HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2014/03/07

リヒャルト・ワーグナー《ラインの黄金》~ストーリーと聴きどころ

文・広瀬大介(音楽学、音楽評論)

幕が上がる前の前史:

 『ニーベルングの指環』の世界は、神々の住む天界、巨人族や人間、ライン川の底に暮らす乙女たちが生きる地上、そしてニーベルング族、あるいは地母神エルダやその娘たちノルンがいる地底から成る。神々に君臨する主神ヴォータンは、片方の眼を失う代償を払って女神フリッカを手に入れ、さらにトネリコの木の枝を折って槍の柄を作る。ヴォータンはこの槍に世界の掟を刻み、その支配者となった。ヴォータンは天界に神々が住まうための立派な城を築こうとし、地上に住む巨人族にその建設を命じる。その報酬としてヴォータンが巨人に約束したのは、永遠の若さを保つことのできるリンゴを栽培できる美の神フライアであった。

第1場:

 ライン川の底。 世界生成の様子を描写する変ホ長調の主和音によるライン川のモティーフ。バルカローレ・舟歌風の伴奏)ライン川の黄金を守る三人の乙女たち。地底に棲むニーベルング族の醜い小人アルベリヒの下心を早々に見抜いた三人は、いいように翻弄する。やがて黄金に光が当たり、三人はその黄金を褒め称える歌を歌う。女性との真実の愛を断念したものだけが、この黄金を手に入れ、世界を支配する力を得ることができる、という事実をアルベリヒに教える 黄金、指環のモティーフなど、この場面で登場するモティーフの多くは、冒頭のライン川のモティーフを音楽的に変奏したもの)。アルベリヒは愛を諦め、権力を手に入れると叫び、この黄金を奪い取って逃げ去る。

第2場:

 神々の住まう天界。夜明け。新築成った城が、その偉容を現す 幕切れに「ヴァルハラ」と名付けられる城を描くライトモティーフは、バロック時代の宮廷で愛好された、荘重な三拍子の舞曲サラバンド風の音楽で伴奏される)。大神ヴォータンは満足げだが、妻フリッカは建設主の巨人族二人に支払うべき対価を美の神フライアとしてしまったことに不安を抱く。巨人族のファーゾルトとファフナーは、対価を約束通りに支払おうとしないヴォータンに怒る。雷神ドンナーと歓びの神フローが割って入るも、事態の解決には至らず、巨人はフライアを強引に連れ帰ろうとする。

 そこへ、火の神ローゲが登場。ラインの水底でアルベリヒによって奪われた黄金は指環にされ、ニーベルング族の支配者となって、神々の住まう世界までをうかがう勢いと語る。ヴォータンは自らの権力が脅かされることを怖れると同時に、アルベリヒがその指環の力を使って生み出す財宝、そして指環そのものを手に入れてやろうと思いを巡らす。巨人も、永遠の若さ(フライアのリンゴ)と世界を支配できる権力を秤にかけ、対価の変更に応じるものの、フライアを人質としてその場から連れ去る。フライアがいなくなったためにリンゴを口にできず、突然力を失う神々。ヴォータンだけは力を振り絞り、ローゲとともに、アルベリヒから指環を奪うため、地底の世界へと降りていく 間奏曲では実際の鉄床(かなとこ)を用いた打撃音が響き渡る)

第3場:

 ニーベルング族の住まう地底。アルベリヒはニーベルング族に地下鉱脈を掘らせ、黄金を精製し、巨万の富を得ていた。アルベリヒは、鍛冶仕事を生業とする弟ミーメを虐げ、自身の姿を隠すことのできる兜を作らせ、ますます増長する。アルベリヒの姿が見えぬ間に、いかに自分たちが虐げられているかを延々と嘆くミーメ。

 アルベリヒが戻る気配を察し、ミーメは慌てて姿を消す。アルベリヒはヴォータンとローゲの突然の訪問に強く警戒するが、鍛冶仕事に欠かせぬ火を司る神ローゲの問いには、渋々答えねばならない。ローゲは言葉巧みに、アルベリヒがいずれ巨万の富と指環の魔力を元手に、神々をたおし、世界を支配してやろうという野望を抱いていることを聞き出す。ローゲはとっさに、アルベリヒを騙して捕まえてやろう、というアイディアを思いつく。ミーメが作った隠れ兜の効果を疑って見せ、はじめは大蛇に、次に蛙へとアルベリヒを変身させる。ローゲはヴォータンに目配せし、蛙に変身したアルベリヒを難なく捕まえ、地底から引きずり出す。 第2場最後と同様に鉄床(かなとこ)が用いられるが、今度は勢いが弱い)

第4場:

 行きに来た道を引き返す神々。捕まえたアルベリヒにヴォータンが要求するのは、それまでに掘り出した財宝の数々と、その指に光る指環。全力で抵抗するアルベリヒを押さえつけ、その指から指環をねじり取る。何もかも奪われ、叫び声をあげたアルベリヒは、指環を持つものに死をもたらせ、と呪いをかけ、地底の世界へと戻っていく。

 フライアを連れて戻った巨人は、フライアの姿が見えなくなるまで財宝を積み上げるよう要求し、アルベリヒの財宝はすべて巨人のものとなる。だが、わずかに残った隙間からフライアの瞳が見える、と嘆くファーゾルト。ファフナーは、ヴォータンが指にはめる指環も渡すよう迫るが、何があっても渡さない、と言い張るヴォータン。

 すると世界が突然暗闇に包まれ、地底の奥深くに住まう大地の女神、世界の来し方行く末を知るエルダが登場する。呆然と立ち尽くすヴォータンに対し、指環を今すぐに手放し、災いを未然に防げと迫る。さらにその預言を聞こうとするヴォータンを遮るように、エルダは地底へと戻る。ヴォータンは考えた末、巨人に指環を与えると、兄弟は指環を巡って争い、ファフナーはファーゾルトを殴り殺す。験直しに、ドンナーはその場に立ちこめた雲を集め、稲妻を起こす。晴れ間ののぞいた先に輝くヴァルハラ城に入るため、虹の橋を架けるフロー。妻フリッカとともに入場するヴォータンと神々だが、ローゲはその仲間に加わらず、やがてやってくる神々の没落に思いを馳せる ここで剣のモティーフが初めて登場し、ヴォータンが自らの息のかかった人間族をもちいて指環を取り戻す、というアイディアを思い付いたことが暗示される)。遠くからは奪われた黄金を返してほしい、という、ラインの乙女たちの嘆きが聞こえる 「ヴァルハラ城への神々の入城」と称して、独立して演奏されることも多い壮大な幕切れ。総譜では6台のハープが指定されている)


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