PROGRAMプログラム

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2012-

東京春祭 歌曲シリーズ vol.7白井光子 & ハルトムート・ヘル
~リート・デュオが紡ぐ、日本のこころ

プログラム詳細

Photo:青柳 聡
■日時・会場
2012.3.18 [日] 15:00開演(14:30開場)※ この公演は終了いたしました。
東京文化会館 小ホール

■出演
メゾ・ソプラノ:白井光子
ピアノ:ハルトムート・ヘル

■曲目 
木菟(三好達治・作詞/中田喜直・作曲)
ほうずき(萩原朔太郎・作詞/三善 晃・作曲)
少年(三好達治・作詞/諸井三郎・作曲)
追分(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
さくら横ちょう(加藤周一・作詞/中田喜直・作曲)
たあんき ぽーんき(山村暮鳥・作詞/中田喜直・作曲)
雪女(北原白秋・作詞/團 伊玖磨・作曲)
しぐれに寄する抒情(佐藤春夫・作詞/大中 恩・作曲)
中国地方の子守歌(岡山県民謡/作詞不詳/作曲不詳/山田耕筰・編曲)
花季(大木 実・作詞/團 伊玖磨・作曲)
ちびつぐみ(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
おまつりはどこ(岸田衿子・作詞/中田喜直・作曲)
ねむの木(野口雨情・作詞/中田喜直・作曲)
冬の日(冬木京介・作詞/石桁真礼生・作曲)
曼珠沙華(北原白秋・作詞/山田耕筰・作曲)
山は雪かよ(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
野の羊(大木惇夫・作詞/服部 正・作曲)
鐘が鳴ります(北原白秋・作詞/山田耕作・作曲)
五月(萩原朔太郎・作詞/三善 晃・作曲)
村祭(堀内幸枝・作詞/中田喜直・作曲)
(小川未明・作詞/中田喜直・作曲)
さくら横ちょう(加藤周一・作詞/別宮貞雄・作曲)
からたちの花(北原白秋・作詞/山田耕作・作曲)
※当初発表の曲目より変更になりました。
[アンコール]
(大木惇夫・作詞/別宮貞雄・作曲)
秋の空(八木重吉・作詞/畑中良輔・作曲)
霧と話した(鎌田忠良・作詞/中田喜直・作曲)
びいでびいで(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
おやすみなさい(中井昌子・作詞/中田喜直・作曲)
五月(萩原朔太郎・作詞/三善 晃・作曲)


~東京春祭 歌曲シリーズ~

出演者

リートデュオ:白井光子 & ハルトムート・ヘル 白井光子&ハルトムート・ヘルは、1972年の結成以来「歌と伴奏」という概念を超えた「リートデュオ」としての活動を世界各地で精力的に行っている。後進の指導にも熱心に取り組み、1979年フランクフルト音楽大学、1983年ケルン音楽大学、そして現在はカールスルーエ音楽大学でリート科を設立。「デュオとしてのリート」に重点を置いた教育をしており、欧米各地のマスタークラスで多くの優秀な歌手が彼らの薫陶を受けている。近年では国内でも公開レッスンを実施、その自由な発想に基づく指導は、学生はもとより指導者、聴衆にも大きな感動を与えた。
1996年に出光音楽大賞受賞。1997年2月には前年10月に大阪いずみホールで行った「ヴォルフの夕べ」の演奏に対しABC国際音楽賞受賞。以後、ほぼ毎年日本でのリサイタルを開催し、彼らならではのプログラムによる個性的なリートの夕べを繰り広げている。
2006年5月、突然、白井光子がギラン・バレー症候群に罹り入院。 しかし、リハビリを経て、2008年2月には仏・ナントにおける「ラ・フォル・ジュルネ」に出演し、シューベルトのリート・リサイタルでカムバックを果たした。その後もヨーロッパ各地でリサイタルやマスタークラスを行い、ますます自由な音楽で聴衆を魅了し続けている。
日本でも2009年11月再びリートデュオとして日本各地で演奏、以来、本格的に公演活動を再開している。

メゾ・ソプラノ:白井光子 Mezzo Soprano: Mitsuko Shirai 長野県に生まれ、シュトゥットガルト音楽大学で学ぶ。1972年、ハルトムート・ヘルと「リートデュオ」を結成。以後、1973年フーゴ・ヴォルフ歌曲コンクール、1974年ロベルト・シューマン・コンクールをはじめ、数多くのコンクールで優勝、国際的リート歌手として活躍。1982年シューマンの生地ツヴィッカウ市よりシューマン賞を受賞。室内楽、宗教曲、管弦楽曲のソリストとして世界有数のオーケストラ、演奏家との共演も多い。
また、カールスルーエ音楽大学で教える傍ら、世界各国のコンクール、マスタークラスの招待を受け参加していたが、ギラン・バレー症候群からのカムバック後、母国での後進の指導にもいっそう熱心に取り組んでいる。現在、国立音楽大学招聘教授、大阪音楽大学客員教授。
日独両国にその長年にわたる功績を認められており、「ひとつの場にとどまることなく、つねに前進を続ける芸術家としての資質を強く印象づけた」(文化庁贈賞理由より抜粋)として、2005年度第56回芸術選奨文部科学大臣賞、2008年に紫綬褒章、そして2010年2月にはドイツ連邦共和国功労十字小綬章を受章している。

©堀田正矩

メゾ・ソプラノ:白井光子 Mezzo Soprano: Mitsuko Shirai

ピアノ:ハルトムート・ヘル Piano: Hartmut Höll シュトゥットガルト、ミュンヘン、ミラノで学ぶ。白井光子との「リートデュオ」はもとより、1982年から、フィッシャー=ディースカウの伴奏者として、各地の音楽祭に出演、日本公演でも伴奏を務めた。
室内楽では、タベア・ツィマーマン、エドゥアルト・ブルンナー、ザビーネ・マイヤーらと協演、CD録音では、白井光子の他、ディースカウ、メニューイン、シフ、ツィマーマン等との協演が挙げられる。文学に造詣が深く、独自のアプローチによるリート研究への貢献は大きい。
2007年よりカールスルーエ音楽大学学長に就任、リートのみならず音楽教育にますます熱心に取り組んでいる。また、内外での意欲的なプログラムによるコンサートを企画、主宰する他、数多くのコンサートへの出演も続けている。

©堀田正矩

ピアノ:ハルトムート・ヘル Piano: Hartmut Höll

■曲目解説

木菟(三好達治・作詞/中田喜直・作曲)
三好達治は多くの作曲家に霊感を与え、前衛的な現代音楽の作曲家も彼の詩をテクストに作品を書いている。近代童謡の大家である中田喜直が作曲した《木菟》は、シンプルだが渋みのあるメロディが魅力的な、日本歌曲の真骨頂といえる作品。

ほうずき(萩原朔太郎・作詞/三善 晃・作曲)
作曲家・三善晃は、「日本近代詩の父」と称される萩原朔太郎の詩を用いて、1976年、《抒情小曲集》を作曲した。本曲《ほうずき》はそのなかの一曲。

少年(三好達治・作詞/諸井三郎・作曲)
《少年》は、三好達治の詩と、三好と交流のあった諸井三郎の作曲による。諸井三郎は、秩父セメント(現・太平洋セメント)一族の出身で、独学で作曲を学んだのちドイツに留学し、多くの大作を残した。

追分(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
明治・大正時代を代表する詩人・北原白秋は、鈴木三重吉が発刊した雑誌『赤い鳥』の中心人物として活躍し、新しい童謡の普及に貢献した。《追分》は1922年に出版された白秋の民謡集『日本の笛』に収録された一篇である。

さくら横ちょう(加藤周一・作詞/中田喜直・作曲)
加藤周一は東京帝大医学部を卒業後、中村真一郎・福永武彦らと「マチネ・ポエティク」を結成し、既成の詩壇に挑戦を試みた。中田喜直の作曲による《さくら横ちょう》は、シンプルなピアノ伴奏で朗々と春の宵に咲く桜の美しさを歌い上げている。

たあんき ぽーんき(山村暮鳥・作詞/中田喜直・作曲)
山村暮鳥はキリスト教の伝道師としての活動に加え、数々の詩や児童文学を執筆したが、35歳のときに罹患した肺結核によりわずか40歳で生涯を閉じた。この《たあんき ぽーんき》では、春先の田んぼでカラスがタニシを突っつく様子が、中田喜直の楽しく親しみやすいメロディで描かれている。

雪女(北原白秋・作詞/團 伊玖磨・作曲)
芥川也寸志、黛敏郎と「三人の会」を結成し日本の作曲界の地位向上に尽力した作曲家・團伊玖磨。北原白秋の詩を用いた《雪女》は1945年に作曲。團の若き日の作品ながら、日本歌曲の美を表現した情緒溢れる音楽は、のちの《夕鶴》を始めとする日本語によるオペラの名作へと結実していく。

しぐれに寄する抒情(佐藤春夫・作詞/大中 恩・作曲)
大正から昭和、戦後にかけて、多くの詩を残した佐藤春夫。「しぐれに寄する抒情」は多くの作曲家に強い印象を与え、この詩をテクストに用いた歌曲は20以上存在すると言われている。今回演奏されるのは、《犬のおまわりさん》や《サッちゃん》などの童謡で知られる大中恩が、そのデビューを飾った《5つの抒情歌》(1947年発表)の一篇として作曲したもの。

中国地方の子守歌(岡山県民謡/作詞不詳/作曲不詳/山田耕筰・編曲)
岡山県井原市から世に広まったとされる《中国地方の子守歌》は、1938年に山田耕筰の編曲でクラシックのリサイタルなどでも歌われるようになった。どこか哀愁の漂う子守歌の原型を生かしつつ、お宮参りで子供の幸せを願う風景が素朴に描かれている。

花季(大木 実・作詞/團 伊玖磨・作曲)
大木実は東京生まれの詩人で、1939年に『場末の子』で詩壇にデビューした。《花季》は彼の詩集『屋根』に収録されたもので、團伊玖磨はその詩をテクストとして1955年に作曲し、歌曲集《抒情歌》の第1曲とした。

ちびつぐみ(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)
《ちびつぐみ》は白秋の『日本の笛』に収録された一篇。今回演奏されるのは、平井康三郎の作曲による。平井は文部省唱歌《スキー》などで知られる、戦後日本の合唱音楽の重鎮的存在である。

おまつりはどこ(岸田衿子・作詞/中田喜直・作曲)
劇作家である岸田國士の長女で、女優・岸田今日子の姉として知られる詩人・童話作家の岸田衿子。彼女は、アニメ『アルプスの少女ハイジ』の主題歌の作詞者でもある。《おまつりはどこ》は、中田喜直により1966年10月から翌月にかけて作曲された歌曲集《日本のおもちゃうた》の一曲。

ねむの木(野口雨情・作詞/中田喜直・作曲)
野口雨情は、北原白秋、西條八十と並ぶ「童謡界の三大詩人」として名声を博した人物。この《ねむの木》は《たあんき ぽーんき》と同じく、中田喜直の《六つの子供の歌》に収められた。ねむの木を通して、夕暮れから夜にかけての風景が歌われている。

冬の日(冬木京介・作詞/石桁真礼生・作曲)
石桁真礼生は日本で最初に十二音技法を用いたオペラ《卆塔婆小町》などで知られる、戦後の日本を代表する作曲家の一人。本曲《冬の日》は1952年の作曲で、冬の陽気のなか子供が母の愛情に安らぐ様子が優しく描かれている。

曼珠沙華(北原白秋・作詞/山田耕筰・作曲)
白秋の歌集『思ひ出』に収録された「曼珠沙華」では、GONSHAN(ゴンシャン:九州・柳川の方言で「良家の娘」を意味する)が、かつて喪った子供を弔う様子が描かれている。曼珠沙華はいわゆる彼岸花であるが、かつては堕胎の薬としても使われたという。山田耕筰による子守歌風のメロディが、哀しさ以上に寒々しい暗さを感じさせる。

山は雪かよ(北原白秋・作詞/平井康三郎・作曲)《山は雪かよ》は、白秋の『日本の笛』に収録された一篇をもとに、平井康三郎が作曲。冬の寒々しい風景が、リズミカルかつコミカルに描かれている。

野の羊(大木惇夫・作詞/服部 正・作曲)
服部正は《ラジオ体操 第1》の作曲者として知られ、『わが青春に悔なし』など黒澤明の初期の映画でも音楽を担当するなど、日本のクラシック音楽の普及と大衆化に貢献した。《野の羊》は1935年頃の作品で、ヨーロッパ的な歌曲のスタイルを踏襲しつつも、日本的なリズムとメロディが意識されている。

鐘が鳴ります(北原白秋・作詞/山田耕筰・作曲)
北原白秋と山田耕筰の名コンビにより1923年に発表された《鐘が鳴ります》は、寒い夕暮れ時に待ち人を切なく待つ様子を描いている。

五月(萩原朔太郎・作詞/三善 晃・作曲)
萩原朔太郎はマンドリン演奏にも長け、マンドリン独奏曲《機織る少女》を作曲するなど西洋音楽への素養も深かった。《五月》は、三善晃の歌曲集《抒情小曲集》の最後を飾る作品である。

村祭(堀内幸枝・作詞/中田喜直・作曲)
堀内幸枝は「市之蔵村」などの詩で有名な女流詩人。《村祭》というタイトルからは、文部省唱歌にもなった南能衛の作品が想起されるが、中田喜直が作曲したこちらの作品もまた別の魅力を持っている。

烏(小川未明・作詞/中田喜直・作曲)
小川未明は「日本のアンデルセン」と称される児童文学者。本曲《鳥》は、中田喜直が《六つの子供の歌》の一曲として作曲した。なお、未明の詩の原題は「風ふき鳥(からす)」である。

さくら横ちょう(加藤周一・作詞/別宮貞雄・作曲)
こちらの《さくら横ちょう》は、別宮貞雄の作曲。中田作品に比べて、しっとりとした印象で、独特な情緒を色濃く描いている。本作は、別宮貞雄の歌曲集《2つのロンデル》(1951年)の第2曲として書き上げられた。

からたちの花(北原白秋・作詞/山田耕筰・作曲)
今回のプログラムでは、北原白秋と山田耕筰のコンビによる歌曲が多く演奏されるが、その白眉とも言えるのが《からたちの花》。1925年に雑誌『女性』に発表された本作は、9歳の時に養子へ出され勤労学校などで苦労した山田耕筰の少年期を、北原白秋が詩にしたとされる。



主催:東京・春・音楽祭実行委員会

ページの先頭へ戻る