HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2015/01/19

アーティスト・インタビュー
~通崎睦美(木琴)

そのユニークな活動により多方面でご活躍中の木琴奏者・文筆家、通崎睦美さん。東京・春・音楽祭2015にて、リコーダー奏者の鈴木俊也さんを迎え、上野の森美術館でデュオ演奏会を行う通崎さんに、木琴の特徴や魅力、今回の選曲の意図や公演の聴きどころなどについて語っていただきました。


tuzaki1019.jpg ミュージアム・コンサート 通崎睦美(木琴)〜現代美術と音楽が出会うとき■
clm_q.png 通崎さんはマリンバ奏者・木琴奏者としてご活躍されていますが、二つの楽器の違いについて、教えていただけますか?
マリンバも木琴も、現在の形になったのは同じ時期ですが、歴史や音色にははっきりとした違いがあります。
歴史的には、マリンバはアフリカから中南米を経て、アメリカにたどり着きました。一方、木琴はルネサンスの時代からヨーロッパにあり、元々は今のような横形ではなく縦型でした。この木琴が移民たちによってアメリカに持ち込まれました。そしてディーガンという人物が、現在使われている木琴とマリンバの形を決定づけたのです。
音色の違いという観点でみてみますと、木材はどちらの楽器にもホンジュラスのローズウッドが使用されていますが、木琴は、残響をあまり重視せず、澄んだ通る音、明るい華やかな音がします。これはルネサンスの時代から保たれている特徴です。これに対してマリンバは、アフリカ時代からヒョウタンが付けられるなどして、「響く」ということが大事にされてきました。
異なる歴史的背景を持ちながら、同じ人物によって形が整えられたために、違いがわかりにくくなっているという面はありますね。

clm_q.png 木琴のために新作を委嘱なさる際に、気を付けていらっしゃる点などはありますか?
木琴のために曲を書いていただく時には、木琴の良さを引き出してもらいたいという気持ちがあります。そのために、作曲家の方にマリンバと木琴の違いを詳しくお伝えするようにしています。皆がよく知っている楽器ではないですし、せっかくの木琴のための新作が、マリンバ用の曲になってはいけませんからね。
ちなみに、日本には戦前は木琴しかありませんでした。平岡養一さんを含め、何人かの方が演奏していたのです。1950年頃までマリンバの現代曲はありませんでした。1950年に(プロテスタント教会の)ラクーア伝道団が来日し、その人たちがマリンバを日本各地で演奏して、広まっていきました。それを聴いた安倍圭子さんがマリンバ界の第一線で活躍なさっています。日本では1960年あたりから主流が木琴からマリンバに移っていき、マリンバのための新作が増え始めました。そうしてマリンバが急成長していったのです。

clm_q.png 今回の上野の森美術館での公演は、お客様が現代アートに囲まれながら演奏を楽しむことができます。今回のプログラムは、これを意識なさったものでしょうか。
VOCA展の入賞作品が決まっていればその作品に合った曲にしたかったのですが、プログラムを考えた頃はまだ入賞作品が決まっていなかったので...。今回はマリンバではなく、木琴で演奏するので、私自身が委嘱した木琴の楽曲を中心に並べてみました。

clm_q.png 共演の鈴木俊也さんとの出会いについてお話しください。
鈴木さんとは、リコーダー奏者の本村睦幸さんのご紹介で共演したことがあります。その時は鈴木さんの演奏会に、私がゲストとして出演させていただきました。鈴木さんは超絶技巧をお持ちで、とりわけ現代曲を得意とされる方ですが、その鈴木さんがモーツァルトを演奏する機会は滅多にありませんので、今回の東京・春・音楽祭での演奏会は、鈴木さんのファンの方々にとって貴重なのではないでしょうか。

clm_q.png 木琴とリコーダーの相性についてはどうお考えですか?
私はマリンバと木琴の違いをお伝えする時に、1つの例えとして、「マリンバはグランドピアノ、木琴はチェンバロ、というぐらいの差がある」というお話をよくします。
マリンバは響きが豊かで、音の線を繋いでいくイメージであるのに対して、木琴の場合は、繊細で響きが少ない分、音の点と点を繋いでいくイメージです。その点と点のゆらぎによって、音楽を聴かせます。先ほどの例えに戻ると、ピアノはペダルによって響きを残し、音を繋げることができますが、チェンバロは「間」で音楽を作っていきます。
そのような視点から古楽にも興味を持ち、リコーダーのレパートリーを探してみたところ、木琴に合う楽曲がたくさん見つかりました。
リコーダー・デュオの楽曲をリコーダー奏者の方といくつか共演していくなかで、音色が合うし相性がいいなと感じました。では現代曲もやってみよう、ということで、リコーダーと木琴の曲を作っていただくようになりました。

clm_q.png リコーダーの他に、今後、共演してみたい楽器はありますか?
マリンバと木琴の組み合わせは是非やってみたいですね。音が通るソリスティックな木琴と、オーケストラにも溶け込みやすいマリンバの音色の違いが、面白い響きを生み出すのではないでしょうか。

clm_q.png 執筆活動と演奏活動の両立は大変だと思うのですが、どのように両立なさっていますか?
子供のころから京都の防音設備の無い部屋で練習しています。近所の皆と知り合いで、小さい頃は練習をさぼると近所のおばちゃんに叱られた、というような下町です。その様な環境の中で、23時まで練習をさせてもらっています。幸い23時まで、練習の音に対して苦情が来たことは1度もありません。その後に執筆をしています。23時までしか楽器の練習をしないという制限があるからこそ、演奏と執筆を切り替えられる、というところはあります。

clm_q.png 着物のプロデュースなど多彩な活動をなさっていますが、今後、掘り下げてみたいことはありますか?
着物は1920〜30年代ものが好きなんです。今、使っている長屋も大体これと同じ時代に建てられたものですし、使っている楽器も1935年製。生活においても仕事においても、ちょうど大正から昭和初期が好きな時代ということで一致しているので、この時期をさらに掘り下げていくとあらたな興味が湧いてくるのではないかなと思っています。


~出演公演~
~通崎さんからのメッセージ(You Tube)~
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