HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2018/03/08

アーティスト・インタビュー
~トマス・コニエチュニー(バス・バリトン)

トマス・コニエチュニー

トマス・コニエチュニー

 ここ数年来、日本でワーグナー作品を主に歌ってきました。日本の皆さんはドイツの音楽に大変興味を持ってくださっており、私自身もかなり長い間、数多くのドイツ物のレパートリーを専門としてきています。しかしながら、何か新しいもの、何か異なるものをお届けしたいという切望も抱いていました。特に日本の観客の皆さんのように、高度に洗練され、情報通の皆さんの前では。
 私の室内楽への冒険的な試みは、ごく最近始まりました。数年前、私のピアニストであるレフ・ナピェラワと出会い、東京・春・音楽祭2016ではR.シュトラウスやラフマニノフの歌曲リサイタルを行い、皆さんが温かく受け止めてくださったことをよく覚えています。
 今回共演するユレク・ディバウは、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の素晴らしいコントラバス奏者であると同時に、卓越した才能を持つ指揮者で、ポーランド・クラクフの「シンフォニエッタ・クラコヴィア」の総監督及び首席指揮者も務めています。私たちは何年も前から親しい付き合いを重ねていたこともあり、今回室内楽のコンサートが実現することとなりました。
 今回のコンサートでは、ポーランド人の作曲家クシシュトフ・ペンデレツキ氏の生誕85年ということもあり、オーケストラは彼の作品を演奏します。私は初日にマーラーの《亡き子をしのぶ歌》、2日目にムソルグスキーの《死の歌と踊り》を歌います。2つの公演を通じて、ドイツとロシアの音楽を、別の角度で見る機会にもなります。なぜなら、私たちはこの2つの連作歌曲を特別な編曲(小さな室内楽オーケストラ用に特別に構想したもの)で演奏するからです。ポーランドの才能ある若き作曲家、指揮者、編曲家のR. クウォチェコが編曲を手掛けています。

トマス・コニエチュニー

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2017-
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8
舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』第3日《神々の黄昏》より
アルベリヒ役を歌うコニエチュニー(左)

 私はポーランドの中央部の工業都市ウッチの出身です。若い役者時代(私ははじめに舞台役者としてキャリアをスタートし、後から歌手となりました)、私は常にポーランドの古都クラクフに憧れを抱いていました。クラクフはポーランドの偉大な映画監督アンジェイ・ワイダ氏が、日本の文化に感銘を受けて、日本美術技術センターを設立した地でもあります。また、ペンデレツキ氏もクラクフ出身で、今も在住しています。魔法のような都市で、忘れられない雰囲気を持った場所です。若いアーティストだった私は、常にクラクフに住み、仕事をしたいと思っていました。残念ながらその夢は実現しませんでした。しかしながら、若いときに抱いた夢は今も忘れることはありません。

トマス・コニエチュニー

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2017-
東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.8
舞台祝祭劇『ニーベルングの指環』
第3日《神々の黄昏》より
アルベリヒ役を歌うコニエチュニー

 私は駆け出しの役者として、アンジェイ・ワイダ監督のもとデビューを果たせて、信じられないほどラッキーでした。私はこのことをとても誇りに思っています。ワイダ監督の素晴らしい映画作品の数々は、私の芸術的なインテグリティの基盤となっています。若い頃に出会うことができた、この偉大なアーティストとの出会いを忘れることは決してありません。彼はポーランドの文化にとって、計り知れないほどの価値を持った方です。彼がすでにこの世にいないなんて、とてもつらい喪失です。

 マエストロ ペンデレツキとは、ここ数年来親しくさせていただいています。私はこれまで氏が指揮されるコンサートにポーランドのみならず海外でも数多く出演しています。ペンデレツキ氏もワイダ監督と同様に、彼の存在抜きにして、現代のポーランドの文化を想像することはできません。
 私はペンデレツキ氏の作品が本当に大好きです。とくに、彼の初期作品、例えば《ルカ受難曲》など。現代音楽にとって大いなる前進と言えますし、大成功を収めています。適任のオーケストラ・アンサンブル、コーラス、ソリストたち、そして特別な指揮者が演奏すれば、きっと氏の作品のコンサートは、忘れられない、素晴らしい趣を創り出すことができるでしょう。

 私の故郷ポーランドのシンフォニエッタ・クラコヴィアと一緒にお贈りする2つのコンサートを通じて、皆さんに純粋にエモーションを感じていただけましたら嬉しいです。


~トマス・コニエチュニー(バス・バリトン)出演公演~

シンフォニエッタ・クラコヴィア with トマス・コニエチュニー(バス・バリトン)

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