HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2015/03/11

アーティスト・インタビュー
~三浦友理枝(ピアノ)

美しい音色で聴き手の心を瞬時にとらえるピアニスト、三浦友理枝さん。東京・春・音楽祭で「新印象派/光と色」をテーマにリサイタルを行う三浦さんに、ドビュッシーとラヴェルのピアニズムの特徴や、「英国の大学院で卒論のテーマに選んだ」程こだわりのある作曲家シマノフスキの魅力について、語っていただきました。


ミュージアム・コンサート
 「新印象派-光と色のドラマ」展 記念コンサート vol.3 ~三浦友理枝(ピアノ)

©Yuji Hori
YurieMiura.jpg clm_q.png 今回お会いしてまず伺いたかったのは、印象派/新印象派という"お題"に対して、ドビュッシーの「半音階のための練習曲」をお選びになった背景です。

実は、私が初めて演奏したドビュッシー作品が「半音階のための練習曲」なんです。当時、小学校5年生でした。もっと幼い時に、「ゴリウォーグのケークウォーク」を少し弾いたことはありましたが、本格的に演奏したのは「半音階」が初めてだったのです。それまでは、ショパンやシューマン、シューベルトなどをよく弾いていましたので、他とは全く異なる色彩を放つドビュッシーの音楽世界、そしてその和声感にすっかり魅せられました。異世界であるのに、すっと自分の中に入ってきたのも印象的でした。

clm_q.png 小5でドビュッシーの「練習曲」とは珍しいですね。通常は「アラベスク」や小品から始めますから・・・

当時、演奏したのは「練習曲」全曲ではなくて「半音階」のみです。私は手が小さいですし、私のタッチなども鑑みて、習っていた先生が勧めてくださったのだと思います。その後、ドビュッシーの他の作品も多々、聴くようになりまして、彼の場合、時代によって色彩表現が異なることを知りました。初期の作品はロマン派の影響を受けながらも色とりどりですが、後期になると、色彩よりも濃淡、グラデーションによる微妙な変化を優先して表現を追求しているように思えます。今回のプログラムで、晩年の「半音階」に、中期の「喜びの島」を加えたのは、同一の作曲家が"別のパレット"で描いた2つの作品を並置したかったからです。

clm_q.png 「水の戯れ」も、エチュード並みの難曲です。

「水の戯れ」は小6の時から弾いています。もちろん技術的に難しい作品ですが、ピアノの先生が、常に高めのハードルを提案してくださっていたことには感謝しなければなりませんね。「半音階」と「水の戯れ」はいずれも、私がドビュッシーとラヴェルの音楽世界に出会うきっかけとなった大事な作品です。

clm_q.png ドビュッシーとラヴェルは同国人・同時代人ですが、当然、彼らをまとめて「印象派」と総称するのは安易ですよね。例えば、演奏している時に二人の世界観の違いを実感することはあるのでしょうか?

フランスの作曲家は概して、「書いてある以上の事も、以下の事もしないでほしい」というタイプの譜面を残している人が多いと思います。とはいえドビュッシーの方が、譜読みをしていると"余白"がより多いのです。行間の意味や間のとり方などに関して、ドビュッシーが残した楽譜の方が、弾き手に与えられている自由の度合いが高い印象を受けます。一方、ラヴェルの場合は、譜面上ですでに全てが出来上がっています――その通りに弾くことが最も良い結果をもたらしますし、言い換えれば、その通りに弾くのが一番難しいんです。
「印象派」という呼称はさておき、ピアノ音楽史において、ラヴェルの方がドビュッシーよりも先に、「水の戯れ」によって印象派に足を踏み入れています。その後ラヴェルは、晩年に向かってどんどん古典に回帰していく。ドビュッシーの方が、印象派的な手法を確立した上で発展させていったと言う風に、私はとらえています。

clm_q.png 今回のプログラムでは、この二名のフランス人作曲家にシマノフスキが挟まれています。

シマノフスキについては、私、こだわりが強いんですよ(笑)彼は時の流れとともに作曲様式を変化させていった作曲家でした。初期の頃は、同郷のショパンこそが彼にとって最大のカリスマでした。しかし彼自身が、こう書き残しています。ショパンにいつまでもすがっていてはいけない。次の新しいポーランド音楽を見つけなければならない、と。そうして模索する中で、シマノフスキは、いわゆる印象派と呼ばれるフランス近代の作曲家たちの作風と、神秘主義を融合させた様な独特の様式を手にします。中期と呼ばれるこの時期にはとりわけ、ラヴェルやスクリャービンから濃い影響を受けており、作曲の題材として神話がたびたび用いられました。まさに今回、東京春祭で演奏する「メトープ Op.29」が、この時代の作風を体現している作品です。ですから、ドビュッシーとラヴェルの作品に挟まれていても、全く違和感なく響くと思います。

clm_q.png シマノフスキにお詳しいのですね!

実は、私がイギリスの大学院に提出した卒業論文のテーマがシマノフスキなんです。[注:"ショパンとスクリャービンとシマノフスキのマズルカを通じたピアニズムの共通性"についてお書きになったそうです。] ちなみに、シマノフスキがマズルカを書き始めるのは、のちの後期です。バルトークの様に農民の歌を聴きに行き、生きたマズルカのリズムや節を参照して作品を書いています。それが彼の作曲家人生の到達点でした。ショパンも日記の様にマズルカを書いていましたから、やはりポーランド人には切り離せないジャンルなのですね。

clm_q.png シマノフスキの音楽の色彩感については、いかがでしょうか。

「メトープ Op.29」を書いた中期について言えば、極彩色がキーワードだと思います。彼は地中海を一周してモロッコなどを訪れていまして、そうした影響からかエキゾチックな要素も見られます。初期の頃の作品では、色の掛け合わせがやや保守的なのですが、この時期の作品では、様々な色が並置されていますし、大胆な色の組み合わせも多々みられます。のちの後期になると、より濃淡の表現にこだわるようになるんですよ。

clm_q.png お話を訊いて、東京都美術館での公演がますます楽しみになりました。

印象派/新印象派の絵画は日頃から大好きで、いつも旅先の美術館をチェックして足を運んでいます。美術館の中では、空気や時間の流れが独特なので、とても集中できます。そうした環境の中で演奏できるのが、私自身もとても楽しみです。


~三浦さんからのメッセージ(You Tube)~
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~関連公演~
ミュージアム・コンサート
 「新印象派-光と色のドラマ」展 記念コンサート vol.3 ~三浦友理枝(ピアノ)


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