HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2018/03/07

アーティスト・インタビュー
〜長 哲也(都響ファゴット首席奏者)

東京・春・音楽祭2018にて「都響メンバーによる室内楽~木管五重奏とピアノによるフランス音楽集」に都響の仲間たちと一緒に出演する長 哲也さん(都響ファゴット首席奏者)に公演の聴きどころなどお話を伺いました。

取材&文・柴田克彦(音楽ライター)


 長哲也は、11歳のときジュニア・オーケストラでファゴットを始め、2012年東京藝大卒業と同時に東京都交響楽団に入団、以来6年間首席奏者を務めている若き名手だ。「東京・春・音楽祭」でも、都響での演奏のほか、2013年「金子亜未 オーボエ・リサイタル」、2016年「クリストフ・プレガルディエンの《冬の旅》(木管五重奏とアコーディオンを伴う演奏)」、同「リッカルド・ムーティ指揮 日伊国交樹立150周年記念オーケストラ」、2017年「〈ナイトミュージアム〉コンサート」に出演し、多彩な技量を発揮している。

長 哲也

長 哲也

 「毎年本当に楽しませてもらっています。特にプレガルディエンさんの《冬の旅》では、器楽奏者がこの曲に関わる貴重な経験を得られ、しかも超一流の歌声と共演できたことに感謝しています。ただ私自身もハミングで歌う場面があって、そこは苦労しましたね。ムーティさんは、一般に言われている怖さよりも丁寧な指導が印象的でした。それにこのオーケストラでは、メンバー双方の母国、日本とイタリアで公演したことに大きな意義があったと思います。ともかく東京・春・音楽祭では、上野の桜とお客様にも漂う春の雰囲気の中で、毎回ワクワクしながら演奏しています」

 今年は「都響メンバーによる室内楽」に出演。首席奏者を中心とした木管五重奏に佐藤卓史のピアノが加わって、フランスの名品を聴かせる。

 「フランスの作品ならではのテクニカルで華やかなサウンドを満喫していただけるコンサート。イベールやプーランクなどの定番曲に加えて、19世紀の女性作曲家ファランクの六重奏曲を演奏するのが楽しみです。ファランクは、フンメルの弟子でパリ音楽院初の女性教授となった歴史的な重要人物。この作品はモーツァルトやベートーヴェン的な雰囲気をもっています。ですから、プーランクのモダンな定番作品とファランクのクラシックなレア作品というテイストの異なる2つの六重奏曲を味わえるのが、本公演の大きな見どころ。さらには、シャミナードにファランクと女性の作曲家が続くのも興味深い点だと思います」

 幕開けはイベールの「3つの小品」。モダンかつ親しみやすい木管五重奏の定番曲だ。

長 哲也

2016年 リッカルド・ムーティ指揮
日伊国交樹立150周年記念オーケストラ公演の
リハーサルにて

 「"The フランス"ともいえる華やかな作品。技術的には超難曲というわけではないのですが、基礎がしっかりしていないと聴かせられない面もあります。構成がシンプルでムダがなく、オープニングを飾るに相応しい曲です」

 2曲目はフランセの「木管四重奏曲」。ホルンが入らない木管だけの四重奏は意外に珍しい。

 「木管三重奏曲は沢山あるのですが、オーケストラで隣接する4本だけを取り出すことはほとんどないので、まずはサウンド自体が聴きものです。それにフランセの一番の魅力は聴いて愉しいところ。この曲は、彼の中でもとりわけ軽妙・軽快な作品で、イベールとは違った皮肉っぽさや、ストラヴィンスキー風の変拍子を効かせたオシャレな面をもっています」

 続くはフランスのエスプリ満載のプーランクの作品。プログラムの前半を「六重奏曲」で締め、後半を木管五重奏の「ノヴェレッテ ハ長調」で開始する。

 「六重奏曲は、この編成の大スタンダードで、演奏しても聴いても楽しく、皆がハッピーになれる作品。よく出来た曲で何回やっても飽きません。ノヴェレッテは元々ピアノ曲ですが、木管用の編曲版もよく取り上げられています。こちらは六重奏曲とは雰囲気が異なるシンプルで明るい小品。今回は後半のオープニングに序曲的な意味合いで演奏します」

 そして、「雰囲気や色合いが木管に合っていて、五重奏でもオーケストラ的な響きがする」ドビュッシーの「小組曲」、佐藤卓史が弾くシャミナードのピアノ曲を経て、前記のファランクの六重奏曲に至る。

長 哲也

 「ファランクの曲は意外にも明快で重厚。プーランクの六重奏曲はかなり音がぶつかりますが、ファランクの方は調和しますので、この聴き比べは面白いと思います。ただ、プーランクは隙がないのに対して、ファランクは演奏者に委ねられている部分が多いので、曲作りが重要になります。ここは力を入れて取り組みたいですね」

 今回は、普段一緒に演奏しているメンバーのアンサンブルが強みでもある。

 「木管の首席奏者だけで組むことは滅多にないので、これも貴重な機会です。とはいえ、いつも4人ひと固まりで演奏し、お互いの音を聴きながら合わせていますから、一体感は絶対にあるでしょう。それに今回はピアノが入ることで、ダイナミクスの幅がかなり広がります」

 もちろんファゴットならではの魅力にも注目したい。

 「ファゴットの魅力は、旋律も伴奏も吹けること。室内楽では低音楽器としての役割を聴いて頂けます。特にフランセの曲は軽妙なパッセージが多く、スタッカートで弾む場面など、この楽器のキャラクターを生かせると思います。また木管五重奏ではホルンと共にハーモニーを作ることが多く、オケの時よりも濃密で一体感のあるその響きが独特の味わいをもたらします」

 聴きどころが目白押しの本公演。話を聞けば聞くほど楽しみになってくる。


~長 哲也(ファゴット)出演公演~

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