HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2014/01/26

ようこそハルサイ〜クラシック音楽入門~
「自作限定」指揮者、ストラヴィンスキー

文・小味渕彦之(音楽学、音楽評論)

 イーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)が指揮をする姿をご覧になったことはありますか?彼は自作自演が得意でした。自ら指揮台に立って、自分の曲の指揮をするのです。ほとんどのオーケストラ曲を録音していますし、映像もいくつか残されているので、ぜひ接してみてください。

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 ストラヴィンスキーのオーケストラ曲と言えば、昨年2013年に作品の完成と初演から100年の記念年を迎えた《春の祭典》speaker.gif[試聴]*に代表される、「三大バレエ」の印象が強いように思います(ほかに《火の鳥》speaker.gif[試聴]*と《ペトルーシュカ》speaker.gif[試聴]*)。先に種明かしをしてしまいますが、こうした「原始主義(バーバリズム)」と呼ばれるダイナミックな音楽を、どんなに颯爽と指揮をしたのかと思いきや、ストラヴィンスキーの指揮姿は、実のところあまり格好の良いものではありません。思いのほか小柄な彼が、指揮棒を持たずに"こちょこちょと"と短めの両腕を動かしています。大見得を切るような場面は皆無で、逆に即物的とも言える表現からは、楽譜に記された作品の姿がそのまま浮かび上がってくるようです。ぶっきらぼうな指揮からは、よく見ると細かなキューが出ていて、左手が雄弁に情報を伝えています。両手の人差し指がここぞという箇所で大活躍するのも効果的で、自分の作品なのに頻繁に楽譜へ視線を落とすのも面白いところです。拍ごとに完全に手の動きが止まることが多く、このことではっきりとした拍子感が提示されて、テンポの変化も明確にあらわされています。

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 今年2014年の「東京・春・音楽祭」で取り上げられるのは、ロシアの民話をもとに書かれた、語りが付いた音楽劇《兵士の物語》speaker.gif[試聴]です。《春の祭典》のわずか5年後となる1918年に作曲、初演されていますが、7人のアンサンブルが奏でる音楽は、「カメレオン作曲家」と呼ばれた通り大きく変貌を遂げました。ただし、どんなに作風を変えようともストラヴィンスキーの音楽は、「複眼的」にあらゆる方向から音楽を捉えようとしている点では不変で、このことは彼の指揮にも共通しているように思います。


※[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、楽曲冒頭部分を試聴いただけます。
印のものは、ストラヴィンスキー指揮による音源です。


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