春祭ジャーナル 2015/03/14
アーティスト・インタビュー
~安田謙一郎(チェロ)
東京春祭の名物シリーズ「東博でバッハ」にて、二夜にわたりバッハの「無伴奏チェロ組曲」の全曲演奏に挑む安田謙一郎さん。長いキャリアの中で向き合ってきたバッハへの想いや、今回のバッハ・プログラムに自作や現代曲を織り交ぜた背景等について、語っていただきました。
〜無伴奏チェロ組曲 全曲演奏会■

バッハの音楽というのは、日常の中で行われる祈りのような存在だと思います。しかし、「チェロで弾く」ことを意識すると、どうしてもかしこまってしまい、「日常」からかけ離れてしまいます。この二つを同時にやろうと思うとなかなか一致せず、難しい。それでも、斉藤秀雄先生やカサド先生、フルニエ先生という偉大な師と出会ってバッハの音楽に触れていくうちに、無伴奏チェロ組曲が少しずつ自分の中で「日常」になってきました。そういう意味で、時と共に、バッハという作曲家が少し身近な存在になってきたかなと思います。

解釈も想いも刻々と変化しています。例えば、若い頃は今よりも勢いの様なものがあったと思います。いずれにしても、録音を残すというのはとても勇気のいることです。演奏はどんどん変化していくものですので、一時の演奏や解釈がずっと残ってしまうのは嫌なものですね(笑)

昔は第1番、第2番...というように番号順に弾いていましたが、今回は順番通りに演奏することにとらわれずに自由にプログラミングしてみました。全体の音楽の流れを考え、曲を並べています。

何百年も昔から、音楽と共に流れ続けている「時」を実感したいと思い、今回のプログラムを提案しました。バッハの音楽も現代音楽も、同じ線の上にあります。現代音楽は、バッハの音楽の延長線上にあるものだと思っています。ただ、ベリオの作品は、半音ずらす等、通常と異なる調弦を用いるので、その後にすぐまたバッハの演奏に戻れるのかどうかわからないですね...。どうすれば最適か、準備の段階で色々と試してみたいと思っています。

実は、チェロを始めた頃からずっと作曲しています。チェロを演奏するだけでは自分の中でどうも上手くいかないのです。作曲する足、チェロを演奏する足。その二本足で歩むことが私の理想です。斎藤秀雄先生からは、片方だけにしなさいとよく言われましたけれど(笑)私はあちこちに気が散ってしまうタイプなので、二つの活動を両立しているのが丁度いい気がします。

今、自分と同じ時代を生きている作曲家の作品を演奏できるという点です。バッハやモーツァルトに電話をして質問をしたり意見を聞いたりすることはできませんが、今生きている作曲家から作品についての考えを直接教えてもらうことはできます。作者と交流をしながら現代曲を演奏するという経験は、バロックや古典派の時代の音楽を演奏する際にも必ず生きてきます。作品をより身近に感じることができるようになりますから。

若い世代の演奏家たちとの交流の中では、日々、たくさんの新しい発見があります。「そういう解釈をするのか!」と驚かされることもよくあります。若い方たちから教わることは実に多いのですよ。
ミュージアム・コンサート
東博でバッハ 安田謙一郎(チェロ)
〜無伴奏チェロ組曲 全曲演奏会