HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2015/12/10

英国の俊英指揮者 レオ・フセイン

文・後藤菜穂子(音楽ジャーナリスト)

指揮者への道のり

レオ・フセイン

 東京春祭に初登場となる英国の指揮者レオ・フセインは、ケンブリッジ大学で音楽を専攻、卒業後ロンドンの王立音楽院の大学院コースで指揮を学び、現在ヨーロッパ大陸を拠点に活躍している。

 本人によれば、家族には音楽家はいなかったが、指揮者への道のりはイギリス人指揮者の典型的なコースをたどってきたという。すなわち、少年時代にケンブリッジ大学キングス・カレッジの聖歌隊に入り、その後イートン校を経て、再び大学でケンブリッジへ。今度はセント・ジョンズ・カレッジのコーラル・スコラー(合唱奨学生)として聖歌隊で歌うかたわら、学外のさまざまな音楽活動に参加し、指揮者としての第一歩を踏み出した。

 実際、英国の指揮者にはケンブリッジ大学出身者がひじょうに多い。ロジャー・ノリントン、故クリストファー・ホグウッド、ジョン・エリオット・ガーディナーら古楽出身の指揮者たちをはじめ、マーク・エルダー、ジョナサン・ノット、若い世代ではエド・ガードナー、ロビン・ティッチアーティなど錚々たる顔ぶれだ。また、東京春祭で紀尾井シンフォニエッタのバロック・プログラムを指揮するリチャード・エガーも同大出身(彼はオルガン奨学生)。むしろ、英国では音大や音楽学校出身の指揮者  故コリン・デイヴィス、サイモン・ラトル、ダニエル・ハーディングら  のほうが少数派かもしれない。

 フセインは王立音楽院在学中よりラトル他のアシスタントの形でプロの世界に入り、当初はオペラ指揮者として活動を展開。英国の巡演オペラ・カンパニーで指揮する一方で、数年にわたってザルツブルク音楽祭のオペラ公演でムーティ(オテロ、魔笛)やゲルギエフ(ベンヴェヌート・チェッリーニ)らのアシスタントを務めた。そうした業績が評価され、2009年にはザルツブルク州立劇場の音楽監督に就任、6年間にわたって幅広いジャンルのオペラを指揮した。同歌劇場のピットにはモーツァルテウム管が入るので、彼らから本場のモーツァルトのスタイルを学べたのは得難い体験だったという。現在はフランス西部のルーアン・オート=ノルマンディ歌劇場の首席指揮者として、オペラとオーケストラ公演の両方を担当している。

 特に20世紀のレパートリーを得意とし、なかでも知られざるオペラに積極的に取り組んできた。例えば今年はアン・デア・ウィーン歌劇場でミヨーの《罪ある母》、フランクフルト歌劇場でヴァインベルクの《パサジェルカ》を指揮、そして2016年にはエネスクの《オイディプス王》で待望の英国ロイヤル・オペラ・デビューを果たす。

満を持して東京・春・音楽祭へ

 初来日は2008年、ゲルギエフの推薦で九州交響楽団を指揮。その後、2014年にはN響「夏」に出演、ラヴェルとモーツァルトのプログラムで実力を発揮した。今回の春祭の「合唱の芸術シリーズ」のプログラムは、熟考の末選んだという彼らしい選曲。

 デュリュフレの《レクイエム》は8、9歳の時、キングス・カレッジ聖歌隊のボーイソプラノとして初めてCD録音した曲で、思い入れの強いレパートリーとのこと。巧みな書法と、大げさでない美しさと情感が魅力で大好きな作品だと話す。前半には英国の作曲家ヴォーン・ウィリアムズの作品を2曲配しているが、《タリスの主題による幻想曲》については、冒頭からホールいっぱいに広がる弦楽オーケストラのサウンドの美しさにたちまち引き込まれることでしょう、と語る。《5つの神秘的な歌》は自身バリトン・ソロを歌った経験もあり、長年親しんできた作品。ケンブリッジ出身の俊英が、東京春祭に大聖堂のような荘厳な響きをもたらしてくれるにちがいない。



~レオ・フセイン(指揮)出演公演~

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