PROGRAMプログラム

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2018-

東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.5エネスク――ルーマニアン・ラプソディ
~小林美恵(ヴァイオリン)&寺嶋陸也(ピアノ)

ヴァイオリニストとして20世紀前半に活躍し、教育者としても幾人もの名奏者を育てたエネスク。祖国ではズービン・メータが名誉総裁をつとめるフェスティバルも開催される、ルーマニアが生んだ国民的音楽家の魅力を余すところなくお届けします。

プログラム詳細

2018:03:21:15:00:00

■日時・会場
2018.3.21 [水・祝]15:00開演(14:30開場)
上野学園 石橋メモリアルホール

■出演
ヴァイオリン:小林美恵
ピアノ:寺嶋陸也
お話:伊東信宏(大阪大学大学院教授/音楽学)

■曲目
エネスク:
 ルーマニアン・ラプソディ 第1番 イ長調 op.11-1 [試聴]
 《幼い日の印象》 op.28 [試聴]
  I. 辻音楽師
  II. 年老いた乞食
  III. 庭の片隅のせせらぎ
  IV. 籠の中の鳥と壁のカッコウ時計
  V. 揺りかごの歌
  VI. こおろぎ
  VII. 窓からの月の光
  VIII. 煙突の中の風
  IX. 夜になってからの突然の嵐
  X. 夜明け
 ヴァイオリン・ソナタ 第3番 イ短調 op.25 《ルーマニアの民俗音楽の性格で》 [試聴]
  I. Moderato malinconico
  II. Andante sostenuto e misterioso
  III. Allegro con brio, ma non troppo mosso

【試聴について】
[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、プログラム楽曲の冒頭部分を試聴いただけます。ただし試聴音源の演奏は、「東京・春・音楽祭」の出演者および一部楽曲で編成が異なります。


チケットについて チケットについて

席種 S席 A席 U-25
料金 ¥3,600 ¥2,100 ¥1,500

 ■発売日
  先行発売:2018年1月28日(日)10:00  2018:01:28:10:00:00:2018:02:15:23:59:59
  (先行対象の席種:S席 A席)

  ※ 先行発売はお電話では2月15日(木)18:00まで、インターネットでは2月15日(木)23:59までの受付となっております。


  一般発売:2018年2月18日(日)10:00
  ※ U-25チケットは、2018年3月9日(金)12:00発売開始
   (公式サイトのみでの取扱い)

チケット予約・購入 お買い物カゴ トリオ・チケット 25
 ■上野学園 石橋メモリアルホール

■曲目解説

伊東信宏(大阪大学大学院教授/音楽学)

ルーマニアン・ラプソディ 第1番

ラプソディ、とは元々古代ギリシアの朗唱家が紡ぐ叙事詩のことを指していたが、フランツ・リストの《ハンガリアン・ラプソディ》(1851-53年)の大成功以来、音楽ジャンルとして知られるようになり、以後世界各国、各民族のラプソディが書かれるようになった。それらはいずれもあまり厳格な形式を持たず、民俗的/民族的旋律を複数つなぎ合わせて書かれるのが通例だった。エネスクのルーマニアン・ラプソディ第1番(1901年)はそのルーマニア版。すでに十代の終わりに「ルーマニア詩曲」(1897年)で成功し、祖国の期待を一身に集めていたエネスクが、どうしても書かねばならなかった作品だった。

曲は、やはりいくつかの民俗的旋律の接続曲として書かれている。ルーマニア民謡「1レウあるから飲みに行こう」で始まり、いくつかの旋律を経て「ひばり」の旋律(のちにジプシー・ヴァイオリンの定番曲となった)でクライマックスを迎える。この「1レウあるから・・・」という民謡は、エネスクが楽器の手ほどきをうけたロマの楽師から教わった、と言われているものである。

《幼い日の印象》

《幼い日の印象》は、1940年に書かれた。内容的には、エネスク少年が見た故郷モルドヴァの夕刻から翌朝までにかけての様子を描いたもの、と言える。エネスク自身の解説を要約してみよう。

まず1曲目は、「辻音楽師」。ここに描かれているのは、道々を歩きながら演奏してゆく芸人であり、上等な音楽家というよりは、比較的うらぶれた「楽師」である。彼がヴァイオリンを弾きながら通り過ぎた後、次には「年老いた乞食」が通りかかる。彼は「お恵みを、お恵みを・・・おありがとうござい。あなたに天の祝福があらんことを」などと「しわがれ声で」(楽譜中の指示)つぶやいて少年の前を通り過ぎてゆく。第3曲「庭の片隅のせせらぎ」では、自分の家の庭にあった小さな流れのことを思いだす。第4曲で、少年は部屋の中に戻って来る。まず籠の中の鳥がさえずり、そこにカッコウ時計が突然7時を告げる。夕刻7時に、エネスク少年は毎日鳥籠に覆いをかけて鳥を休まさせねばならなかった。そして自分もベッドに入らねばならない。第5曲は、ベッドの傍らで乳母が歌ってくれる子守歌。暖炉の中で「こおろぎ」(第6曲)が鳴くのを聞く頃には、すっかり眠くなって少年は眠りに落ちる。第7曲は、そんな少年の寝顔を照らす「窓からの月の光」。そうこうするうちに夜空は次第に険しくなってきて、暖炉から延びる煙突に風が吹き込み不気味な音をたてる。第8曲「煙突の中の風」は、そんな音を模したものだろう。夜中に目覚めた少年は、「夜になってからの突然の嵐」(第9曲)をカーテンの隙間から見て、怖くなってベッドに再びもぐりこむ。だが、その嵐もおさまり、やがて安心して眠り込んだ少年のもとに「夜明け」(第10曲)がやってくる。「光が差し込んで、部屋中を満たします。鳥もさえずる。そして全ての主題が再帰しますが、それらは長調になり、満たされ、形を変えて現れます。」

ヴァイオリン・ソナタ 第3番 《ルーマニアの民俗音楽の性格で》

1924年の作品で、3つの楽章から成る。第1楽章は「メランコリックで中庸のテンポで」、第2楽章「十分に音の長さを保って、神秘的なアンダンテ」、第3楽章が「活気をもったアレグロ、しかし躍動しすぎずに」というテンポ表示を持ち、ソナタ形式の冒頭楽章、歌謡的な緩徐楽章、そして活発な終曲、という伝統的なソナタの構成にほぼ則っている。

副題に示されているとおり、ここにはルーマニアの民俗的な音楽現象(あるいは音響)が、様々な形で取り込まれている。例えば、ピアノはしばしば民俗楽器ツィンバロム(ルーマニアでの呼び方なら「ツァンバル」)の分散和音やトレモロ的奏法を模倣している。また、第2楽章冒頭におけるヴァイオリンのフラジオレットは、明らかに民俗的な笛(例えばルーマニアの「フルイエル」など)の模倣だろうし、それに続く5度の枠を行き来する動機は、村のバグパイプだと思われる。

また、同楽章では、ヴァイオリンが笛を模倣しているその下で、ピアノが密やかにイ音を叩き続けるが、このピアノの同音連打を、ルーマニア正教の教会にある「トアカ」と呼ばれる木切れの音だという説がある。

こういった音の原風景を忍ばせながら、エネスクは極めて詳細な楽譜を書いた。その旋律はどんな指使いで、弓使いで、そしてどれほどの音量で、音色で、弾かれるべきか、作曲者は、演奏者の振り付けを隅々まで規定したがっているように見える。しかもここには時に四分音(半音の半分の音程)まで動員される。そうすることで、エネスクは自分が知り尽くしている村の楽師の音楽(=ロマの音楽)を、都会育ちのヴァイオリニストにも演奏できるようにしたかったかのようだ。だが、肝心なのは、その技巧性ではない。その向こうにある、村の音楽の荒々しさや、香りや、詩情こそ、エネスクが書き留めたかったものなのだろう。

主催:東京・春・音楽祭実行委員会 特別協力:上野学園 石橋メモリアルホール


※掲載の曲目は当日の演奏順とは異なる可能性がございます。
※未就学児のご入場はご遠慮いただいております。
※やむを得ぬ事情により内容に変更が生じる可能性がございますが、出演者・曲目変更による払い戻しは致しませんので、あらかじめご了承願います。
※チケット金額はすべて消費税込みの価格を表示しています。
※ネットオークションなどによるチケットの転売はお断りいたします。

(2018/03/18更新)

ページの先頭へ戻る