トルコの首都アンカラ出身のピアニスト、ファジル・サイは、その鬼才ぶりで知られているが、作曲家としても活動している。3つのソナタからなる本曲は、フェルハン＆フェルザン・エンダー姉妹のために2018年に書かれ、翌年、パリのルイ・ヴィトン財団で初演された。

　原曲のヴァイオリン協奏曲集《四季》は1725年に出版された《和声と創意の試み》（全12曲）の第1～4番にあたり、各楽章にはそれぞれの季節の情景を描写した短詩（作者不明）が付されている。
　「春」の第1楽章では、歓びに満ちた情景が音によって描かれる。第2楽章では草原でまどろむ羊飼い、第3楽章では羊飼いやニンフの踊る様が描かれ、春の祝祭を謳歌する。「夏」の第1楽章では、夏が過酷なものとして描かれ、人も自然も疲弊し、不安と嘆きの旋律が支配的となる。第2楽章では、虫の群れが疲れた羊飼いに襲いかかり、第3楽章では、雷鳴とどろく嵐となって劇的な自然を描出する。「秋」の第1楽章は、一転して豊作を祝う村人たちの明るい宴の様子となる。第2楽章は美酒に酔いしれて、心地よい眠りに誘われる静かな秋の夜、第3楽章では狩りの情景が生き生きと描き出される。「冬」の第1楽章では、また過酷な季節が訪れ、冷たい雪が降り、厳しい寒さに身震いする。第2楽章はよく知られた旋律で、窓外に降る雨を眺めながら、暖炉のかたわらで憩う幸せを描く。第3楽章は、氷上を用心深く歩く人、滑って転ぶ人、春の先触れとなる東南風と北風とのせめぎ合いなどを描いて、全曲を締めくくる。
　今回は、クロアチア出身の作曲家トミスラヴ・サバンの編曲による2台ピアノ版でお届けする。

　イスタンブールは、古代より東西の接点として栄えたトルコ最大の都市。本曲は、エンダー姉妹のために書かれ、2013年に世界初演された。非常にエキゾチックで印象的なメロディが効果的に使われており、それがモダンなイスタンブールの冬の朝の雰囲気と混じり合って、文化や時代の往来を感じさせる佳品となっている。

　《春の祭典》は1911～13年に書かれた、ストラヴィンスキーの代表作。パリでの初演は一大センセーションを巻き起こした。若い娘を生け贄に捧げるという原始的な古代ロシアの異教の儀式をテーマとしており、全8曲の第1部と全6曲の第2部からなる。複雑で錯綜したリズムによる、鮮烈なエキゾチシズムとグロテスクな官能性は、今なお聴く者に衝撃を与え続けている。
　ストラヴィンスキーは2台ピアノ版をバレエ音楽と並行して書き、フル・スコアに先行して1913年に出版した。

　クルターグ・ジェルジュは、ルーマニア出身のハンガリー人ピアニストで、作曲家としては寡作だが、バルトークやウェーベルンの影響を受けた、内省的な作品を書くことで知られる。長年にわたり、夫人とともにソロとデュオによる自作のコンサートを行なっており、そのなかでバッハの編曲作品も演奏している。
　「神の時こそ、いと良き時 BWV106」は、1707～08年頃の作とされるバッハ最初期の教会カンタータ。若書きならではの素朴さもあって、人気の高い曲である。「我らキリストを讃えまつる BWV611」は、ヴァイマールの宮廷オルガニストだった頃（1713～16）に作曲した《オルガン小曲集》（BWV 599–644）所収。同曲集のなかで本曲のみ、コラール旋律が（ソプラノではなく）アルトに置かれているのが特徴。「ああ、いかにはかなき、いかにむなしき BWV644」は、《オルガン小曲集》の掉尾を飾る曲。短いなかにも哀しみと慰めが同居している。「キリストよ、汝 神の小羊 BWV619」も《オルガン小曲集》所収。コラール旋律がカノンで奏される。