HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2013/10/04

生誕200年!選り抜きの名曲と最高の指揮者で、ヴェルディ体験はいかが?
「ムーティconductsヴェルディ」の魅力 その2

文・加藤浩子(音楽評論家)

VerdiMuti.jpg  「初めて、本物のオペラを聴いた気がします」
 今年の7月、ローマ歌劇場。イタリア人指揮者で、この劇場の「終身名誉指揮者」をつとめるリッカルド・ムーティ指揮するヴェルディのオペラ《ナブッコ》の終演後、ある女性はそう漏らした。イタリアをひんぱんに訪れ、現地で何度も本場のオペラに接した経験のある方である。
 まったく、その夜のムーティは素晴らしかった。

 前回のコラムでも触れたように、《ナブッコ》は、「行け、わが想いよ、金色の翼に乗って」の合唱をはじめ、シンプルでダイナミックな音楽に満ちている傑作だ。ムーティは、ヴェルディのこのような音楽の特質を知りつくしている。楽譜の上では単純に見えるオーケストラの伴奏も、彼の手にかかると生命力たぎるものになって迫ってくる。その夜の《ナブッコ》には、ムーティでしかなしえない、確信と敬意と情熱が満ちていた。

 ムーティにとってヴェルディは「人生の作曲家」(本人の言葉)である。初めて耳にしたオペラも、初めて劇場で体験したオペラもヴェルディだった。音楽家としてスタートを切って以来、彼の大きな使命は、ヴェルディの素晴らしさを世に知らしめることになった。ほぼ20年にわたって、イタリア・オペラの殿堂であるスカラ座の音楽監督を務めた時も、知られざる作品を含めてヴェルディ・オペラの紹介に尽力している。その根底にあるのは、イタリアが統一への道を歩んだ激動の時代に、イタリア人の魂に訴える音楽を書いたヴェルディへの限りない敬意だ。だから彼の指揮するヴェルディは、オペラ体験の多い少ないにかかわらず、心を揺さぶるのである。

これまでの公演より © 大窪道治、青柳 聡
orchestra.jpg  シェイクスピアの原作による《マクベス》も、ヴェルディ初期を代表する名作であり、ムーティが情熱を傾けるオペラだ。この10月に発売予定のDVD「ムーティ コンダクツ ヴェルディ」には、《マクベス》のリハーサル風景が収録されている。そこでムーティは、オーケストラに対し、作品にある「色」を発見させ、音が鳴っていない時でも存在する「無音の音」を解説する。ムーティはこうやって、単純に見える音楽の奥にひそむ豊かな音画の世界を探り出し、私たちの前に広げてくれるのだ。

 10月はヴェルディの誕生月。彼の故郷のパルマでは、「ヴェルディ・フェスティバル」が開かれる。「ムーティconductsヴェルディ」は、生誕200年の熱気を日本に運んでくれる、忘れがたい演奏会になるに違いない。

「ムーティconductsヴェルディ」の魅力 その1 | その2

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