HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2013/01/29

アーティスト・インタビュー
~奥泉貴圭(チェロ)

「ピアノ・トリオで聴くドイツ・ロマン派」、原田禎夫チェロ・シリースvol.4「チェロ・アンサンブル」の2つの演奏会に登場するチェリスト奥泉貴圭さん。初めから意気投合したというトリオのこと、そして恩師・原田禎夫さんのことなどを伺いました。


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■ピアノ・トリオで聴くドイツ・ロマン派〜シューマン、メンデルスゾーン、ブラームス
clm_q.png  加藤洋之さん、猶井悠樹さん、奥泉さんでトリオを結成するきっかけ
 2011年の鵠沼でのコンサートが最初でした。僕は2人とも良く知っていましたが、加藤さんと猶井さんは、ほぼ初対面だったと思います。3人ともすぐに意気投合、音楽を通じてもそうですがプライベートでもとにかく仲が良いんです。昨年のクリスマス・イブも猶井家で集まって朝までパーティーをしたり(笑)
 鵠沼でのコンサート以来、長崎、大手町での銀行コンサート(TWILIGHT CONCERT[視聴])、またドイツでも演奏する機会を頂いています。

clm_q.png 奥泉さんから見たお二人の魅力を教えてください
 加藤さんは譜面を読み込む力がとてもすごく、毎回勉強させられます。譜面を読むだけではなくそこに隠されているものをどんどん引き出していく人なので、加藤さんとの音作りでは毎回新しい発見があります。逆に自分で深く勉強していくと、あらぬ方向に行ってしまいそうなので、最近ではある程度のところまでで練習に臨んで(笑)、あとは加藤さんを中心に構築していく感じです。
 猶井さんはとてもロマンティックで感性豊かなヴァイオリニストです。先ほど3人は意気投合すると言いましたが、音作りに関しての加藤さんの要求はとても高いので、猶井さんと僕は何度も心を折られることがあります。猶井さんはそれでもファンタジーを失わない、本当に素晴らしいと思います。
 練習が終わった後は、必ずご飯を食べに行きます。音楽の話よりもプライベートの話が多いのですが、加藤さんのお話を2人で聞くのがとても楽しいんです。加藤さんはウィーン・フィル第1コンサートマスターのライナー・キュッヒルさんやクラリネットのカール・ライスターさんといった、世界的なアーティストとの共演を重ねているので、その経験談を聞くこともとても貴重ですし、そんな人と一緒に音を出せるというのは本当にありがたいことで、色々な面で吸収させてもらっています。

clm_q.png プライベートでも仲のよい3人の音楽作りの特徴は
 僕たちは時間をかけて音楽を作っています。今回の演奏会の準備は11月から始めました。3人での練習にも時間を費やしますが、寝かせる時間というのも取るようにしています。まず土台をしっかり作り上げ、一旦持ち帰って自分たちで向き合い、そしてまた持ち寄って。積み上げては崩すということを繰り返すので時間がかかります。最初はこんなに時間をかけるのか!と驚きましたが、加藤さんの厳しい要求から音楽に深みが増していくこのスタイルが3人には合っていると思います。

clm_q.png 今回の選曲のポイントはどんなところでしょうか
 まず、最初に出会って音を出した作品がブラームスの2番なんです。これは本番前にドイツで10日間ほど合宿をして、毎日音を出し合って作り上げた作品で、しかも1番より2番がいい、と3人の意見が合致した作品です。
 次にプログラムを作る際には一貫性やテーマ性を持たせるようにしていて、全員ドイツに関係があることと、ブラームスを取り上げるということからロマン派のシューマンとメンデルスゾーンを選びました。
 今回は偶然にもすべて2番を演奏しますが、3人とも1番より2番が好き、とここでも意気投合(笑)プログラムが出来上がりました。
 シューマンとメンデルスゾーンは、聴いたことはありますが演奏会で取り上げるのは僕自身は初めてです。ましてや、この3人で新しい作品にチャレンジできるということはとても楽しみなことです。
 じっくりと時間をかけて取り組むシューマン、メンデルスゾーン、ブラームスを楽しんでいただけたらと思います。


~出演公演~


原田禎夫チェロ・シリーズvol.4
チェロ・アンサンブル 〜世界で活躍する7人の愛弟子たちとともに

clm_q.png 原田禎夫さんに習うこととなったきっかけ
 芸大付属高校3年の時に「若い人のためのサイトウキネン室内楽勉強会」に行く機会があり、そこで最初にお会いしました。それまでは東京クヮルテットの大ファンで家にあるビデオをすり切れるほど見ていたくらい、原田先生のファンでした。
 勉強会では豊嶋泰嗣先生のクラスでしたが、個人的にレッスンをお願いしたら「いいよ、今からやるか」と。ドビュッシーのカルテットのチェロ・パートを見てもらおうとレッスンが始まったのですが、2時間半で音を出したのは最初の2音のみ。「弓が曲がっている」「もっとこう」「もっと!」と。たった2音でこんなに時間がかかる、2時間半でも納得のいく音が出せないという奥の深さと、〈音を出す〉基本的な技術、そして先生の考えている音というのはとても凄いところにあるんだ、と衝撃を受け絶対に習いたい!と留学を決めました。

clm_q.png 最初の衝撃的なレッスンから始まり、原田さんから習ったものは
 18歳から6〜7年くらいしっかり先生に習いました。最初の2音のレッスンのように、原田先生から習うことはすぐにできることではないんです。先生のもとを離れて5年ほど経ちますが、先生に頼らず自分でやっていかなくてはならない今、「あの時はこのことを言っていたのか」と分かる事がとてもたくさんあることに気づかされます。その当時は全然わからず、がむしゃらにやっていただけですが。
 学生時代に教えてもらい、植えていただいた種が少しずつ開花してきた感じです。それは本当に大きな財産です。

clm_q.png 教えてもらっていた6年は順調でしたか
 チェロを辞めたいと思ったことは何度もありました。半年に1回くらいはトイレに駆け込んで泣くことも。
 コンクール前にドイツでレッスンを受けた時に、簡単な事ができない自分がイヤで辞めると言って飛び出したり、辞めたいと相談したこともありました。原田先生からは「俺は辞めたいと思ったことがない。自分たちの時代は辞めるとか、続けるということに向き合うことがなかった。どうやったら上手くなるかということで必死だった」と。それ以来先生に辞めたい、と言わなくなりました(笑)
 一方で、自分と向き合い納得のいく演奏ができたスイスでの講習会のオーディションでは、先生がとても嬉しそうに合格したことを教えてくださいました。その時は本当に嬉しかったです。
 先生は兄でもあり父でもあり、背中を見てついていきたいと思う存在です。

clm_q.png これまで原田さんや仲間(弟子)との共演は
 原田先生とは国内で何度か共演しているのと、ドイツでは学校での演奏会でハイドンのチェロ協奏曲を原田先生指揮で共演、ほかにも先生指揮の企画コンサートがいくつかありました。
 今回の共演者(弟子)は初期メンバーで、それぞれみんな知り合いだと思います。4人の日本人メンバー(加藤陽子、熊澤雅樹、庄司まいこ、奥泉)とはトロッシンゲン・チェロ・カルテットとして、ドイツと日本で演奏活動を行っています。今回のように7人で一緒に演奏する機会はないかもしれません。また、普段はバラバラに活動している弟子同士の再会も楽しみです。

clm_q.png チェロ・アンサンブル演奏会の意気込みをお願いします
 7人が先生のもとから巣立ち、成長して戻ってきて原田先生と共に演奏できることはとても貴重な機会です。
 (出来る訳ないですが)先生と同じ土台でガチンコ勝負したいと思っています。きっと他の弟子も同じ思いではないでしょうか。
 先生との共演はすごくプレッシャーで緊張しますが、大きな安心感もあり、なにより世界一の低音に乗っかって演奏できるという、こんなに気持ちのよいことはないと思います!


~出演公演~


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