HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2013/11/28

東京春祭ワーグナー・シリーズ vol.5《ラインの黄金》を楽しむためのクエスチョン

文・飯尾洋一(音楽ジャーナリスト)

rheingold.png question.jpg 《ラインの黄金》、主役はだれ?
ほとんどのオペラでは、タイトルに主役級登場人物の名前が用いられます。たとえば、《ドン・ジョヴァンニ》《アイーダ》《トリスタンとイゾルデ》等々。
しかしこの作品のタイトルは《ラインの黄金》。無機物がオペラの題になっているという珍しい例です。ラインの黄金から作られる指環は、世界を支配する力を持ちます。この呪われた指環こそが真の主役かもしれません。今、指環はだれの手にあるのかを注意しながら聴いてみましょう。

question.jpg 演奏会形式ってどういう意味?
通常のオペラと異なり、舞台装置や衣装、演技なしで上演する形式を指します(ごく簡単な演技があることも)。芝居の要素がない分だけ、歌手やオーケストラは音楽に集中することができます。
演奏会形式ではドラマが伝わらないと心配されるかもしれませんが、必ずしもそうとはいえません。特に『ニーベルングの指環』のような神話世界を扱った作品では、舞台装置があったとしてもト書きそのままの世界を実現することは困難なこと。このような作品では、音楽そのものと字幕こそがドラマを伝える役割を担っているともいえるでしょう。

question.jpg 有名なオペラ・アリアはある?
アリアらしいアリアはありません。ワーグナーのオペラは、歌手が一曲歌って拍手喝采が起きて、また別の歌がはじまる......といったような構成にはなっていません。音楽は切れ目なく続きます。
幕が下りるまで拍手をする機会はありませんので、物語世界に思い切り没入しましょう。

question.jpg じゃあ、聴きどころはどこ?
聴きどころは満載です。ライン川の水流を思わす緩やかで雄大な冒頭場面は、あたかも原初の世界を描くかのように神秘的。小人族の国ニーベルハイムの場面では、大オーケストラの轟音と鉄床の連打が禍々しい空気を醸しだします。ワルハラ城への神々の入場の場面では、壮麗なフィナーレが築かれます。

question.jpg 初めてオペラを聴きます! 休憩中はどう過ごせばよいでしょうか。
《ラインの黄金》に休憩はありません。約2時間30分、一気に上演されます。開演前に必ずお手洗いを済ませておきましょう。さもなければ、神々の命運などどうでもよくなるような真の危機があなたを襲うでしょう。


~関連公演~
東京春祭ワーグナー・シリーズ『ニーベルングの指環』

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