TM +、アンテルコンタンポラン等のアンサンブルと共演。またIRCAM(フランス国立音響音楽研究所)とも密接にコラボしている。ソリストとしては、アンドレア・セラ、ダニエル・ダダモ、フィリップ・ユレル、マウロ・ランツァ、マルティン・マタロン、フランク・ベドロシアン等の数多くのオリジナル曲を初演・録音している。またフランソワ・ナルボーニとはモノラル録音を共同制作(「3Dクラシック」レーベル)した。Acrobass協会の創設者であり、芸術監督を務める。最近では、メッツ・アーセナルにて“Antre Ciel”(音楽・照明映像)を制作。ジャズと現代音楽をミックスしたプロジェクトにも携わり、アンディ・へムラー、マルク・デュクレ、ミシェル・ポルタル、ダニエル・ユメール、ブルーノ・シュヴィヨン、ジャン=レミ・ゲドン等と共演。コメディアン・ミュージシャンとしては、セシル・ガルシア=フォーゲルやジャック・ルボティエとも共演。その他には、ピーター・ブルック、ピナ・バウシュ、アンジュラン・プレルジョカージュの舞台にも出演している。 ▲プロフィールを閉じる

コントラバス:ディディエ・ムゥ Didier Meu

ハープ:ヴェロニク・ゲスキエール Véronique Ghesquière 1980~82年の間、パリ国立高等音楽院のハープ科と室内楽科で第1位を獲得。 その後、パリ・エコール・ノルマル音楽院のコンサーティスト高等ディプロマコースで学ぶ。教授の中でも、ピエール・ジャメと彼の娘マリー=クレール・ジャメによって、その音楽的アプローチに多大な影響を受ける。1987年マリー・アントワネット・カザラ国際ハープコンクールで優勝し、▼続きを見る アルベール・ルーセル賞とアントワーヌ・ティスネ賞を併せて受賞。若くして、名望あるフランスの交響楽団からの誘いを受けていたが、ソリスト・室内楽奏者としてそのキャリアを開花させた。特に現代音楽の作品に力を入れており、カイヤ・サーリアホ作曲“Fall”、クラウス・フーバー作曲“L’âge de notre ombre”、フィリップ・エルサン作曲“Nocturnes”を始めとする数多くの曲を初演・演奏している。CDアルバム『Voix intérieures』では、フィリップ・シェラー作曲“Esstal”をハープ・ソロ用の作品として演奏し、2003年のシャルル・クロ・グランプリにおいて「心を打つ現代音楽2003」を受賞した。メニューイン財団賞を得て、数年間に渡りアンサンブル・アルテルナンスに参加。現在は、アンサンブル・クール=シルキュイとアトリエ・ミュジカル・ド・トゥレーヌでソリストを務める。また、アンサンブル・アンテルコンタンポラン(フランス)、アンサンブル・ルシェルシュ(フライブルク)、アンサンブル・クラングフォルム(ウィーン)、アンサンブル・ムジーク・ファブリック(ケルン)、ボードー・オーケストラ等と、ヨーロッパ、ノルウェー、スイス、オーストリア、アメリカ合衆国で演奏活動を行っている。「ワルシャワの秋」音楽祭では、アンサンブル・クール=シルキュイと出演し、フランソワ=グザヴィエ・ロトの指揮によりピエール・ブーレーズ作曲“Répons”でソリストを務める機会を得た。アーティストとしてのキャリア以外には、リヨン国立高等音楽院ハープ科の助手を15年務めた経験がある。国公立音楽院での教授資格(CA)を持っており、現在はライ=レ=ローズ県立音楽院とパリ郊外のサン=クルー市立音楽院で教えている。 ▲プロフィールを閉じる

ハープ:ヴェロニク・ゲスキエール Véronique Ghesquière

ギター:クリステル・セリー Christelle Séry 音楽とギターをニースにてイトウ・アコとアンリ・ドリグニーのもとで始め、その後、パリ国立高等音楽院(ギター、室内楽、教育学において受賞)で学ぶ。国際ギターコンクール(ランプド、バース、東京)で受賞。音楽の勉強、早くからの演奏経験、様々な出会いのおかげで、現代音楽のレパートリー(ギターとっては非常に豊かな)や舞台芸術、 ▼続きを見る 即興演奏やアンプを使った音楽等に集中していく。1997年、創設時からアンサンブル・ケーンにギタリストとして所属、定期的にアンサンブル・アンテルコンタンポランやアンサンブル・イティネレールと共演している。アゴラ(IRCAM)、ホワイノート、アルシペル、ムジカ、Tage für Neue Musik、ヴォワ・ヌーヴェル、アルス・ムジカ、Musiques de notre temps、台北・音楽フォーラム、バンガー大学・INTER/actions等の音楽祭にも出演。また、以下の作曲家の作品の初演を、ソロやアンサンブルで行った。ジェローム・コンビエ、ジェラール・ペソン、ムラカミ・アキコ、フレデリック・パター、ティエリー・ブロンドー、フィリップ・ルルー、カルロス・サンドバル、ジョナサン・ポンティエ、マルコ・スアレス=シフエンテス、リャオ・リン=ニ、フアン・カミーロ・エルナンデス=サンチェス、ババ・ノリコ、クリストファー・トラパニ、アルトゥーロ・フエンテス、フレデリック・マルタン、クレール=メラニ・シニュベール等。今後の活動としては、ソロ・アルバム『Pages acoustiques』の発表や、『Pages électriques』へ向けてエレキギターのための新しいレパートリーに取り組む予定である。

公式サイト  http://christellesery.fr/ ▲プロフィールを閉じる

ギター:クリステル・セリー Christelle Séry

ツィンバロン:フランソワーズ・リヴァラン Françoise Rivalland ジェラール・イェロニムスの弟子。パーカッションをフランソワーズ・ブラナ、ガストン・シルベスタ、ジャン・ピエール・ドローに、ザルブ、サントゥール、ダフをダリウシュ・タリに、指揮法をドミニク・ルイッツ、ジャン=ルイ・ジルに師事。現代音楽を中心に、時には小規模なオーケストラでも演奏するが、室内楽やソロでの演奏活動を主としている。 ▼続きを見る 1987年より、コントルシャン、ムジーク・ファブリック、ルシェルシュといったアンサンブルや、IRCAM(フランス国立音響音楽研究所)、フライブルクのエクスペリメンタル・スタジオ、ラジオ・ブレーメンといった組織と定期的に活動を行っている。また作曲家とも交流があり、その作品の初演や上演に携わっている。主な演奏作品としては、カルロス・ロケ・アルシーナ、ジョルジュ・アペルギス、ルチアーノ・ベリオ、ジョン・ケージ、フランシス・クールト、アウレリオ・エドラー=コペス、モートン・フェルドマン、ブライアン・ファーニホウ、リュック・フェラーリ、ブリュノ・ジネー、ヴィンコ・グロボカール、クラウス・フーバー、マウリシオ・カーゲル、ジェルジュ・クルターグ、ヘルムート・ラッヘンマン、ジャチント・シェルシ、クルト・シュヴィッタース、平 義久、吉田 進、ヤニス・クセナキス等の作品が挙げられる。指揮する作品としては、シューマン、ストラヴィンスキー、メンデルスゾーン、モーツァルト、ベートーヴェン、ジネー、ロッセ、シューベルト、アペルギス、ブラームス、ブリテン、ブーレーズ、ルトスワフスキ、ラフマニノフ等がある。また、上演や室内楽の初演を促進するS:i.c.(Situation:interprètes et compositeurs)の共同創設者であり、その芸術監督を1986~2009年まで務めた。ダルシマー、ザルブ、その他いくつかのデジタル・パーカッション楽器の演奏をこなす。ライブ・エレクトロニック・プロセッシング(生演奏をリアルタイムに音響処理する)を用いたベース奏者ローズマリー・ヘッゲンとハンス・トゥチュクとのトリオや、ミシェル・モーラやロリ・フリードマンとのデュオでは、即興演奏を行っている。演劇、台本/音楽/ジェスチャーの関係性、その舞台表現に強い関心を寄せて、演劇やダンスの世界においても舞台監督やパフォーマーとして定期的に活動している。1987年以降は、ジョルジュ・アペルギスの舞台にアシスタント/舞台監督/パフォーマーとして参加。関わった作品としては、『Enumérations』(1988)、『Jojo』(1990)、『La baraque foraine』(1990)、『La fable des continents』(1991)、ヒューゴ・サンティアゴ制作の映画『H』(1992)、『Commentaires』(1996)、『Entre chien et loup』(2002/06)、『Zig Bang Parade』(2004)等が挙げられる。1993年にはヴィレ=レ=ナンシーにて ルネ・ドーマル の小説『La grande beuverie』(CCAM・アンドレ・マルロー文化センター)に出演、2004年にはベケットの戯曲『クワッド』(ジュネーヴ・アルシペル現代音楽祭)で作曲を担当し、ジョルジュ・アペルギスの作品『Portraits croisés』(2008)と『La tragique histoire du nécromancien Hieronimo et de son miroir』(2009)では、演出も担当した。また、振付師シルヴァン・プルヌネックのいくつかの作品の初演にも携わった。例えば『Zar.b』(2000)、ハンス・トゥチュクと『La finale』(2002)、ローズマリー・ヘッゲンやテオルデ・ベルハンとともに携わった作品(2002)もある。最近の活動としては、ハンス・トゥチュク、ローズマリー・ヘッゲン、ロリ・フリードマン他のミュージシャンと即興演奏を行ったり、カミリア・ジュブラーン、プロキシマ・ケンタウリ、アナ・クファー、フランソワ・ロッセ、アウレリオ・エドラー=コペス、アリエレ・ボンゾン、ソニア・ヴィーダー=アサートン、パリ管弦楽団、レ・ウィッチズ等とともに、様々なプロジェクト、レコーディング、コンサートを行っている。2004年9月には劇音楽を教えていたスイス国立ベルン芸術大学で教授に任命された。

©A. Bonzon ▲プロフィールを閉じる

ツィンバロン:フランソワーズ・リヴァラン Françoise Rivalland

サクソフォーン:クロード・ドラングル Claude Delangle ソリスト、研究者、教育者でもあるクロード・ドラングルは、偉大な現代サクソフォーン奏者の一人であり、フランス・サクソフォーンの名手として抜きんでた存在である。クラシック作品の特権的な解釈者として、L.ベリオ、P.ブーレーズ、武満 徹、A.ピアソラ等の有名な作曲家たちとコラボするとともに、若い世代の作曲家を支援することによって、現代音楽のレパートリーを広げ、▼続きを見る 作品の創造を促している。1986年にアンサンブル・アンテルコンタンポランのサックス奏者に招かれて以降、ソリストとして名声あるオーケストラ(BBC交響楽団、フランス放送フィルハーモニー管弦楽団、フィンランド放送交響楽団、ケルンWDR交響楽団、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、紀尾井シンフォニエッタ東京)に出演し、またD.ロバートソン、P.エトヴェシュ、ケント・ナガノ、E.P.サロネン、チョン・ミョンフン、L.バーンスタイン他多くの指揮者とも共演している。さらにザグレブ・ビエンナーレ、ラジオ・フランスのプレゾンス・フェスティバル、ムジカ・ノヴァ・フェスティバル、パリ・アゴラ音楽祭(IRCAM)等の主要な音楽祭にも招かれている。ストラスブールのフェスティバル・ムジカでは、《未来のタンゴ》の世界初演を行い、これはその後エクサン・プロヴァンス音楽祭やパリのパレ・ロワイヤル劇場でも再演された。また、彼は自分の楽器に情熱を傾けるあまり、ソリストとしての仕事の範疇を越えて、パリ第7大学の音楽音響研究所に足しげく通った。そこで得られたサクソフォーンの音響に特化した彼の研究成果は、作曲家たちとコラボする上での貴重な財産となっている。録音では、BIS、ドイツ・グラモフォン、ハルモニア・ムンディ、エラート、ピエール・ヴェラニーにおいてフランス音楽を紹介する一方で、かのアドルフ・サックスによって創られたレパートリーから、前衛的な作品或いはポピュラーなレパートリーまで、新しい音楽の地平を開いていく。パリ国立高等音楽院でいくつもの抜きんでた一等賞(プルミエ・プリ)を得た後、1988年には教授に任命され、世界でも有数のサクソフォーン・クラスを創り上げた。様々な国籍を持つ学生たちが、彼の指導を受けることを切望している。彼の指導は、重要な作曲家たちとともに学ぶ可能性とコンサートとを結びつけ、幅広く学際的な活動の場を提供するからである。彼はヨーロッパのみならずアメリカ大陸、オーストラリア、アジア等からも公開レッスンに招聘され、積極的に出向いている。現在、アンリ・ルモワンヌ社で「ドラングル・コレクション」を監修し、新しいレパートリーやクラシック作品だけでなく、教育的な作品も出版している。2003~04年のシーズンにはアジアに招かれ、東京都交響楽団、香港シティ・チェンバー・オーケストラと共演、シンガポール交響楽団と協奏曲の名曲集をBISに録音し、中国ではリサイタルを行った。また、マルティン・マタロンの《トラム1》をメッツ・アーセナルで初演し、アメリカ中部でリサイタル、サンクトペテルブルクとノヴォシビルスクのオーケストラともコンサートを行った。パリのシーズンで特筆すべきは、ircam(フランス国立音楽音響研究所)からアゴラ音楽祭の全権を委任されたことである。

公式サイト http://www.sax-delangle.com/ ▲プロフィールを閉じる

サクソフォーン:クロード・ドラングル Claude Delangle

■曲目解説

解説:野平多美

【Concert Ⅰ】
ヤン・マレシュ:スル・セーニョ
 モナコ生れのフランス人、Y.マレシュは、当地でピアノ、打楽器の手ほどきを受けた後ジャズに夢中になり、ギターを独学で習得。アメリカにわたりバークリー音楽院でジャズを、ジュリアード音楽院で作曲を学んだ。この作品では、ハープ、ギターなどの撥弦楽器や打弦楽器のツィンバロンと、コントラバスの長音とを対比させたり融合させたりして、独特の音響世界を聴く者に問う。スル・セーニョとは、コンピュータ用語のサイン・オンの意。2000年にイルカムで製作した舞踊の音楽「アル・セーニョ(記号まで)」の素材を基に、再発展させたものである。“小編成の視覚的映像を意図的に矛盾させようとして”繊細な器楽の音色から少しずつ進化しながら力強い音楽表現に至るところが聴き所。(約20分)

ジェローム・コンビエ:Kogarashi — 幽霊たちの最初の吐息
 19歳で音楽を志したJ.コンビエは、パリ郊外生れのフランス人。ヴェーベルン研究でサン・ドゥニ大学に学び、パリ国立高等音楽院ではE.ニュネスに師事。その傍らギターを習得。ロワイヨモン財団交換留学生として日本に2ヶ月滞在の経験もある。イルカム研修は2001年頃から。
 この曲は、<リア王>第3幕で我を失う王の叫び「風よ吹け、私の頬を突き破れ」、古代中国の物語より<幽霊たちの最初の吐息は、生きる者の最後の吐息である>、また内藤鳴雪の俳句『我が聲の吹き戻さる々野分かな』といった“風の諸相”に着想を得た。2002年10月17日イルカムで、本日と同じC.セリにより初演。繊細な爪弾きや倍音群、弦の摩擦などのリアルタイム変換にじっくり耳を澄ませたい。(約8分)

ファウスト・ロミテッリ:《Trash TV Trance》~エレクトリック・ギターのための
 パリ郊外の音楽院には、1970年代頃にすでにエレキ・ギター科があった。そして、イタリア人作曲家F.ロミテッリが影響を受けたスペクトル楽派(音の構成要素と音響合成の解析の探求を核にしたグループ)のアンサンブル“イチネレール(行程)”の固定メンバーにも、エレキ・ギタリストがいた。というわけで、ロミテッリのこの楽器への早くからの着目と、その特性である音の歪みや人工的な音の伸縮を用いて創作することは、自然の成り行きであった。さまざまな楽器奏法と歪みやノイズ、そして身近にある“物”を用いて、多様な短いフレーズを反復しながら曲は進む。“ゴミ箱・テレビ・トランス(恍惚)”というタイトルが、まさにそれを表現している。2002年の作。(約12分)

【Concert Ⅱ】
ピエール・ブーレーズ:二重の影の対話(サクソフォン版)
 1985年の『L.ベリオの60歳の誕生日祝い』に捧げられた原曲のクラリネット版を、ある日録音現場で聴きながら、「あなたもこれを演奏してみたい?」と作曲家がドラングルに声をかけたことから、2001年にサクソフォン版が日の目を見た。初演は、V.ダヴィッド。ファゴット版(1995)、フルート版(2002)もある。
 タイトル「二重の影の対話」は、P.クローデルの戯曲「繻子(しゅす)の靴」からの引用。歴史に残る大作の一つである。
 スピーカーから流れる<導入>のあと、6つの<ストロフ(楽節部)>とそれをつなぐ5つの<経過部>、そして<終曲>からなる。<ストロフ>は舞台上の演奏で、単一のテーマの展開。<経過部>は、事前に同じ奏者が演奏した録音の再生。そこでは、ある要素からほかの要素へと展開する。なお、各部のつなぎ目以外は実奏と録音が上下に重なることはなく、“一本の地平線上の対話”になっている。現在では、録音テープはコンピュータ処理されている。

解説:野平一郎
野平一郎:息の道〜4つのサクソフォンを奏する1人のサクソフォン奏者と電子音響のための
 2011年4月から翌12年6月にかけて、静岡市文化振興財団の委嘱として断続的に作曲。コンピュータのパートは、パリのIRCAMイルカムで制作された。イルカムでの、私の3つめの作品である。初演は2012年6月8日に、マニフェスト音楽祭において、クロード・ドラングルのサックスによって、パリイルカム内で初演された。同年すでにイギリスと日本初演(静岡)が初演者の手でなされている。
 演奏者は4つの異なるサックスを、持ち替えながら演奏する。演奏には約30分を要し、切れ目なく演奏される4つの楽章からなる。各楽章とも電子音響は、「具体的な」音響から「抽象的な」音響へ、あるいはその逆の行程を歩むことで、部分的な形式構造が決定されている。たとえば冒頭は「呼吸」という具体的な音から始まるが、それは変形されるに従って抽象的な音響へと変化していく。コンピュータとソリストはアンテスコフォというスコアフォローを介して、一体になったり対立したりしながらリアルタイムで複雑な会話をかわしていく。この作品は、30年に及ぶクロード・ドラングルとの音楽的な交流の果実であり、彼と私の妻に捧げられている。


主催:東京・春・音楽祭実行委員会  共催:日本経済新聞社
後援:フランス大使館アンスティチュ・フランセ東京公益財団法人 日仏会館日本現代音楽協会社団法人 日本作曲家協議会
協力:野中貿易株式会社

ページの先頭へ戻る