HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2015/03/05

アーティスト・インタビュー
~リュドミラ・ベルリンスカヤ(ピアノ)【後編】

生前のリヒテルと親交を深めたピアニスト、リュドミラ・ベルリンスカヤのロング・インタビュー。後編では、東京春祭2015「リヒテルに捧ぐ」シリーズでベルリンスカヤが演奏するプーランクの舞踊協奏曲「オーバード」を中心に、話を訊きます。


リヒテルに捧ぐⅠ(生誕100年記念)
 舞踊協奏曲《オーバード》
     ~リヒテルが愛したプーランク&モーツァルト

■ブラームスの室内楽~川本嘉子&リュドミラ・ベルリンスカヤ
©Charlotte Defarges
clm_Berlinskaya1.jpg clm_q.png 今春、東京春祭で舞踊協奏曲「オーバード」を演奏なさいます。リヒテル自身の録音が残っており、彼が晩年に再演を切望したことでも知られる同曲。どうしてリヒテルは、この作品にこだわり、惹かれたのでしょうか?

何よりも、優れた作品であるからです。発表当時、この作品の編成やコンセプトは非常に斬新で、多くの人々を驚かせました。リヒテルは「オーバード」こそが、プーランクの作曲家人生にとって最も重要な作品の一つであると考えていました。ですから、晩年に単に「もう一度弾きたい」と漠然と望んでいたわけではないのです。リヒテルは「オーバード」がきちんと舞踊付きで上演されるべきだ、と考えていたのです。
マエストロはこれを実現できぬまま他界しましたから、今回、東京春祭でリヒテルへのオマージュとしてこの作品を上演することには、とても重要な意味があると思います。

clm_q.png 東京春祭での上演と同じ演出で、一足早く、昨年の「12月の夕べ」音楽祭(モスクワ)で「オーバード」を演奏なさっていますね。聴衆の反応はいかがでしたか?

大成功だった、と申し上げて良いと思います!長年、リヒテルの音楽祭に通った聴衆の方々にとって、リヒテルと繋がることができる大切なレパートリーですので、上演前の期待度も高く、ホールは満席でした。
当初、この演出のために振付師を探すことは容易ではありませんでした。まず何よりも、ニジンスカが創作した初演時の振付が失われているのです。おまけにプーランク自身の振付に関するメモは少なく、あまり明確でもありません。それでも、キーワードは明白です。「孤独」です。しかしこのテーマを実際に振付に反映するのは難しい作業です...
最終的にドミトリー・アンティポフに振付・舞踊をお任せできたことをとても嬉しく思っています。彼は若く、そして才能があります。リヒテルは生前、何よりも若いアーティストとのコラボレーションを好んでいました。アンティポフと共に来日し、モスクワと同じ演出をお届けできることを楽しみにしています。
重要なことを一つ!プーランクは、全演奏家とダンサーの位置を指示する手書きのメモを残しています。私たちの上演は当然、これをリスペクトしながら行われます。

clm_q.png ベルリンスカヤさんは2001年にパリでも「オーバード」の上演を実現させていますね。この作品をよく知る貴方にとって、「オーバード」の最もチャレンジングな点は何でしょうか?

この作品がもつ親密さと演劇性を同時に理解し表現しなければならない点が、難しいところですね。そしてまた、「オーバード」が"ピアノ協奏曲"としてのあらゆるハードルを掲げながら、18人のミュージシャンのための室内楽曲でもある、という点もチャレンジングです――全奏者に、ソリストとしての責任感も求められますから。さらに、指揮者は音楽の他に、舞踊にも意識を注ぐべく、常に柔軟性を求められます。こうした、「オーバード」の個性や難しさを、出演者全員が把握する、ということが、毎回の上演の成功の鍵になると思います。

clm_q.png ベルリンスカヤさんは現在、パリを拠点に、様々なプロジェクトをフランスで行っていらっしゃいます。近況や今後のご予定などを教えてください。

パリに拠点を移して早25年です。フランスに移住してすぐにこの国に魅了され、定期的にプロジェクトを行っています。パリではこれまで、2つの音楽祭で芸術監督を任されました。現在は、私の夫で、素晴らしいピアニストとして尊敬しているアルチュール・アンセルと共に、ロワール谷の小さな音楽祭の芸術監督をしています。スタッフ皆のモチベーションが高く、出演するアーティストは皆、そのアットホームさに惹かれて、「また出演したい」と仰るのですよ。毎年、8月末に開催されている音楽祭です。
こうしたプロデュースのお仕事以外にも、室内楽や協奏曲公演に出演したり、リサイタルを行ったりしています。2015年はもちろん、リヒテルの生誕100年を祝う公演にも出演しますし、リヒテルにオマージュを捧げる新しいアルバムの録音も予定しています。

clm_q.png 日々、フランス文化からどのようなインスピレーションを得ていらっしゃいますか?

そうですね・・・残念ながら、音楽教育という観点からみると、フランスがベストな国であるとは言い難いです。しかしもちろん、世界で最も美しい国の一つだと思います。日々、フランスの歴史や文学、建築、絵画、美食...とくにワイン(!)からインスパイアされています。パリは、私を癒し、また私に活力を与えてくれる素晴らしい街です。

clm_q.png 最後に、ベルリンスカヤさんと今春、リヒテルの生誕年を祝うことを心待ちにしている聴衆に、メッセージをお願いします。

日本を再び訪れ、リヒテルが愛した作品を演奏できることを楽しみにしています。 私にとって、リヒテルについて語るというのはとても難しいことです。しばしば周囲の方々から、リヒテルとの思い出を本にしたらどうか、とも勧められますが...今、私が心から望んでいるのは、別の形でリヒテルという芸術家・人間への「愛」を誰かとシェアすることなのです。
コンサートをお聴きになる皆さまには、あらゆる先入観を捨てて、その場で感じる新鮮な印象を大事にしていただければと思います。


~関連公演~
リヒテルに捧ぐⅠ(生誕100年記念)
舞踊協奏曲《オーバード》~リヒテルが愛したプーランク&モーツァルト

ブラームスの室内楽~川本嘉子&リュドミラ・ベルリンスカヤ

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