HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2017/01/26

アーティスト・インタビュー
〜池松 宏(都響コントラバス首席奏者)

東京・春・音楽祭2017にて「東京春祭チェンバー・オーケストラ」と「都響メンバーによる室内楽~メンデルスゾーン《弦楽八重奏曲》」に出演する日本を代表するコントラバス奏者・池松 宏さん(都響コントラバス首席奏者)に、両公演の聴きどころなどを聞きました。

取材&文・柴田克彦(音楽ライター)


 日本きっての名手・池松宏がコントラバスを始めたのは、何と19歳のとき。そして24歳の年=1989年にNHK交響楽団に入団し、94年から首席奏者を務めた。2006年からはニュージーランド交響楽団の首席奏者として活動。2014年に帰国後は東京都交響楽団の首席奏者を務めるほか、紀尾井シンフォニエッタ東京、水戸室内管弦楽団、サイトウ・キネン・オーケストラのメンバーでもある。

池松 宏

 「東京・春・音楽祭」には、帰国直後から毎年出演。2014~16年の東京春祭チェンバー・オーケストラや、2014年の東京春祭マラソン・コンサート(「リヒャルト・シュトラウスの生涯~生誕150年に寄せて」の2公演)で腕をふるっている。 「出演はいつも3月。桜が咲く直前の暖かくなりかけた時期にあたります。東京春祭はこの季節がいいですね。それに毎回演奏している東京文化会館の小ホールは音響がよく、弾いていて幸せを感じます。また東京春祭といえば、バッハの無伴奏チェロ組曲の全曲演奏の依頼があったのが忘れられません。チェロでも一晩では滅多にやらない上に、調弦も違うので、即座に断りましたが......(笑)」

 「バッハの無伴奏を弾いて欲しい」と思わせること自体が、腕前を証明してもいる。

 さて2017年は、「東京春祭チェンバー・オーケストラ」と「都響メンバーによる室内楽~メンデルスゾーン《弦楽八重奏曲》」に出演する。

 まず春祭チェンバーは、中心メンバーの堀正文の意向によって、今回から主要奏者以外は若手を集めたメンバー構成となり、最初に置かれた《調和の霊感》等のヴィヴァルディ作品では、俊英たちがソロを弾く。

「これまでとは確実に雰囲気が変わります。どう変わるのか?もそうですし、若い方々のソロが楽しみですね。それにヴィヴァルディの作品はどれもいい曲です。ただ、なぜか1拍目ではなく3拍目から始まるケースが多く、しかも出版譜では、切れ目となるはずの練習番号が機械的に打たれていて、油断するとどこを弾いているのか分からなくなる。聴いている方は気付かないと思いますが、実はかなりの集中力が必要なんです」

 次いでは、グリーグの組曲《ホルベアの時代より》。

「弦の音をたっぷり聴かせる曲。バロックの様式が用いられていながら、とてもロマンティックで、明るく開放的です。この曲はよく演奏していますし、個人的にもグリーグは好きな作曲家で、チェロ・ソナタをコントラバスで弾いたりもしています」

 最後は、モーツァルトの交響曲第29番。

「これは大好きな曲です。高校の管弦楽団でも演奏し、カール・ベーム指揮の録音を物凄く聴いていたので、とても思い入れがあります。とにかくあの序奏(弦楽器が徐々に重なっていく有名な部分)が素晴らしいですね。それに作曲家の中ではモーツァルトが一番好きで、普段聴くのもモーツァルトばかりです」

 「都響メンバーによる室内楽」は、メンデルスゾーンの《弦楽八重奏曲》に出演する。この曲は、昨年の春祭チェンバーの公演でも演奏されたのだが、コントラバスは含まれていないため、参加できずに終わった。しかし今回は、第2チェロのパートを演奏する。

「去年は急な代役での出演。『第2チェロを弾きたいんですけど』とずうずうしくもお願いしたところ、『今回はチェロの方に頼んでありますので、また次回に』と言われました。社交辞令だと思っていたのですが、ありがたいことに覚えてくれていました」

 同曲を弾くのは、数年前にその形の演奏をインターネットで見たのがきっかけだという。

「そこでニュージーランド響のメンバーにお願いし、東日本大震災のチャリティ・コンサートで演奏したら、凄く良かった。シューベルトの弦楽五重奏曲の第2チェロもコントラバスで弾かれますが、この場合は室内楽の緻密さが失われます。でもメンデルスゾーンの八重奏曲は、弦楽オーケストラでも演奏される派手な曲だし、聴いた人も『いいね』と言ってくれたので、機会があったらまたやりたいと思っていました」

 曲の魅力は尽きない。

「明るく若々しく華やかで祝祭的。弾いていると楽しくなります。楽器にも合っていて、最初からコントラバスで良かったのではないかと思うくらい。チェロのパートを全く変えずに弾きますから、ハイポジションが多くなるなど、技術的には難しいのですが、響きが広がり、全体をうまく支えられるので、チェロよりもいいと勝手に思っています」

 共演する都響のメンバーも、普段活動を共にしているだけでなく、「双紙正哉(ヴァイオリン)、鈴木学(ヴィオラ)両氏とは学生時代から一緒に演奏しており、他の奏者とも様々な局面で共演する機会が多い」だけに、当然息の合った演奏が期待できる。

 1月末には宮崎でラフマニノフのチェロ・ソナタをメインにしたリサイタルを行うなどソロでも活躍する彼だが、コントラバスは「オーケストラや室内楽が楽しい」し、「区切りとなるピッツィカートなど、陰で音楽の"時間"を決めているのが魅力」だと語る。共に1本で奏でる今回の公演では、アンサンブルにおけるその妙技に注目したい。


~池松 宏(コントラバス)出演公演~

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