HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2014/03/08

アーティスト・インタビュー
~加藤洋之(ピアノ)

ミュージアム・コンサートでのリサイタルと、チェリスト原田禎夫さんとのデュオで登場する加藤洋之さんに、プログラムの聴きどころや共演についてのお話を伺いました。


clm_hiroshikato.png ミュージアム・コンサート ピアノ音楽紀行~ウィーン 加藤洋之■
原田禎夫 チェロ・シリーズ vol.6 原田禎夫 チェロ・リサイタル~ベートーヴェンを弾く
clm_q.png  リサイタルのプログラムについて、選曲のポイントを教えてください。
原田さんとはオール・ベートーヴェン・プログラムということもあり、ソロ・リサイタルでもベートーヴェンを取り上げたいと考え、あらゆるピアノのための作品のなかで、最も規模と内容の振幅が大きいと考えている「ハンマークラヴィーア」を選びました。
ハンマークラヴィーアが最初に決まり、次に考えたのは、このまさにマンモス的な作品に対し、ミクロの世界へそれに近いような振幅をギュッと押し込め、ベートーヴェンと同じように無駄を一切排し、吟味されつくした音で書かれたヴェーベルンを置いて、作曲年代的にも対象を為すようにしたいということでした。そして二人を繋ぐ作曲家としてブラームスとシューベルトが自然と出てきました。

clm_q.png  ブラームスとシューベルトが自然と思い浮かんだ理由は
ベートーヴェンは、いわゆるヨーロッパ音楽の降盛を極めたような豊かな時代を、一方ヴェーベルンはそれが崩壊しさまざまな方向へと進んでいく時代を象徴する作曲家。崩壊から豊かだった時代へと遡る過程でウィーンへ出て来て活躍したブラームスの晩年の後ろ向きでノスタルジックな作品と、ウィーン生まれのシューベルトの同じく晩年、といってもかなり若いのですが、まるで生と死の間を境目がないかのように漂い、恍惚感とともに行き来している作品を並べることで、ハプスブルクの衰亡から降盛期まで遡っていくプログラムで、それぞれの時代の空気と変遷を味わいながら、多民族都市であったウィーンがいかにたくさんのものを内包し、豊かな100年であったのかを感じ取っていただけたら、と考えました。

clm_q.png  ウィーンの魅力とはどんなところでしょうか
中学・高校時代からウィーン・フィルのレコードを聴き続けて、留学時代も毎週のようにブタペストからウィーンへ通いましたが、私にとっていまだに行けば行くほどもっと行きたくなるような場所で、まるで恋愛感情のようです。
ヨーロッパの中でもウィーンだけは18、19世紀の空気がずっとあるような特殊な雰囲気というのでしょうか。そして、昔は憧れで雲の上の存在だったライナー・キュッヒルさんと共演するようになって10年以上経つのですが、いまでもそれはとても幸せな、至福の時間です。
ウィーンの絵画や建築、言葉の響き、料理(笑)も含めて魅かれ続けてきたので、自分の中にウィーン的なものが刷り込まれているかもしれません。

clm_q.png  キュッヒルさんと同様に原田さんとも長い間共演されていますね。
原田さんが東京クヮルテットのメンバーだった頃にドイツで出会いました。なんとなく楽譜を引っ張りだして遊んでいたときに、原田さんの音の風圧というのでしょうか、それに圧倒されたのです。原田さんも私に興味を持ってくれて共演するようになりました。
原田さんと最初のリハーサルをしたときですが、リハーサルなのに本番で演奏するようなテンションで一音一音を出していて、それに感動してしまいました。 また原田さんと久しぶりに合わせるとき、いつもすごく勉強してきて以前とは違う可能性や新しいことを試そうとする、絶対にルーティーンで弾くということがないんです。あの年齢でも勉強を続けている原田さんに接すると私もそうありたいと思うし、少しでも近づきたいと思って勉強するので、音楽に向かっている時だけは年齢が違うという感覚がまったくなくなりますね。

clm_q.png  ベートーヴェンはよく共演するのですか。
はい、何度も共演しています。彼は長年カルテットを演奏してきたので、ソナタはカルテットとは演奏する感覚の異なる部分があるけれど、ベートーヴェンは書き方や音楽がカルテットに近いし、何よりも音楽そのものが素晴らしいと言っています。彼はベートーヴェンが大好きだし心から尊敬しているんです。ですから素晴らしい演奏をお聴きいただけると思います。


clm_q.png  2011年、2013年と原田さんのお弟子さんである奥泉貴圭さんも交えたトリオで出演いただきましたね。
奥泉君のことは10代の頃から知っていていつか一緒に弾きたいと、その成長を楽しみに見てきました。
お互い原田さんのことを師匠という立場と共演者という立場でよく知っているわけですが、彼はレッスンで原田さんから色々と教わり、私はリハーサルや本番で演奏する中で原田さんにたくさん教わることがあり、そんな二人が一緒に弾くのはけっこう面白いんですよ。
そして原田さんが私に多くのことを教えてくれたように、今度は私が奥泉君に伝えたいと思っています。1本の線のように繋がる関係性は、この音楽祭だからできたことでもあると思いますね。


~出演公演~

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