HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2013/02/27

ircam(フランス国立音響音楽研究所)とは

文・柿市 如(音楽ライター)

芸術創作と科学技術とを支える─RIM

clm_ircam_1.png  ircamでは1977年の創設以来、多くの作曲家が集まり新しい音楽を生み出している。ここではircamの特殊な側面とは何か、紹介してみたい。
 まず、ircamの最大の特徴は新しい芸術創作とそれに必要な科学的研究を1つの機関で行っている点である。毎年、世界で活躍する作曲家が委嘱作品作曲や創作を通した研究プロジェクトのために訪れ、作曲家とircamにより選ばれたRIM(コンピューターミュージックデザイナー)とコラボレーションを行う。ircamには現在2人の非常勤を含め8人のRIMが勤めている。
 具体的には、例えばスタジオで器楽奏者ないしは声楽家の演奏を録音し、その音を情報処理・加工する、ないしは音響合成を行うなどして電子音楽パートを作る。また、器楽あるいは声楽パートのライヴエレクトロニクスのプログラムを制作するとともに、立体音響再生のコントロールを準備するといった具合だ。たとえ全体のコンセプトやアイデアは作曲家のものであっても、共同作業の過程のなかで形作られるインタラクティブな創作と言えよう。

人工知能を適用した最新技術

clm_ircam_2.png  これらの作曲の基盤となる新しいシステムやプログラムは主に専門技術研究開発チームの手に委ねられる。例えば近年話題となったジョナサン・ハーヴェイの《スピーキング》(2008年作曲)ではジルベール・ヌーノ(*1)とともに、人工知能を専門とする研究者アルシア・コント(*1)(野平の《息の道》で使われた新システム開発にも携わった)を中心とした研究チームが、リアルタイムの処理により管弦楽の音が「話す」システムをつくりあげた。トリスタン・ミュライユが「アルゴリズムのおかげで想像が自由に羽ばたくようになった」と言ったように新技術は新しい音世界を実現するだけでなく、さらなる可能性をも開く重要な鍵を握っているのである。(*2)
 これらRIMの存在や最新技術について知るには、ircamの常勤RIMブノワ・ムーディック氏のトークセッションもぜひお勧めしたい。

1: ジルベール・ヌーノ[RIM] / アルシア・コント[インターフェース:研究、創作部 部長 ]
2: 2007年よりイルカムでの作品メーキングビデオがつくられ、Youtubeで現在15本ほど見ることができる。

次世代の音楽作りの要─音響システム

clm_ircam_4.png  サラウンドなどマルチチャンネルを用いることの多い現代の電子音楽では、立体音響の制御が重要事項の1つとなっている。今現在、最も注目を浴びているのは、昨年11月よりイルカムのホールに設置されたWFS(ウェーブ・フィールド・シンセシス)とHOA(高次アンビソニック)の音響システムで、複数のコンピューターに制御される339個(WFS 264個+HOA 75個)のスピーカーからなる。耳に認識される音源の位置がかなり正確であるとともに、端の席にいても偏りなく中央と同じくらいの精度で聴取できるのが大きな利点である。アンビソニックは世界中で3Dのテレビや映画などと連動した開発も進められており、どちらも次世代の新たな音楽作りの要となると思われる。
clm_ircam_3.png  とはいえもちろん、ircamの作品は内部にとどまらず、RIMらの音響チームとともにストラスブールの音楽祭『ミュジカ』や、ピエール・ブーレーズ率いるルツェルン祝祭アカデミー管弦楽団とのコラボレーション(ルツェルン音楽祭、BBCプロムス)など、国内外のフェスティバルにも参加していることも特筆しておきたい。



ircam(フランス国立音響音楽研究所)とは | フランスで活躍するircam出身の作曲家たち



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