春祭ジャーナル 2015/03/06
アーティスト・インタビュー
~吉田 誠(クラリネット)
■ミュージアム・コンサート
「新印象派-光と色のドラマ」展 記念コンサート vol.1 ~吉田 誠(クラリネット)
東京春祭での初リサイタルは、吉田さんお得意のフレンチ・プログラムです。吉田さんはフランスで研鑽を積まれましたが、いつ頃フランスに惹かれ始めたのですか?
もともと両親がフランス好きで、小さいころから親近感を抱いていました。子供の頃にドビュッシーやラヴェルの楽曲に惹かれたことが、フランス音楽に関心を持つ大きなきっかけだったと思います。
フランスは木管の優れたソリストを多数輩出していますし、木管楽器の演奏技術が非常に発達しているので、ずっと憧れていました。ですから留学先としてフランスを選んだのは自然な流れでした。
ピアノもお得意と伺いました。
母がピアノ教師だったので、小さい頃から"習い事"として弾いていました。その時からすでにフランス音楽は私の中で特別な存在で、ドビュッシーの『前奏曲集』や『映像』などが好きでよく聴いていました。
その後、クラリネットに出会ったのですね。
中高一貫の学校に通っており、中学時代はサッカー部に所属していたのですが、高校に上がる前に友人から吹奏楽部に誘われたんです。
両親に一言相談したところ、「吹奏楽部に入るならクラリネットがおすすめ!沢山メロディが演奏できるので楽しいと思う」と言われ、この楽器に決めました。
その後、本格的にクラリネットの先生のレッスンを受けに行くことになりました。子供の頃から職人に漠然と憧れていて、料理人やパイロットなど専門性の高い仕事をしたいと思っていたので、私の場合はそれが"演奏"だった、という感じでしょうか。
近年は指揮者としても活躍なさっています。始めたきっかけを教えてください。
プーランクやシューベルト、ブラームス、サン=サーンスなど、クラリネットの名曲と言われる作品はすべて作曲家の最晩年に作られています。そのためクラリネットのみを演奏しているだけでは、彼らが最終的にそこに至るまでに創った音楽を実際に人前で演奏することはできません。最晩年までの過程を体感することができないのです。そのような理由でまず、シンフォニーの勉強を始めました。
さらに、指揮をすれば勉強したことを演奏会で多くの人と共有できると思いました。「せっかく楽曲を勉強したのだから演奏しなければ意味がない!」との思いで、指揮の勉強も始めたのです。
今回は東京都美術館で開催中の「新印象派--光と色のドラマ」をテーマに、リサイタルを行います。プログラムを練る際に特にこだわった点などはありますか?
フランスでは印象派/新印象派と同時代に、クラリネットのための小品が多く生まれました。並行して、演奏技術のレベルも飛躍的に高まりました。そのため今回は、クラリネットの広い音域を存分に活かして作曲された作品がこの時代に多数生まれたこと、色々なアイディアをもった作曲家が沢山いたことを、プログラムを通してお伝えしたいと思いました。
展覧会のテーマでもある「光と色」は、昔からフランス音楽に対してイメージしていたものそのものです。フランス音楽を聴きながら鮮やかな光や色で頭の中が満たされる...そうした、自分がいつも抱いている感覚を聴衆の方々と共有できたらうれしいです。
ボザやラボー、ヴィドールら、普段はあまり表に出てこない作曲家も取り上げますね。
クラリネットをじっくりとお聴きいただけるせっかくの機会なので、この楽器の様々な魅力に触れていただきたいという想いから、自由にプログラムを練りました。
ラボーはアジアの文化に憧れた面白い作曲家です。ヴィドールはオルガンの名手で、今回取り上げる「序奏とロンド」は彼の唯一のクラリネット作品です。
その他、ドビュッシーやプーランクなど、メジャーな作品も演奏します。プーランクのソナタは、彼が亡くなる間際に作られた作品で、一見シンプルなのですが、豊富なアイディアが詰まっています。冒頭で演奏する「第1狂詩曲」については、ドビュッシー自身が、"自分が書いたラプソディ(狂詩曲)の中で最高傑作"であると書き残しています。実は第2狂詩曲は存在しないんですよ。本当は作りたかったらしいのですが、実現する前に亡くなってしまったのだそうです。
お客様にとって、ミュージアム・コンサートの魅力は何と言っても、お客様との距離が近い点です。吉田さんご自身は、何を楽しみにされていますか?
東京都美術館の会場はよく響きますよね。フランス留学中に、響きの豊かな教会で演奏する機会をいただいたことを思い出します。自分にとって今回のプログラムは「響き」が重要なテーマですので、その様な環境の中で演奏できるのは意義のあることだと思っています。
お客様との距離が近いということは、奏者の細かな表現や息遣いまで、見て感じていただけるのではないかと期待しています。