PROGRAMプログラム

東京春祭マラソン・コンサート vol.9 宮廷の時代――5つの"響き"  ~ヨーロッパの芸術と宮廷の歴史をひも解く(日本・オーストリア国交樹立150 周年記念)

東京春祭マラソン・コンサート vol.9宮廷の時代――5つの”響き” 
~ヨーロッパの芸術と宮廷の歴史をひも解く(日本・オーストリア国交樹立150周年記念)

20世紀初頭に至るまで数世紀にわたり、ヨーロッパの諸芸術、さらには社会そのものに多大な影響を与えた宮廷。「宮廷の時代」に生まれた様々な音楽を通じ、ヨーロッパに一時代を画した宮廷の幾つもの姿に、5つの「響き」から迫ります。

プログラム詳細

2019:04:06:11:00:00

■日時・会場
2019/4/6 [土]
第I部  11:00
第II部  13:00
第III部 15:00
第IV部 17:00
第V部  19:00
[各回約60分]
東京文化会館 小ホール

企画構成・お話:小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院都市イノベーション学府教授)


【第 I 部】11:00開演(10:45開場)

祝祭の響き
祝祭は、宮廷の栄華と繁栄を象徴する存在でした。祝典曲からオペラに至るまで、宮廷ならではの「非日常性」を湛えた音楽の数々を取り上げ、宮廷祝祭の諸相を探ります。

■出演
ヴァイオリン:横溝耕一、倉冨亮太
ヴィオラ:佐々木亮
チェロ:宮坂拡志
フルート:梶川真歩
クラリネット:伊藤圭
ソプラノ:鵜木絵里、三井清夏
アルト:小泉詠子
バリトン:寺西一真
二期会合唱団
 ソプラノ:田崎美香
 アルト:喜田美紀
 テノール:園山正孝
 バリトン:寺西一真
ピアノ:朴令鈴、三輪郁

■曲目
ヘンデル(アイヒェル編):組曲《王宮の花火の音楽》より 序曲 HWV351[試聴]
[1stヴァイオリン:横溝耕一、2ndヴァイオリン:倉冨亮太、ヴィオラ:佐々木亮、チェロ:宮坂拡志]

ラモー(デュカス編):オペラ・バレ《優雅なインドの国々》より「ロンド」[試聴]
[ソプラノ:三井清夏、バリトン:寺西一真、二期会合唱団(ソプラノ:田崎美香、アルト:喜田美紀、テノール:園山正孝、バリトン:寺西一真)、ピアノ:朴令鈴]

ブル(バントック編):王の狩
[ピアノ:三輪郁]

J.シュトラウス2世(シェーンベルク編):皇帝円舞曲[試聴]
[1stヴァイオリン:横溝耕一、2ndヴァイオリン:倉冨亮太、ヴィオラ:佐々木亮、チェロ:宮坂拡志、フルート:梶川真歩、クラリネット:伊藤圭、ピアノ:三輪郁]

グルック(モーエン編):歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》(ウィーン版)より 第3幕 フィナーレ[試聴]
[ソプラノ:鵜木絵里、三井清夏、アルト:小泉詠子、二期会合唱団(ソプラノ:田崎美香、アルト:喜田美紀、テノール:園山正孝、バリトン:寺西一真)、ピアノ:朴令鈴]


【第 II 部】13:00開演(12:45開場)

楽興の響き
君主にとって音楽は、自身の権勢を示すための象徴のみならず、自ら参加して楽しむ対象でした。宮廷に繰り広げられた楽興の時を振り返ります。

■出演
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
       白井篤、倉冨亮太、猶井悠樹、横島礼理
ヴィオラ:中村洋乃理
チェロ:西山健一、市寛也
コントラバス:吉田秀
フルート:甲斐雅之
クラリネット:伊藤圭
ソプラノ:鵜木絵里、三井清夏
ピアノ:朴令鈴、三輪郁

■曲目
モルター:クラリネット協奏曲第3番卜長調より第l楽章
[1stヴァイオリン:白井篤、2ndヴァイオリン:倉冨亮太、ヴィオラ:中村洋乃理、チェロ:西山健一、クラリネット:伊藤圭]

カルダーラ:《報いられし気品》より「黙れ!苦しみよ!」
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、チェロ:市寛也、ソプラノ:鵜木絵里]

フリードリヒ2世(ヴァルダーゼー編):フルート・ソナタ第2番ハ短調
[フルート:甲斐雅之、ピアノ:三輪郁]

マリー=アントワネット(ヴェッケルラン編):私の大切な人
[ソプラノ:三井清夏、ピアノ:朴令鈴]

J.S.バッハ(レーガー編):ブランデンブルク協奏曲 第5番 ニ長調 BWV1050[試聴]
[1stヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、2ndヴァイオリン:白井篤、ヴィオラ:中村洋乃理、チェロ:西山健一、コントラバス:吉田秀、フルート:甲斐雅之、ピアノ:三輪郁]


【第 III 部】15:00開演(14:45開場)

祈願の響き
宮廷には礼拝が付きものであり、そこでは宮廷の繁栄のために神の加護が注がれることが祈られました。音楽を通じた、宮廷と宗教の関係を再考します。

■出演
ヴァイオリン:猶井悠樹、倉冨亮太、横島礼理
ヴィオラ:中村翔太郎、中村洋乃理
チェロ:市寛也
コントラバス:吉田秀
フルート:甲斐雅之、梶川真歩
ホルン:今井仁志、石山直城
トランぺット:菊本和昭
ソプラノ:鵜木絵里、三井清夏
アルト:小泉詠子
オルガン:大木麻理

■曲目
ラインハルト:トランペット・ソナタ
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、チェロ:市寛也、トランぺット:菊本和昭、オルガン:大木麻理]

レオポルト1世:天の女王
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:倉冨亮太、1stヴィオラ:中村翔太郎、2ndヴィオラ:中村洋乃理、アルト:小泉詠子、オルガン:大木麻理]

サリエリ:イエスの母君
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、ヴィオラ:中村翔太郎、コントラバス:吉田秀、ソプラノ:三井清夏、アルト:小泉詠子、オルガン:大木麻理]

L.モーツァルト:汝はまことの人、まことの神
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、ヴィオラ:中村翔太郎、チェロ:市寛也、コントラバス:吉田秀、1stホルン:今井仁志、2ndホルン:石山直城、ソプラノ:鵜木絵里、オルガン:大木麻理]

W.A.モーツァルト:モテット《踊れ、喜べ、汝幸いなる魂よ》(ザルツブルク版) K.165[試聴]
[1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、ヴィオラ:中村翔太郎、チェロ:市寛也、コントラバス:吉田秀、1stフルート:甲斐雅之、2ndフルート:梶川真歩、1stホルン:今井仁志、2ndホルン:石山直城、ソプラノ:鵜木絵里、オルガン:大木麻理]


【第 IV 部】17:00開演(16:45開場)

賛美の響き
宮廷の君主に対する賛美の歌は、その国の国歌として広まるといった具合に、多様な形で親しまれました。様々な形に編まれた賛美の響きを聴きます。

■出演
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
       二村英仁
       横溝耕一
ヴィオラ:佐々木亮
チェロ:宮坂拡志
ピアノ:三輪郁、山田武彦

■曲目
チャイコフスキー(作曲者編):デンマーク国歌に基づく祝典序曲 op.15[試聴]
[ピアノ:三輪郁、山田武彦]

パガニーニ:「神よ、王を守りたまえ」に基づく変奏曲op.9[試聴]
[ヴァイオリン:二村英仁]

リスト:アンリ4世万歳!S239
[ピアノ:山田武彦]

ガベッティ:王室行進曲
[ピアノ:山田武彦]

チェルニ一:ハイドンの「神よ、皇帝フランツを守り給え」に基づく変奏曲op.73
[1stヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、2ndヴァイオリン:横溝耕一、ヴィオラ:佐々木亮、チェロ:宮坂拡志、ピアノ:山田武彦]


【第 V 部】19:00開演(18:45開場)

支援の響き
宮廷やそれに関係する人々の支援を受け、ヨーロッパの文化は長年にわたる大きな繁栄を遂げました。文化支援という流れの中に生まれた音楽の数々を味わいます。

■出演
ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル
       白井篤、猶井悠樹、横溝耕一、横島礼理
ヴィオラ:佐々木亮、中村翔太郎、中村洋乃理
チェロ:西山健一、市寛也、宮坂拡志
フルート:梶川真歩
オーボエ:青山聖樹、坪池泉美
ホルン:今井仁志、石山直城
ピアノ:三輪郁、山田武彦

■曲目
ベートーヴェン(フンメル編):交響曲第1番ハ長調op.21より第1楽章[試聴]
[ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、チェロ:宮坂拡志、フルート:梶川真歩、ピアノ:山田武彦]

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲集《チェトラ》より協奏曲第1番ハ長調RV.181a
[ヴァイオリン・ソロ:ライナー・キュッヒル、1stヴァイオリン:猶井悠樹、2ndヴァイオリン:横島礼理、ヴィオラ:中村翔太郎、チェロ:市寛也]

リュリ(デルデヴェス編)歌劇《アルセスト》よりガヴォットとロンドー
[ヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、ピアノ:三輪郁]

F.J. ハイドン(ヴラニッキー編):オラトリオ《天地創造》HobXXI-2 ょり導入部「混沌の描写」 [試聴]
[1stヴァイオリン:白井篤、2ndヴァイオリン:横溝耕一、1stヴィオラ:中村洋乃理、2ndヴィオラ:中村翔太郎、チェロ:西山健一]

スヴィーテン:交響曲
[1stヴァイオリン:ライナー・キュッヒル、2ndヴァイオリン:白井篤、ヴィオラ:佐々木亮、チェロ:西山健一、1stオーボエ:青山聖樹、2ndオーボエ:坪池泉美、1stホルン:今井仁志、2ndホルン:石山直城]


【試聴について】
[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、プログラム楽曲の冒頭部分を試聴いただけます。ただし試聴音源の演奏は、「東京・春・音楽祭」の出演者および一部楽曲で編成が異なります。


※室内楽版にて演奏予定
※出演者は決定次第、当サイトならびにSNS、メールマガジン等でお知らせいたします。
marathon_comment.pdf

チケットについて チケットについて

■チケット料金(税込)
■チケット料金(税込)

席種 全席指定
1日券
(5公演通し券)
第 I 部
(各回券)
第 II 部
(各回券)
第 III 部
(各回券)
第 IV 部
(各回券)
第 V 部
(各回券)
料金 ¥9,000 ¥2,500

■発売日

チケット予約・購入 お買い物カゴ トリオ・チケット

一般発売:2019年1月27日 (日) 10:00

■東京文化会館 小ホール

■曲目解説 PDFダウンロード

小宮正安(ヨーロッパ文化史研究家/横浜国立大学大学院 都市イノベーション学府教授)

第1部 祝祭の響き

祝祭は、宮廷の栄華と繁栄を象徴する存在でした。祝典曲からオペラに至るまで、宮廷ならではの「非日常性」を湛えた音楽の数々を取り上げ、宮廷祝祭の諸相を探ります。

《王宮の花火の音楽》は、1749年にロンドンで開催された花火大会のために、ゲオルク・フリードリヒ・ヘンデル(1685-1759)が作った曲。オーストリア継承戦争が終わりアーヘンの和約が結ばれたことを記念したもので、イギリス国王ジョージ2世(1683-1760)からの依頼によるものだった。本日はその幕開けを飾る序曲を、リン・レイサムによる弦楽四重奏版で。
 ジャン=フィリップ・ラモー(1683-1764)は、フランス王ルイ15世(1710-74)支配下のパリで活躍。宮廷祝祭の一環であるオペラ・バレを数多く作り、特に1735年初演の《優雅なインドの国々》に登場する新世界の「未開人」によるロンドーは有名だ。本日は、交響詩《魔法使いの弟子》でも有名なポール・デュカス(1865-1935)が、1902年にオーケストラパートをピアノ用に書き換えた版を取り上げる。
 ジョン・ブル(1562/63-1628)は、イギリスの作曲家、オルガン製造者。宮廷祝祭の典型ともいえる狩の様子を描いた《王の狩》を、本日はイギリス世紀転換期の作曲家グランヴィル・バントック(1868-1946)がピアノ用に編曲した版でお楽しみいただきたい。
 「ワルツ王」の呼称で知られ、ウィーンの宮廷舞踏会音楽監督を長年にわたって務めたこともあるヨハン・シュトラウス2世(1825-99)の《皇帝円舞曲》は、1889年の作品。19世紀半ば以降、ドイツの統一をめぐる主導権争いの余波でぎくしゃくしていたオーストリアとプロイセンだったが、徐々に親善が図られるようになり、この作品も元々は「手に手をとって」という題名が付けられていた。そんなシュトラウスの人気ワルツを室内楽用に編曲したのが、20世紀音楽の祖の一人であるアルノルト・シェーンベルク(1874-1951)。自らが主宰する「私的演奏家協会」で上演するために、1925年にこの版を編みだした。
 オペラは元々、宮廷における一大スペクタクルだったが、18世紀に入ると豪奢を追求しすぎるあまり、花形歌手ののど自慢のような様子を呈していた。それに異議を唱え、オペラの改革をおこなったのがクリストフ・ヴィリバルト・グルック(1714-87)。そんな彼が1762年に、当時の宮廷劇場(ブルク劇場)で発表したのが、歌劇《オルフェオとエウリディーチェ》である。たしかにその内容は、登場人物の喜怒哀楽を抉るように描き出すという点で、近代オペラの幕開けといえる存在だ。ただし、フィナーレで強引なハッピーエンドがもたらされる点において、オペラが君主を、あるいは君主の治める国を賛美するメディアであり、当作品もその産物であったことがよく分かる。本日はこの1762年初演版を編纂したベーレンライター版(伴奏部分はハインツ・モーエン編曲)に基づく上演である。

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第2部 楽興の響き

君主にとって音楽は、自身の権勢を示すための象徴のみならず、自ら参加して楽しむ対象でした。宮廷に繰り広げられた楽興の時を振り返ります。

宮廷の時代における「音楽会」は、現在のように劇場やホールで開かれる大規模な催しだけではない。貴族の邸宅の広間でおこなわれる私的な音楽の集いも数多く含まれ、そこでは文字通りの室内楽編成による小型オーケストラが活躍した。ヨハン・メルヒオール・モルター(1696-1765)が1740年代に書いた6つの《クラリネット協奏曲》もその一例。なお、元々軍楽隊の楽器だったクラリネットは、18世紀中頃から雅な宮廷音楽にも採り入れられるようになるが、モルターはその動きを作った先駆的存在の一人である。
 貴族の邸宅では、小規模な音楽劇が上演されることもあった。アントニオ・カルダーラ(1670-1736)による《報いられし気品》もそのために作られた作品だ。神聖ローマ皇帝カール6世(1685-1740)の妻であったエリーザベト・クリスティーネ(1691-1750)の誕生日祝いのために1735年に書かれ、「気品」の様々な様態を3つの声楽曲が描き出すという内容である。特にその中の「黙れ! 苦しみよ!」の独唱は、彼らの長女であった若き日のマリア=テレジア(1717-80)が担当した。
 やがてオーストリア大公女に即位したマリア=テレジアの宿敵となったのが、プロイセン王フリードリヒ2世(1712-86)。「大王」とも呼ばれるように、プロイセンの富国強兵政策を推し進める一方で、フルート演奏を得意とする音楽愛好家だった。自身で演奏すべく、夥しい数のフルート協奏曲やフルート・ソナタも残している。本日はその中から、ハ短調の《フルート・ソナタ 第2番》を。プロイセンの軍人であり貴族であるとともに、音楽愛好家だったパウル・ヴァルダーゼー(1831-1906)が、元はチェンバロ用だった伴奏部分をピアノ用に編曲し、調性もニ短調に変更した版でお楽しみいただこう。
 マリア=テレジアの娘で、フランス王室へと嫁いだのがマリア=アントーニア(1755-93/フランス語読みではマリー=アントワネット)。彼女も若いころ、《私の大切な人》を含む幾つかの曲を作っている。本日は、フランスのアルザスを拠点に活躍した作曲家ジャン=バプティスト・ヴェッケルラン(1821-1910)が、伴奏パートをピアノ用に編曲した版で演奏する。
 ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(1685-1750)は、前半生の多くを宮廷に仕える音楽家として過ごした。6曲から成る《ブランデンブルク協奏曲集》もそうした中から生まれ、ブランデンブルク=シュヴェート辺境伯クリスティアン・ルートヴィヒ(1677-1734)に捧げられたことから、この呼び名が付いた。その中から第5番を、名門オーケストラと謳われたマイニンゲン宮廷楽団の指揮者も務めたことのあるマックス・レーガー(1873-1916)の編曲版でどうぞ。

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第3部 祈願の響き

宮廷には礼拝が付きものであり、そこでは宮廷の繁栄のために、神の加護が注がれることが祈られました。音楽を通じた、宮廷と宗教の関係を再考します。

宮廷の時代、ソナタが取り上げられたのは演奏会だけではなかった。ウィーンの宮廷音楽家で、宗教祭儀のプロモーターとしても活躍したフランツ・ラインハルト(1685-1727)の《トランペット・ソナタ》もその1つ。ハプスブルク家の皇族たちが列席したであろう宗教祭儀に相応しい華やかな響きで、礼拝の開始を告げるために用いられた。
 神聖ローマ皇帝を務めたハプスブルク家のレオポルト1世(1640-1705)は、文化振興に力を注いだ同家の伝統を継承発展させ、自ら作曲の筆をとるほどの音楽愛好家だった(なおこの伝統は、後のハプスブルク家の当主にも数代にわたって受け継がれてゆく)。《天の女王よ》は、宮廷礼拝堂での典礼で用いるべく1655年に彼が作曲したもので、伴奏部分はウィーンで活躍したイタリア人作曲家のアントニオ・ベルターリ(1605-69)が補足した。
 ウィーンの宮廷で活躍したイタリア人といえばアントニオ・サリエリ(1750-1825)もその1人である。主な作曲領域はオペラであり、ウィーンの宮廷に仕えるようになってからは2つの宗教曲のみを手掛けているが、その1つこそが《イエスの母君》。1790年、神聖ローマ皇帝に即位したばかりのレオポルト2世(1747-92)が列席する典礼のために作られた。なお、当時ハプスブルク家がウィーンで礼拝を捧げる教会は、宮廷礼拝堂以外にも数ヵ所存在し、当作品はイタリアと関係の深いミノリーテン教会で初演されている。
 現在はオーストリアの一都市であるザルツブルクだが、19世紀初頭までは、カトリックの有力者である大司教が治める国だった。またそこには、典礼をはじめ宮廷行事に欠かせない存在として、優れた宮廷楽団が存在していた。レオポルト・モーツァルト(1719-87)も、この地の宮廷楽団に仕え、宮廷付きの作曲家として活躍。1755年に作られた《汝はまことの人、まことの神》は、ドイツ語のテキストを基にした宗教的モテットである。
 このレオポルトの息子が、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91)。《踊れ、喜べ、幸いなる魂よ》も、教会での演奏を念頭に置いた宗教的モテットで、演奏旅行先のミラノで1773年に作られた(その前年には、ザルツブルクの新たな大司教に、彼の不倶戴天の敵となるヒエロニムス・フォン・コロレード[1732-1812]が就任している)。ただし、その後1779年に同曲をザルツブルクで上演するにあたって、教会暦に合わせた歌詞の書き換えと、楽器編成の一部についても、オーボエからフルートへ変更がおこなわれた。それが本日取り上げられる「ザルツブルク版」である。

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第4部 賛美の響き

宮廷の君主に対する賛美の歌は、その国の国歌として広まるといった具合に、多様な形で親しまれました。様々な形に編まれた賛美の響きを聴きます。

19世紀後半のロシアでは、近代化政策が推し進められ、君主や帝国の国威を高揚するような音楽が次々と作られた。ピョートル・チャイコフスキー(1840-93)が1866年に作曲した管弦楽曲《デンマーク国歌に基づく祝典序曲》(本日は、作曲者本人によるピアノ連弾版で)もその1つで、皇太子アレクサンドル(後の皇帝アレクサンドル3世[1845-94])とデンマーク王女ダグマー(1847-1928)との結婚に際して書かれた。世界最古の国歌の1つと言われるデンマーク王室歌《クリスティアン王は高き帆柱の傍らに立ちて》(作曲はディトレフ・ルートヴィク・ロゲルト[1742-1813]とされている)と、ロシア帝国国歌《神よ皇帝を守りたまえ》(作曲は貴族であり、音楽家でもあったアレクセイ・リヴォフ[1799-1870])の旋律が現れる。
 イギリス国歌として広まっている賛歌《神よ、王を守りたまえ》は、作曲者不明。1745年に現在の形へ編纂をおこなったのは、トーマス・アーン(1710-78)である。その旋律は、様々な作曲家の作品に採り入れられているが、本日はヴァイオリンの魔術師として知られ、19世紀初頭の宮廷をはじめとするヨーロッパ各地を魅惑したニコロ・パガニーニ(1782-1840)による、独奏ヴァイオリン用の変奏曲版(1825年)をどうぞ。
 パガニーニより少し遅れて、ピアニストの魔術師として宮廷人から一般人までを魅了したのが、フランツ・リスト(1811-86)。彼が1870年に編曲した《アンリ4世万歳!》は、フランス革命勃発以前、王政が敷かれていたフランスでうたわれていた歌で、いわば国歌としての役割を果たしていた。作曲者は不明だが、既に1660年頃には成立していたと考えられている。
 《王室行進曲》は、1861年に誕生したイタリア王国の国歌として用いられた。曲自体はそれに遡ること1831年あるいは34年、ジュゼッペ・ガベッティ(1796-1862)が、サルディーニャ国王カール・アルベルト(1798-1849)の依頼に応えて作ったもの。なおこのサルディーニャ王国が、やがてイタリア統一の際、中心的役割を果たすことになる。
 帝政オーストリアの国歌《神よ、皇帝フランツを守り給え》は、ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)が、1796年あるいは97年に作った、いわゆる「皇帝賛歌」。これが1804年、正式に国歌として認定された。なお、のちにドイツ国歌にも採り入れられることとなったその旋律は、多くの作曲家に霊感を与え、その一人がピアノ練習曲でもお馴染みの作曲家カール・チェルニー(1791-1857)である。彼は1824年、独奏ピアノとオーケストラのための《ハイドンの「神よ、皇帝フランツを守り給え」に基づく変奏曲》を作るが、オーケストラパートは弦楽四重奏でも演奏できるように書かれており、本日はそちらの版をお楽しみいただこう。

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第5部 支援の響き

宮廷やそれに関係する人々の支援を受け、ヨーロッパの文化は長年にわたる大きな繁栄を遂げました。文化支援という流れの中に生まれた音楽の数.々を味わいます。

宮廷は、自らの権威を高めるための文化支援を積極的におこなった。またその中から、今日私たちが耳にしている、西洋音楽の傑作が生まれていった。本日はそうした影響下に生まれ育った音楽愛好家であり、音楽支援者であった貴族ゴットフリート・ファン・スヴィーテン(1733-1803)に焦点の1つを当てる。
 まずは、ルートヴィヒ・ファン・ベートーヴェン(1770-1827)が1799年から1800年にかけて書いた《交響曲 第1番》から第1楽章を。彼は1801年にこの曲を出版するに当たり、スヴィーテンへ献呈をおこなった。その後、この曲は家庭でも楽しめるよう、様々な人々によって編曲されてゆくが、今回はベートーヴェンとも交流のあったヨハン・ネポムク・フンメル(1778-1837)による室内楽用編曲版をお楽しみいただこう。
 アントニオ・ヴィヴァルディ(1678-1741)は、生涯の多くをイタリアで過ごしたが、当時この地に大きな影響力を持っていたハプスブルク家とも密接な関係を持ち続けた。1727年に出版されたヴァイオリン協奏曲《チェトラ》も、同家の当主であり、神聖ローマ皇帝であったカール6世(1685-1740)に捧げられている。本日はその中から、第1番が演奏される。
 ジャン=バティスト・リュリ(1632-87)は、フランス王ルイ14世(1638-1715)の寵愛を一身に受けた音楽家として活躍し、1674年には本格的な音楽荘重劇である《アルセスト》を初演する。その中から、ガヴォットとロンドーを、19世紀のフランスのヴァイオリン奏者であり音楽理論家のエドゥアール・デルデヴェス(1817-97)の編曲で。
 ヨーゼフ・ハイドン(1732-1809)が1796年から98年にかけて作曲したオラトリオ《天地創造》。テキストは、元々彼が所有していた英語版のものをドイツ語に翻訳してくれるよう、スヴィーテンに依頼して出来上がった。スヴィーテン自身、外交官や宮廷図書館館長を歴任したこともあって、語学の才能も豊かだったことの証に他ならない。本日は、この大作から冒頭部分、混沌の描写に続き神の栄光が出現する場面を、ウィーンで活躍したヴァイオリン奏者アントニン・ヴラニツキー(1761-1820)の弦楽四重奏用編曲で取り上げる。
 2019年のマラソンコンサートを締めくくるのは、スヴィーテンの『交響曲』。かつては、ハイドンの手による作品と考えられていたが、その後スヴィーテンの作曲であることが判明した。彼自身密接な交流のあった、ハイドンやヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756-91)らによって確立された「ウィーン古典派」の響きを宿した佳作である。おそらくは、彼の屋敷で催される演奏会のために書かれたものだろう。

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主催:東京・春・音楽祭実行委員会
後援:オーストリア大使館オーストリア文化フォーラム
協力:ウィーン楽友協会資料館






※掲載の曲目は当日の演奏順とは異なる可能性がございます。
※未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
※チケット代金お支払い後における、お客様の都合による変更・キャンセルは承りません。
※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる可能性がございますが、出演者・曲目変更による払い戻しは致しませんので、あらかじめご了承願います。
※チケット金額はすべて消費税込みの価格を表示しています。
※営利目的のチケットの転売はいかなる場合でも固くお断りします。正規の方法以外でご購入いただいたチケットのトラブルに関して、当実行委員会はいかなる責任も負いません。

(2018/12/27更新)

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