PROGRAMプログラム

東京・春・音楽祭-東京のオペラの森2012-

ミュージアム・コンサート波多野睦美 & つのだたかし
~古きよきイギリスの歌

プログラム詳細

Photo:ヒダキトモコ
■日時・会場
2012.3.22 [木] 14:00開演(13:30開場)※ この公演は終了いたしました。
国立科学博物館 日本館講堂

■出演
メゾ・ソプラノ:波多野睦美
リュート:つのだたかし

■曲目
ジョン・ダウランドのリュートソング1
 甘い愛が呼んでいる speaker.gif[試聴]
 悲しみよ とどまれ
 冷たいきみ ぼくの心を引きさいて
 愛と運命に
イギリスのフォークソング
 スカボロー・フェア speaker.gif[試聴]
 サリー・ガーデン speaker.gif[試聴]
 カッコー
ジョン・ダウランドのリュートソング2
 彼の金髪を
 流れよ わが涙
 彼女はいいわけできるのか
ジョン・ダウランドのリュート・ソロ曲
 プレリュード
 涙のパヴァーヌ
 ハンソン夫人のパフ
 運命
ヘンリー・パーセルの歌曲
 「美しい島」(歌劇《アーサー王》より) speaker.gif[試聴]
 「恋が甘いものなら」(歌劇《妖精の女王》より)
 「エジンバラの街から遠く」(劇音楽《偽りの結婚》より)
 孤独 speaker.gif[試聴]
[アンコール]
恋人の黒髪、花の街


【試聴について】
speaker.gif[試聴]をクリックすると外部のウェブサイト「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」へ移動し、
プログラム楽曲の冒頭部分を試聴いただけます。
ただし試聴音源の演奏は、「東京・春・音楽祭」の出演者および一部楽曲で編成が異なります。


出演者

波多野睦美 & つのだたかしリュートソング・デュオ 1990年にシェイクスピア時代のリュート伴奏歌曲でデュオとしての活動を始める。400年前のイギリスの歌の美しさと魅力をみずみずしい感覚で表現し、リュートソングの新たな可能性を開いた。その演奏は愛好家、評論家はもちろん、初めてリュートソングを聴く多くの人々をも魅了し、国内外で高く評価されている。栃木[蔵の街]音楽祭、都留音楽祭、福岡古楽音楽祭、清里音楽祭、仙台クラシックフェスティバル他、全国各地で多くのコンサートに出演。1998年からはイギリス、ドイツでも公演を重ね、イギリスのリンカーン、ケンブリッジ、ノッティンガム等のフェスティバルに招聘されて演奏。NHK-BS放送、NHK-FM、英BBC他に出演している。さまざまなレパートリーを記録したCD作品の多くが『レコード芸術』誌で特選盤に選ばれている。

公式サイト http://www.linkclub.or.jp/~dowland

メゾ・ソプラノ:波多野睦美 Mezzo Soprano:Mutsumi Hatano 英国ロンドンのトリニティ音楽大学声楽専攻科修了。ルネサンス、バロックの歌曲及びバッハやヘンデルのオラトリオ等におけるソロの他、日英仏の近現代歌曲を含む柔軟なレパートリーを持ち、国内外で多くのコンサートや音楽祭に出演。モンテヴェルディの《オルフェーオ》《ポッペアの戴冠》、モーツァルトの《イドメネオ》等のオペラ出演でも、その深い表現力で注目を集めている。自らのレーベル「ソネット」からパーセルの歌曲集CD『ソリチュード』を発表。

©Yuriko Takagi

メゾ・ソプラノ:波多野睦美 Mezzo Soprano:Mutsumi Hatano

リュート:つのだたかし Lute:Takashi Tsunoda ドイツ、ケルン音楽大学リュート科卒業。リュート、バロックギター等の古典撥弦楽器の独奏、歌曲の伴奏者としてヨーロッパ、日本で多くの公演を行なう。古楽器バンド「タブラトゥーラ」、遠い時代の祈りの音楽を演奏する「アンサンブル・エクレジア」主宰。古楽CDレーベル「パルドン」をプロデュースして、16~17世紀の声楽曲を中心としたCDを多数発表している。

©Yuriko Takagi

リュート:つのだたかし Lute:Takashi Tsunoda

■曲目解説

ジョン・ダウランドのリュートソング
 甘い愛が呼んでいる 悲しみよ とどまれ 冷たいきみ ぼくの心を引きさいて 愛と運命に

イギリスの作曲家ジョン・ダウランド(1563-1626)のリュートの腕前は、若き日から認められたものであったが、彼が望んでいた女王付のリュート奏者には、長く任命されなかった。その原因の一つに、彼が1580年から4年間、駐仏大使としてパリで過ごした際、カトリックに改宗したため、それが国教会の長である王室に認められなかったことが挙げられる。失意のうちに海外を転々とし、1595年にいったん帰国。1597年に出版した彼のリュート歌曲集は、イギリス音楽界で広く認められたが、それでも王室で地位を得るには至らなかった。その後、デンマーク国王クリスチャン4世に招かれ、1598年から1606年にかけて宮廷リュート奏者を務めた。そして、再びイギリスに帰り、ようやく1613年にイギリス国王付の宮廷リュート奏者となり、死ぬまでその地位にあった。
「甘い愛が呼んでいる」は彼の代表作のひとつで、1597年出版の《歌曲集 第1巻》に収録されている。曲名通り、甘い愛の囁きが素朴なリュートの伴奏によって明るく歌われる。1600年出版の《歌曲集 第2巻》に収録された「悲しみよ とどまれ」もまた、イタリアのモノディ様式との共通点が見出される作品。その哀愁に満ち溢れたメロディは、のちにウィリアム・ウィグソープによって《ダウランドの悲しみ》という題名で、独唱とヴィオール五重奏のために編曲された。「甘い愛が呼んでいる」と同じ《歌曲集 第1巻》に収録された「冷たいきみ ぼくの心を引きさいて」は、女性に最後の口づけをねだる別れの歌。「愛と運命に」は、イタリアのマドリガーレ形式の影響が見られる、深刻な嘆きの歌である。

イギリスのフォークソング
 スカボロー・フェア  サリー・ガーデン カッコー

中世イギリスのヨークシャー地方北部沿岸に位置する行楽地スカボローでは、かつて8月15日から45日間にわたり大規模な市が開かれていた。《スカボロー・フェア》はそれに因んだ曲名であるが、曲自体はもともとスコットランドの古い*バラッド《エルフィンナイト》が原型とされ、その後、吟遊詩人によって歌い継がれ、イギリスの伝統的なバラードとして知られるようになった。ポピュラー音楽愛好家の間では、サイモン&ガーファンクルのアレンジで大ヒットし、ダスティン・ホフマン主演の映画『卒業』の挿入歌として馴染み深い。
《サリー・ガーデン》はアイルランドの伝統的な民謡で、詩の方は、アイルランドの詩人ウィリアム・バトラー・イェイツが1889年に発表した詩集『The Wanderings of Oisin and Other Poems』に収録されたもの。しかし、この詩は彼のオリジナルではなく、当時アイルランドのスライゴ州にいた老婆が口ずさんでいた歌に由来するという説もある。
《カッコー》もまたイギリスに古くから伝わる民謡で、グスターヴ・ホルストの《サマセット狂詩曲》に採り上げられたことで知られている。
*バラッドは17世紀イギリス伝承の物語や寓意のある歌で、伝統的な民謡に近い。それに対し、バラードはそれに由来を持つ形式の歌もしくは音楽であり、両者は音楽的には区別されている。

ジョン・ダウランドのリュートソング2
 彼の金髪を 流れよ わが涙 彼女はいいわけできるのか

「彼の金髪を」は《歌曲集 第1巻》に収録、1590年11月17日のヘンリー・リー卿の引退祝賀会で披露されたと伝えられている。老いた騎士の姿を描いた歌詞は、エリザベス朝を代表する劇作家ジョージ・ピールの作といわれているが、近年の研究ではリー卿自身による作詞という説も出ている。同歌曲集に収録された「彼女はいいわけできるのか」では、愛する女性に許しを請い苦しむ男の姿が描かれている。
「流れよ わが涙」はダウランドの代表作で、後述する《涙のパヴァーヌ》のメロディに沿って歌詞を追加したと推測されている。冒頭部に現れる4つの下降してゆく音型は、流れ落ちる涙を象徴した「涙のモティーフ」と命名され、当時の音楽家に好まれた。

ジョン・ダウランドのリュート・ソロ曲
 プレリュード 涙のパヴァーヌ ハンソン夫人のパフ 運命

ダウランドはリュートの名手だったので、この楽器を用いた独奏作品は、彼の芸術の真骨頂と言え、ルネサンス期の器楽作曲史に大きな足跡を残した。また、ギターに移し易い音が使用されている作品も多く、昨今ではギター演奏の重要なレパートリーとなっている。
《プレリュード》は1分強の短い作品であるが、凝縮された抒情感が聴く者を魅了する。《涙のパヴァーヌ》は、リュートソング「流れよ わが涙」の原曲となった作品。その美しいメロディは国内外の作曲家に影響を与え、ウィリアム・バードのヴァージナル用編曲他、この曲をもとにした多くの作品を生み出した。《ハンソン夫人のパフ》は、彼の作品にしては珍しく、軽さを感じさせる作品。それに対し《運命》は、暗さが前面に出ており、非常に対照的な印象を与える。

ヘンリー・パーセルの歌曲
 「美しい島」(歌劇《アーサー王》より) 「恋が甘いものなら」(歌劇《妖精の女王》より)
 「エジンバラの街から遠く」(劇音楽《偽りの結婚》より)
 「僕よりも幸せなものは」(歌劇《妻を支配すること》より)
 孤独

17世紀のイギリスが生んだ夭逝の天才作曲家ヘンリー・パーセル(1659-1695)。パーセルと言えば、唯一のオペラである《ディドーとエネアス》がよく知られているが、それ以外にも多くのセミ・オペラや付随音楽を作曲している。
「美しい島」はパーセルと同時代に活躍した詩人ジョン・ドライデンの台本による全5幕のセミ・オペラ《アーサー王》の最終幕で、美の女神ヴィーナスが歌うアリア。
「恋が甘いものなら」が収録されている《妖精の女王》は、パーセルの劇場作品の中では《ディドーとエネアス》に次いで知られているもの。全5幕のセミ・オペラで、物語はシェイクスピアの『真夏の夜の夢』をもとにしている。「エジンバラの街から遠く」は、劇音楽《偽りの結婚》のなかでもポピュラーな音楽で、フォークソング調の雰囲気が親しみやすい。
《妻を支配すること》は、シェイクスピアの後継者として国王の座付き作家となったジョン・フレッチャーの台本による。パーセルが作曲した「僕よりも幸せなものは」は、短い作品ながらも、素朴な伴奏が歌の節回しを生かしているところが印象に残る。
《孤独》はウェールズの詩人キャサリン・フィリップスの詩をもとに、1687年に作曲されたとされている。厳かな雰囲気の音楽で、孤独に対する様々な想いが切々と歌われる。



主催:東京・春・音楽祭実行委員会 共催:国立科学博物館

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