HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2016/12/01

リヒャルト・ワーグナー《神々の黄昏》
~ストーリーと聴きどころ

文・広瀬大介(音楽学、音楽評論)

序幕

 エルダの娘である三人のノルンたちが、世界の運命を司る綱を編みながら、世の中の来し方行く末を物語る序幕冒頭の管楽器によるコラール風の楽想は、《ジークフリート》第3幕で用いられたブリュンヒルデの目覚めのモティーフだが、半音低い変ホ短調の曇った響きに「黄昏」が感じられる)。ヴォータンがトネリコの木から作った槍で世界を統べていたが、ジークフリートがその槍を折ってしまったため、ヴォータンは勇士たちにトネリコの木を切らせ、薪としてヴァルハル城の周りに積み上げさせた。やがて神々が滅びる日、その薪に火がつけられるだろう、という預言を歌う中、紡ぐ綱が切れてしまう。世界の終焉を感じつつ、地下へと戻るノルンたち。

 ブリュンヒルデの岩山。ジークフリートは、新たな冒険へと旅立とうとしている。自らの愛の証に、愛馬グラーネを贈るブリュンヒルデ。その返礼に、ジークフリートは大蛇との戦いで勝ち得た指環を贈る。互いの無事を祈りあいながら、ジークフリートは船で旅立つ「ジークフリートのラインの旅」。途切れずにそのまま第1幕へ続く)

第1幕

第1・2場:ギービフンク館の広間

 ライン川沿いを支配するギービフンク家の当主グンターは、異父弟ハーゲンに、自分たちの名声が充分に行き届いているかを尋ねる(グンターとグートルーネを産んだグリムヒルデは、愛を断念したアルベリヒに財宝の力で手籠めにされ、ハーゲンを産んだ)。ハーゲンは、最強の勇士ジークフリートを妹グートルーネの美貌で惑わし、炎の先に住むブリュンヒルデを連れてこさせ、グンターの妻にすることを提案。ライン川を下るジークフリートにハーゲンは声をかけ、館へと招待する威嚇するように鳴り響く呪いのモティーフ)

 ジークフリートとグンターはすぐに意気投合。グートルーネが薬酒を持ってジークフリートに薦め、最初の一口をブリュンヒルデに捧げる、と誓ってから飲み干す。効き目はすぐに現れ、ジークフリートは完全にブリュンヒルデのことを忘れ、目の前にいるグートルーネに夢中になる。グートルーネを娶るため、グンターのためにブリュンヒルデを連れてくることを約束し、ふたりは義兄弟の契りを結び、岩山へと向かう。館に残ったハーゲンは、いずれはニーベルング族の指環を手に入れると、内に秘めた野望をむき出しにする。

第3場:ブリュンヒルデのいる岩山

 留守をまもっていると、ヴァルハルからヴァルキューレの一人、ヴァルトラウテがやって来て、折れた槍を携えて戻ってきた意気消沈のヴォータンが、神々の世界の終焉を待ち望んでいることを語る。ヴォータンが「ブリュンヒルデが持っている指環をラインの娘たちに返せば、この世界は救われる」とつぶやいたのを聴いたヴァルトラウテは、姉にその指環を返すよう懇願するが、ブリュンヒルデは愛の証としてもらった指環を決して手放そうとしない。絶望しながら天上の世界へと帰るヴァルトラウテ。やがて夜が近づき、炎が燃えさかるが、グンターの登場に呆然(隠れ頭巾の魔力で姿を変えたジークフリート)。ブリュンヒルデは精一杯の抵抗を見せるが、指環も奪われてしまうト書きに「女の虚ろな視線が、ジークフリートの眼と交差する」とある箇所には、ブリュンヒルデの愛の動機が一瞬顔をのぞかせる)。ブリュンヒルデがその場を去った後、ジークフリートは頭巾をとって本来の姿に戻り、グンターへの信義を貫くため、自らと女との間を隔てよ、と名剣ノートゥングに願をかける。

第2幕

ギービフンク館前の川の岸辺

 館を守っているハーゲンの夢枕にアルベリヒが現れ、必ずジークフリートが持っている指環を取り返せと、ハーゲンに発破をかける。夜が明けるとジークフリートが一足先に館へと帰還し、昨晩の冒険の様子を物語る。ハーゲンは館の家臣と軍を招集。グンターに危機が迫ったかと慌てる家臣たちは、ハーゲンが告げる結婚の報せに歓びを爆発させる全力で歌うハーゲンと共に鳴らされるシュティーアホルン(角笛)は、ハーゲンの持つハ音、舞台左の変二音、舞台右の二音がほぼ同時に鳴らされ、荒々しく原始的な音で聴き手を圧倒する)

 グンターが打ちひしがれたブリュンヒルデを連れて帰る。ふたりを声高に称える家臣たち。その場にグートルーネと共にいるジークフリートの姿を見つけたブリュンヒルデは愕然とする。しかも、前日にグンターに与えたはずの指環を持っている事に気づき、炎を越えてやってきたのが姿を変えたジークフリートであったことを悟り、激怒する。指環がもとから自分のものであると立証できないジークフリートは、やむなくハーゲンの槍に自らの潔白を誓うが、ブリュンヒルデも同じ槍で裏切り者に死を与えよと誓うブリュンヒルデがジークフリートを問い詰める場面では、ジークフリートの答えが、つねに忘却の動機にまとわりつかれ、その答えが薬酒の効果によることが暗示される)

 ハーゲンはブリュンヒルデから、ジークフリートの弱点は背中であるという事実を聞き出す。名声が傷つけられたと嘆くグンターに対しては「ジークフリートを殺して指環を奪え」と唆す。ブリュンヒルデはジークフリートがグートルーネの魅力に惑わされたに違いないと叫び、三者三様にジークフリートの殺害を誓う。

第3幕

第1・2場:ライン河畔

 ラインの乙女たちの「失われた黄金を返して欲しい」という歌が響く。迷い込んできたジークフリートに、手にしている指環を返せと迫り、ケチと罵られたジークフリートはその気になるが、指環の呪いで命が危ないと脅かされると、脅しには屈しないと前言を撤回。乙女たちはいずれ自分たちの元に戻ると意に介さず、水底へ戻っていく。

 グンター、ハーゲンが率いる狩りの集団が到着。ジークフリートの殺害に気もそぞろなグンターを励ますべく、ジークフリートは自分の昔話を語って聴かせる。物語が中途まで進んだところで、ハーゲンは記憶が甦る薬酒をジークフリートに飲ませ、その真相を語らせる。驚くグンターと男たちを尻目に、ハーゲンはジークフリートの弱点である背中に槍を突き立てる。ブリュンヒルデに思いを馳せながら息絶えるジークフリート。家臣はジークフリートの亡骸を館へと運ぶ《ジークフリートの葬送行進曲》。《ワルキューレ》から登場したヴェルズング(ジークムント)に関連のあるモティーフが、沈痛な雰囲気の中で総動員される、全曲中随一のクライマックス)

第3場:ギービフンク館

 グートルーネはひとり不安に怯えながら、夫の帰りを待ちわびるが、背中を刺されて息絶えたジークフリートの変わり果てた姿に嘆き悲しむ。ハーゲンは平然と指環を要求し、一騎打ちの末にグンターを斃してしまう。事の真相をラインの乙女たちから聞き及んだブリュンヒルデは、ジークフリートの亡骸から指環を抜き取り、愛馬グラーネと共にギービフングの館を焼く炎の中へ躍り込む。炎は勢いを増してヴァルハルにまで届き、城も焼け落ちる。ハーゲンはラインの流れに溺れ、指環の呪いは清められる。後に残された男女が、燃える炎を眺め、新しく始まる世界に思いを馳せる全てを押し流す洪水の後で朗々と鳴り響くモティーフは、《ワルキューレ》でジークリンデが森へと逃げる直前に歌いあげた「愛の救済の動機」)



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