HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2014/03/24

ワーグナー vs コルンゴルト

「東京・春・音楽祭」の主役ともいえるワーグナーと、 各公演に登場する主な作曲家たちを対決させる連載コラム。第6弾は、コルンゴルトが登場です。

文・飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)
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 才能あふれるアーティストたちがあらん限りの創意と予算を注ぎ込んで制作する、この世でもっともぜいたくな出し物。19世紀においてオペラが獲得していた特権的地位は、20世紀後半からハリウッド映画が受け継いだ。

 その意味でコルンゴルトは、ワーグナーの正当な嫡子といえるかもしれない。音楽的にもリヒャルト・シュトラウスを間にはさんで、後期ロマン主義を継承した。

  ワーグナーはバイエルン国王ルートヴィヒという超強力なパトロンを得て、神話世界を描いた壮大な四部作『ニーベルングの指環』speaker.gif[試聴]を理想的な環境で上演するために、バイロイトに劇場を打ち建てた。劇場文化史上、これほど膨大なリソースが消費された新作初演はまれだろう。

 コルンゴルトは違う時代を生きた。20世紀を目前とする1897年のオーストリアに生まれ、幼少時より神童と騒がれ、わずか23歳にてオペラ《死の都》speaker.gif[試聴]でセンセーショナルな成功を収めた。しかし、ナチスの台頭によって反ユダヤ主義が高まると、1934年にアメリカに移住、ハリウッドを舞台に映画音楽作曲家として活躍することになる。映画「ロビン・フッドの冒険」speaker.gif[試聴]など多数の作品を担当し、アカデミー音楽賞を獲得した。

 コルンゴルトは期せずしてアメリカに渡ったわけだが、30年代は劇場文化の転換点だったようにも思える。オペラ劇場を見れば、シュトラウスの《アラベラ》speaker.gif[試聴]が33年初演、ベルクの《ヴォツェック》speaker.gif[試聴]は25年初演、《ルル》が37年初演、プッチーニの最後の作品《トゥーランドット》speaker.gif[試聴]はすでに26年に初演されている。ここから先、オペラ劇場の定常的なレパートリーとして生き延びる新作は極端に少なくなる。一方、ハリウッドは30年代から40年代にかけて黄金時代を迎える。「風と共に去りぬ」(1939)、「駅馬車」(1939)、「市民ケーン」(1941)......。オペラは主に過去の作品を繰り返し上演する古典芸術になり、映画は劇場産業の主役に躍り出た。

  そう考えると、ワーグナー、シュトラウス、コルンゴルトと続く劇音楽の系譜は、そのままつなぎ目なしにバーナード・ハーマン、ジェリー・ゴールドスミス、ジョン・ウィリアムズといった映画音楽作曲家たちへと引き継がれていると見ることができる。ワーグナーが建立したバイロイト祝祭劇場のDNAは、現代のシネコンに生きているのかも。



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