HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2012/02/05

ようこそハルサイ〜クラシック音楽入門~
若きベートーヴェンの音楽人生を追体験
[ベートーヴェン ヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会]

文・オヤマダアツシ(音楽ライター)

 いつ頃だっただろうか、自分史ブームというものがあった。定年退職をした人などが、それまで自分が歩んできた歴史を振り返り、社会史などと対比させながら自らの足跡をもう一度定着・自己検証するというものだ。客観的な視点による自分史を見ることは、もしかするとNHKの大河ドラマで坂本龍馬や平清盛の一生に接することにも似て、自分を主人公にしたバーチャル大河ドラマを楽しむことなのかもしれない。

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若き日のベートーヴェン

 作曲家の場合は、作品で「自分史」を作り上げている。たとえばベートーヴェンの交響曲を考えるとき、ウィーンでデビューした頃の「オレはやってやるぜ」という心意気を第1番に反映させ、第5番(運命)には「常識なんかぶっ飛ばせ」とばかりにイケイケで働き盛りの30代後半を刻印し、第9番には大人の博愛精神をアピールする50代の余裕を表現してみせた......ということになれば、私たち聴き手もそれぞれの曲からベートーヴェンの人となりを見つめ直し、もしかすると(200年という時間や生活環境の差はあるにせよ)自分と比較をして思いに耽ることができるかもしれない。

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《クロイツェル・ソナタ》

 10曲が残されているヴァイオリン・ソナタは、交響曲や弦楽四重奏曲、またはピアノ・ソナタのように生涯をカヴァーしているわけではなく、若きベートーヴェンの肖像だ。最初に出版された3曲(第1番〜第3番)は20代の終盤、《春》というタイトルで知られる第5番や《クロイツェル・ソナタ》として知られる第9番は30代を迎えた仕事盛りの時代(まだこの時点では、交響曲第3番《英雄》も完成していない!)。ポツンと離れたところに存在している第10番だけが、40代の充実期(交響曲第7・8番の時代)における産物であり、ちょっとだけ長く生きた人間の分別を感じさせるかもしれない。

 そうした彼の人生前半〜中盤が刻まれているヴァイオリン・ソナタの連続演奏会は、一人の芸術家が歩んだ成長の記録を追体験する場でもあるのだ。


~関連公演~
【2012】

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