春祭ジャーナル 2012/02/28
バッハによせて ~田崎悦子
本稿は、「東博でバッハvol.7」に出演されるピアニストの田崎悦子さんに、ご寄稿いただきました。
文・田崎悦子(ピアニスト)
私はバッハの研究家でもなければ、エキスパートでもない。でも、これまでの音楽人生の中で幾度となくバッハに足をすくわれた期間があり、今現在も、そういう時期のひとつかもしれない。
"足をすくわれた"というのは、文字通り、ひょい、と足場を失い、前につんのめってしまう時と同じ・・・・何につまずいたか、体がバランスを無くし、宙を舞い上がり、行く先が分らないままその宙をさまよい続ける・・・・という状態にたまらない快感すら感じるのだ。そう。私は、バッハに足をすくわれ、なりふりかまわずハマってしまったアマチュアにすぎないかもしれない。
高校卒業までには平均律の1,2巻全曲、そしてフランス、イギリス組曲全曲を学び、恍惚となって弾いていたのを思い出す。フーガは特に好きだった。その後アメリカに渡り、マールボロ音楽祭で、日々同じ空間で接した巨匠カザルスのバッハ・・・・あのヴァイブレイションは、今でもバッハに接する度に形を変えて私の存在を揺さぶるのだ。チェロという楽器の枠を飛び越えた、音楽そのものの持つ有機的でパワフルなヴァイブレイションが!又、すばらしい作曲家の作品の背後にも必ずバッハが立っていて、音楽の泉はすべてその源から流れ出している事にハッとする時がある。ベートーヴェンはもちろん、ショパンも、ドビュッシーも、リストも、プロコフィエフも、バルトークも!

東博でのリハーサルの様子(2012年2月)
~田崎悦子さん出演公演~