HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2013/03/05

フランスで活躍するircam出身の作曲家たち

文・柿市 如(音楽ライター)


 今回は日本ではあまり知られていない、《コンサート I》の3人の作曲家に触れるとともに、アンサンブル・クール=シルキュイについても簡単に紹介したい。なお、コンサートで演奏される楽曲については曲目解説の項、ならびに小記事「CD Jounal(外部リンク)を参照いただきたい。

clm_ircam.png  早世の惜しまれるイタリア人のファウスト・ロミテッリ(1963-2004)、2人のフランス人 ヤン・マレシュ(1966-)とジェローム・コンビエ(1971-)は、みな若い作曲家の登竜門として世界的に知られるircam作曲研修課程を経ている。その後も、ircamからの委嘱で作曲を行う他、マレシュはircamで2006〜11年まで研修生の教授をつとめるなど、まさにircam出身中堅世代を代表する3人と言えよう。フランスで大きな潮流をなすスペクトル楽派(注:1つの音に含まれる倍音の分析を基盤に作曲する楽派)の創始者たち(ジェラール・グリゼー、トリスタン・ミュライユら)の教えをircamで受けた彼らは、同時にプログレッシヴ・ロック、エレクトロニカ、フリージャズ、非西洋の民俗音楽など、アカデミックな音楽以外の時代の影響も取り込みつつ、日々進化する電子音楽技術を用いて複雑で魅力的な音響をつくりあげている。例えば1950-60年代のセリー音楽などよりはずっと聴きやすいので、現代音楽ファンではない方にもぜひ一度試聴してみてもらえるとうれしい。

 近年でも頻繁に演奏されているロミテッリは、とくにその「現代音楽」らしくない斬新な音使い、浮遊感のある独特な作りにより、すぐ後の世代に大きな影響を与えたことでも重要である。今回演奏される作品も代表的だが、それ以外では例えば《シースケイプ》speaker.gif[試聴] や《グリーン・イエロー・アンド・ブルー》、やはりエレクトリックギター音が印象的な《プロフェッサー・バッド・トリップ I 》speaker.gif[試聴]、少し長いが最後の作品《アン・インデックス・オブ・メタルズ(金属の索引)》なども面白い。

 またバークリー音楽大学でジャズを学び、ジョン・マクラフリンに師事した上に彼のアルバムのアレンジも行ったという異色の経歴のマレシュの独特のリズム感を《ドナ・リーのための曲芸 cascade for Donna Lee》や《表 Recto》に聴いてみてほしい。(他のマレシュ作品speaker.gif[試聴]コンビエはどこか日本文化とつながるようなこまやかで抒情的な音世界が特徴。とくに《静かな生命たち vies silencieuses》(Aeon)speaker.gif[試聴]はお薦めのアルバムである。

clm_ircam2.png アンサンブル・クール=シルキュイは1991年に作曲家フィリップ・ユレルと指揮者ピエール=アンドレ・ヴァラドにより設立された。当時すでにあったアンサンブル・アンテルコンタンポランやリティネレールに対して、もっと小編成(5-8人程度)の器楽アンサンブル作品の演奏機会を作ろうということで結成。 当初は特にユレルの属するスペクトル楽派の音楽を中心に取り上げ、微分音などの多い難しい楽曲の演奏には定評があり、ユレル、グリゼー、ミュライユ、フィリップ・ルルーなどの録音でフランスの音楽誌ディアパゾン賞を始めとした数々の賞に輝いている。現在、音楽監督を務めているのは若い俊英ジャン・ドロワイエ(2008年~)。パリを拠点に、ヨーロッパ・世界各地で活動を行うフランスを代表する現代音楽アンサンブルの1つとして、若手作曲家の委嘱作品、とくに楽器とエレクトロニクスの混合作品の演奏も積極的に行っている。 今回のようにircamと提携したコンサートも定期的にあり、今年6月のircamのフェスティバル「マニフェスト」でも、マレシュの2作品、ならびにルイス・F・リソ=サロムと現在ircam研修課程2年目のダイアナ・ソーの新曲を演奏予定。気鋭のソリスト集団の初来日という点でも注目したい。

【試聴について】
speaker.gif[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」または「iTunes」へ移動し、
作品の冒頭部分を試聴いただけます。

ircam(フランス国立音響音楽研究所)とは | フランスで活躍するircam出身の作曲家たち



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