HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2016/02/17

アーティスト・インタビュー
~四方恭子(都響ソロ・コンサートマスター) & 鈴木 学(都響ソロ首席ヴィオラ奏者)【後編】

東京都交響楽団の名手たちによる「ストラヴィンスキーの室内楽」。出演する四方恭子(ソロ・コンサートマスター)、鈴木 学(ソロ首席ヴィオラ奏者)の両氏による本公演の聴きどころ、後編をお送りします。

取材&文・柴田克彦(音楽ライター)

鈴木:この曲は緩やかに(レントで)始まります。 中盤は2声のフーガになりますが、曲の大半が重音なんです。でも3つの音にはならず、常に2つの音がぶつかり合い、エネルギーと緊張感を保ちながら進みます。

鈴木:親子の無伴奏曲を続けるのは興味深いのではないかと考えました。これは1975年に書かれたピアノ曲に基づく作品で、"12音技法を使った新古典主義的なバロック風組曲"といった、まさに父親譲りの音楽。今回が日本初演かもしれません。ガヴォット、サラバンド、ジーグなどの曲が並んでいて、12音なのにスタイルは完全なバロック。しかも2つの音のラインを重音で奏する点が「エレジー」と共通しています。また、バルトークの「44の二重奏曲」に似た部分があり、民謡的な面も感じられます。

鈴木:浄化された美しさをもった曲。ストラヴィンスキーが1959年来日した際に「弦楽のためのレクイエム」を絶賛したのが、武満さんの世界的な飛躍のきっかけでしたし、二人とも印象派の影響を受け、この曲の元になった「鳥は星型の庭に降りる」もストラヴィンスキーも多用した5音音階を使い、ある種のインテンスさ(厳しさ)にも共通点がある。そうした理由で今回演奏することにしました。

鈴木:横のラインがゆっくりと動いていく中での音の対比など、共通点もありますが、「コンチェルティーノ」は1曲の中で色々なことがめくるめくように起こり、「3つの小品」は3曲が全然違う音楽です。「コンチェルティーノ」は文字通り協奏曲的で颯爽としており、ヴィオラとチェロは打楽器的なリズムを奏でてメロディとコントラストをつけます。「3つの小品」の第1曲はロシア風のダンス。予想しない箇所でズレていくようなサプライズがあり、第2曲はここもリズムとメロディのコントラストを聞かせ、第3曲はコラール風です。

四方:あと、「コンチェルティーノ」は、中盤にヴァイオリンのカデンツァがあります。これは弦楽四重奏曲には珍しい。

四方:そう、ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、クラリネット、ファゴット、ホルン、ピアノ。ヴァイオリンが1本で、コントラバスがなくて、ピアノが入っているのが面白いですね。しかもピアノは、全体の枠を作ってまとめる役割ではなく、1つの楽器として対等に動きます。

鈴木:この曲は音の跳び方など意外性が強く、ピアノは打楽器的でもあります。



四方:ヴァイオリンの吉岡麻貴子さんは、都響でもよく隣で弾いていて、最近ウィーンに1年留学していました。彼女は若いながらもヴァイオリン・セクションの中で重要な存在。自分の音楽をきちんと持って、セクションをリードしています。チェロの田中雅弘さん、クラリネットの三界秀実さん、ファゴットの岡本正之さん、ホルンの西條貴人さんは都響の首席奏者。田中さんは学生時代から弦楽四重奏などでご一緒し、彼を含めた4人とは霧島国際音楽祭でも共演しています。ピアノの占部由美子さんも、弦楽器の伴奏をされることが多く、室内楽の経験が豊富で、弦の曲を熟知している方。今回ドイツから帰ってきていただけて嬉しいですね。

鈴木:私は以前、三界さん、岡本さん、西條さんとストラヴィンスキーの七重奏曲を演奏しています。室内楽、特に今回のような難曲は、奏法や息遣いを知るメンバーでやるのが大事なことです。

四方:オーケストラの曲とはまた違って、メンバーそれぞれの音を際立たせながら、難しいリズムなどを組み立てていくのが楽しいと思います。皆で盛り上げながら音楽を作り、難しさの裏にあるユーモアや余裕といったストラヴィンスキーの妙味を出せればいいですね。

鈴木:今回は楽器でどんな"声"を出すか?がテーマになると思います。何にせよ、リハーサルを重ねて皆が余裕をもって楽しめるようになれば、新たな発見も生まれ、多彩な展開が可能になるのではないでしょうか。



~四方恭子(都響ソロ・コンサートマスター) & 鈴木 学(都響ソロ首席ヴィオラ奏者)出演公演~

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