HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2018/02/24

愛と死について
〜ウィーン楽友協会におけるシンフォニエッタ・クラコヴィア

文・ジョナサン・サザーランド(音楽評論家)

 昨年12月10日にウィーン楽友協会で初共演を果たしたシンフォニエッタ・クラコヴィアとトマス・コニエチュニー。成功裏に終えた公演の模様をお伝えします。

ユレク・ディバウ

ユレク・ディバウ

 シンフォニエッタ・クラコヴィアのカリスマ性があり、感情表現がとてつもなく豊かな首席指揮者ユレク・ディバウは、20歳以上の団員が集うポーランドの室内オーケストラから、情熱的かつ時には印象的な演奏を引き出すことができた。

 コンサートは、マーラー自身によって小編成の弦楽オーケストラとハープのために編曲された、交響曲第5番の有名な第4楽章で幕を開けた。この曲は、マーラー愛好家には「アダージェット」として知られ、ルキノ・ヴィスコンティ愛好家には映画『ベニスに死す』で使われた音楽として知られている。

 果敢な試みではあるが、総譜は極度のレガート、分別あるビブラート、究極にムラのない音を要求しており、これらは小さなアンサンブルではより露わになるものだ。

 冒頭のピアニッシモの小節は、第1ヴァイオリンのややはっきりとしない抑揚で表現されるが、「抑えて」や「暖かく」というような指示はおおむね注意深く守られていた。フォルティッシモのクライマックスやそれに続くディミヌエンドは大変素晴らしかった。(...)

トマス・コニエチュニー

トマス・コニエチュニー

 国際的な評価も高いポーランドのバス・バリトン歌手トマス・コニエチュニーは、《亡き子をしのぶ歌》を歌うのは初めてだったが、オペラのステージと同様にコンサートホールにおいても巧みであることを証明した。また喜ばしいことに、かつてはメゾ・ソプラノの領域だったものが、今やバリトンによって歌われている。例えばブリン・ターフェルやクリスティアン・ゲルハーヘル(そしてもちろんトマス・コニエチュニー)等。彼らは、リュッケルトの陰鬱で慰めを求めるような詩に、より深くたくましい男声の色をもたらす。それは、マーラーがもともと意図していたものだ。第3曲「お前のお母さんが戸口から入ってくるとき」は、男声によって歌われれば、文字通りより遥かに力強い歌声による信頼性を帯びるのだ。(...)

 コニエチュニーの豊かなオペラ的声質は、第1曲において「太陽よ」と呼び掛ける誇らしげなクレッシェンドでは燦然と輝き、第2曲の「その輝きで私に言おうとして」という箇所では、みごとに抒情詩的なフレージングを見せた。第3曲で「喜びの光よ」と繰り返される楽句の低いGナチュラルの音は、近づき難いような光輝を放ち、第5曲の「あの子たちは母の家にいるみたいに安らいでいる」という箇所における長いレガートは、堂々として落ち着いたものだった。このポーランドのバリトン歌手の自然でドラマチックな素質は、第5曲「こんな嵐に」では、唸るような、苦悶に満ちた離れ業をやってのけた。しかしこの初めてのパフォーマンスが、これらの魅惑的な歌曲に対するコニエチュニーの最終的な解釈とはならないだろう。おそらく、とりわけより大きな編成のオーケストラで歌うならば、この印象的な初演で見せたよりも、さらに陰影や繊細さを進化させるに違いない。

 《亡き子をしのぶ歌》を初めて指揮したユレク・ディバウは、縮小された楽器編成から最大限の力を引き出し、そして指揮者と独唱者との間にほとんど直感的な協調が働いていたというのは賞賛に値することである。第4曲「ふと思う、あの子はちょっと出かけただけなのだと」における「あの高みでは」という箇所の繊細なルバートなどは、ひとつの傑出した例である。

 《亡き子》を終えた後、このプログラムの最後を飾るのはマーラー編曲によるシューベルトの弦楽四重奏曲《死と乙女》である。この原曲はもともとシューベルトの初期の同名歌曲から編曲されたものだった。

シンフォニエッタ・クラコヴィア

シンフォニエッタ・クラコヴィア

 シンフォニエッタ・クラコヴィアは、このレパートリーでは著しく、より一層リラックスし、寛いだ演奏をしていた。出だしからエネルギッシュなアタック音で、ト短調の第2楽章における痛切な色合いのリリシズムへと続く。トゥッティのマルカート部分はがっしりと性的魅力に溢れ、ロンドのフィナーレでは狂ったようなダンス・マカブル(死の舞踏)と目もくらむタランテラが交錯した。抑揚はより一層確固たるものとなり、付点のリズムは歯切れよく猛進するように演奏された。ディバウはこの作品では、大らかな、いわば演劇的な指揮ぶりで本領を発揮していたが、それはまるで彼の指揮に振付が施されているようだった。

 若いポーランド人演奏家たちも、溢れんばかりの熱情で応え、コンサートのはじめの方の過剰な哀しみをものともせず、実に愉快でにぎやかな、忘れがたい夜のフィナーレとなったのだった。ポーランドよ永遠なれ。


~関連公演~

シンフォニエッタ・クラコヴィア with トマス・コニエチュニー (バス・バリトン)

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