HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2015/03/02

アーティスト・インタビュー
~奥泉貴圭(チェロ)& 加藤洋之(ピアノ)

今春、東京春祭で初リサイタルを行う若き俊英、奥泉貴圭さん(チェロ)。全幅の信頼を寄せる加藤洋之さん(ピアノ)との共演で、R.シュトラウス、ショスタコーヴィチ、シューマン、ブラームスのチェロ作品を集めた充実のプログラムを披露します。プライヴェートでも仲が良いというお二人をお迎えし、公演の聴きどころや共演への意気込みを伺いました。


ミュージアム・コンサート
奥泉貴圭 チェロ・リサイタル


clm_0226_1.JPG clm_q.png お二人の出会いは、奥泉さんの師/加藤さんの良き共演者である原田禎夫さん(チェロ)を介してでしょうか?

加藤:ええ、そうです。原田さんのお弟子さんである奥泉君とは長年知り合いで、優秀な彼が立派なチェリストに育つのをずっと楽しみに待っていました。奥泉君は高校を出てすぐにドイツに留学し、その後にバイエルン国立歌劇場で演奏していました。僕は、奥泉君の留学前と帰国後、"ビフォア&アフター"を良く知る者の一人です。彼が、せっかくヨーロッパの超名門歌劇場のオーケストラに入れたのに、「一度日本に引きあげる」と言うので、きちんとした場で演奏してもらいたいという想いから、室内楽公演に誘いました。それが、震災の年の東京・春・音楽祭です。
奥泉:ヴァイオリンの川田知子さんと加藤さんと僕とで、シューベルトのピアノ・トリオ第1番・第2番を演奏したんですよね。ドイツから帰国後に出演した最初の大きな公のコンサートでしたし、東京春祭の舞台で弾くことにプレッシャーも感じました。加藤さんから大きな課題を突き付けられたなと思いました(笑)
加藤:私にとってあの時のコンサートが、奥泉君との初めての共演でした。息が合ってとても上手くいったし、彼の成長を確認することもできました。

clm_q.png 奥泉さんの"ビフォア&アフター"を知る加藤さんから見て、奥泉さんがドイツ留学中に得た最も大きな成果は何でしょうか?

加藤:演奏の深みが増した点でしょうか。
奥泉:演奏が少し"チェロっぽく"なりましたか...?
加藤:ヨーロッパに出てオペラにたくさん向き合ったことで、演奏が柔軟になりましたし、表現の引き出しもグンと増えたのではないでしょうか。ヴァイオリニストにしろ、他の器楽奏者にしろ、オペラを知っているか否かで表現は大きく異なります。奥泉君の場合は、オペラ以外に交響曲も多々演奏していたので、とにかく現地で色々な音楽様式に触れることができたわけです。多様なスタイルの音楽を知ることによって、逆にソロを演奏する際に独自性がはっきりと出てくる、ということはあると思います。そういう意味で、帰国後の奥泉君の演奏には、ある種の"強さ"が加わったように感じます。

clm_0226_3.JPG clm_q.png 今回の東京春祭では"肉食系"の作品が並んだパワフルなプログラムに挑みますね。

加藤:奥泉君の持ち味が十二分に生かされるプログラムだと思います。彼には、弦楽器とピアノ伴奏という形式の作品だけでなく、二つの楽器が対等な、真の意味での"二重奏"を演奏する力がありますから。
奥泉:僕が高校生の頃、初めて原田先生と加藤さんのデュオを聴いた時の曲目が、このシュトラウスのチェロ・ソナタでした。当時はシュトラウス自体、馴染みのない作曲家でしたし、このソナタの存在も知りませんでした。お二人の演奏を聴いて、「こんな名曲があるんだ!」と心から感動したんです。その後、シュトラウスゆかりの地ミュンヘンに住んで、演奏家としても聴衆としても、シュトラウスのオペラに触れる機会が多々ありました。ですから、この思い出のチェロ・ソナタを、今回、加藤さんと一緒に弾けるのはとても嬉しいです。昨年、東京春祭のマラソン・コンサートで3楽章だけ弾かせてもらったので、全楽章を披露できるのも楽しみなところです。
加藤:シュトラウスに関しては僕も思い入れが強い。実は、僕が一番長く、また一番多く演奏しているヴァイオリン・ソナタがシュトラウスなんです。最初に本格的に弾いたのはハンガリーにいた頃。ブダペストで演奏しました。デュオのパートナー、ライナー・キュッヒルさんとも15年にわたり演奏しています。

clm_q.png 2曲目のショスタコーヴィチも大曲ですね...

奥泉:ショスタコーヴィチのチェロ・ソナタには、苦い思い出があります。レッスンで原田先生から注意されても全く上手く弾けるようにならず・・・チェロを辞めようかと思ったほどです。チェリストとしての自分を鍛えてくれた大切な曲です。
加藤:僕がドイツで師事していた先生がロシア出身で、ショスタコーヴィチについては並々ならぬこだわりをお持ちでした。奥泉君にとっても僕にとっても、大切な作曲家ですね。リサイタル後半のシューマンとブラームスは、ドイツと繋がりの強い僕たち二人の、"音楽的アイデンティティの源"と言える音楽です。

clm_0226_2.JPG clm_q.png 奥泉さんを長年見守ってきた加藤さんから見て、奥泉さんとの共演の魅力は?

加藤:奥泉君には、バイエルン国立歌劇場で弾いていたという素晴らしい音楽的土壌があります。僕自身も、キュッヒルさんと15年間、共に弾いてきた経験がある。言葉では上手く説明できませんが、演奏中の奥泉君と僕は、ある種の言語や語法を共有できているように感じます。これは単に共演の回数を重ねれば得られるような種の感覚ではありません。二人で演奏していて楽しいのは、その様な意味で相性が良いからだと思います。




~出演公演~

~奥泉さん、加藤さんからのメッセージ(You Tube)~
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