PROGRAMプログラム

■曲目解説　PDFダウンロード

池辺晋一郎：熱伝導率――オンド・マルトノのために（1995）

実相寺昭雄監督の映画『D坂の殺人事件』の劇中音楽であり、オンド・マルトノ奏者、原田節のために書かれたオンド・マルトノ独奏のための作品。オンド・マルトノ独自のポルタメントや、スピーカー群が効果的に使用され、官能的な音響世界を紡ぎだす。

リシャール・ブシェ：灯火観水（1986）

カナダ人の作曲家ブシェが、病と闘っていた最晩年に書き上げた作品。作曲家との協働により本作品を録音したカナダ人のオンディスト、エステル・リュミエールによれば、本作品はヴェトナム音楽の旋法などから影響を受けており、作曲者の日本滞在中に作曲されたという。自らの心の揺れを灯のもとに見つめるかのような、スタティックな書法が印象的である。

鈴木純明：秘境の歌（2010）

オンディスト久保智美の委嘱により作曲された、マルトノ独奏の作品。作曲者いわく、ゴドウィン著『音楽のエゾテリズム』に記されている、18世紀フランスで発明された微分音オルガンのイメージに触発され、本作を書き上げたという。曖昧に揺れ動く四分音、マルトノのリボン奏法や鍵盤奏法に対して、多様なアーティキュレーションが要求される。非常に多種の奏法が駆使されるなか、独特の音響世界がかたちづくられる。

有馬純寿：うつしのエチュードⅠ（2010）

《うつしのエチュード》は楽器の音や自然音を電子音響によって「うつしとる」ことを試みたシリーズ。たった一音で厳しく豊かな広がりを見せる尺八の響きを、志村禅保氏が演奏する尺八本曲《越後三谷》をもとに、倍音など一音一音に含まれる周波数を音響解析し、電子音による音の帯として再合成した。ヘテロフォニックに進みながら、微細に変化する音高のうねりのなかから、尺八の音の残像を聞き取っていただければ幸いである。（有馬純寿）

オンド・マルトノと電子音響による即興

オンド・マルトノの音をリアルタイムで加工しながら、電子音響とオンド・マルトノの即興を試みる。完全即興、今宵限りの音の競演がどのような響きを生みだすのか、どうぞお楽しみください。

坂本龍一：Rebirth２（2015）

アレハンドロ・イニャリトゥ監督、レオナルド・ディカプリオ主演のハリウッド映画『レヴェナント：蘇りし者』（2016）の劇中音楽として作曲された。オンド・マルトノの壮大な旋律が、大自然を背景に描かれる主人公の精神のドラマを象徴的に表現している。この映画出演により、ディカプリオは念願のアカデミー主演男優賞を受賞した。

ベルナール・パルメジアーニ：Outremer（1969）

フランス電子音響音楽史の巨人、パルメジアーニがオンド・マルトノとエレクトロニクスのために書いた、20分以上におよぶ大作。全体はほぼ切れ目なく演奏されるものの、曲想が変わるごとに、「水平」、「水平線のアクシデント」、「大地へ押し寄せる波」、「波（カデンツァ）」、「拡大」、「水泡」、「紫のひだ」などの但し書きが付けられている。マルトノと電子音響の多様なイメージとエネルギーの爆発が絡み合う、圧倒的な作品である。

主催：東京・春・音楽祭実行委員会
共催：上野の森美術館

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（2019/1/9更新）