HARUSAI JOURNAL春祭ジャーナル

春祭ジャーナル 2014/03/14

中村伸子(お話・企画構成)
「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.1《E.W.コルンゴルト》」に寄せて

知られざる作曲家を紹介する「東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ」。その第1回目を飾るのが神童と言われた作曲家E.W.コルンゴルト。コルンゴルト研究を行い今回の演奏会では企画構成をおこなった中村伸子さんに、プログラムについてお話を伺いました。


clm_NobukoNakamura.png 東京春祭ディスカヴァリー・シリーズ vol.1
《E.W.コルンゴルト》~二つの世界の狭間で
~ウィーンからハリウッドへ、20世紀を生きた「最後の神童」を聴く

clm_q.png  中村さんがコルンゴルトを研究する(はまる)ことになったきっかけは?
 コルンゴルトの音楽に出会ったのは、高校生のときにテレビで〈ピエロの歌〉(歌劇《死の都》より)を聴いたのが最初でした。当時は、いい曲だけど適度に現代的でおもしろい、でも「コルンゴルト」って誰?と少し興味を持ったくらいだったのですが、大学に入って彼のことを調べたり演奏会で取り上げてみたりするうちに、気づいたら離れられなくなっていて、今に至ります。

clm_q.png  今回のプログラムについて、どのような思いでプログラミングをされたかを教えてください。
 コルンゴルトに対する日本での評価は最近でこそ高まっていて、とりわけヴァイオリン協奏曲などはあちこちで演奏されるようになりましたが、ほとんどの作品は生演奏で聴く機会がありません。だからこそ、コルンゴルトの音楽と生涯の全体像をたくさんの方に知ってほしい、という思いでプログラムを組みました。私は2009年からこれまで「コルンゴルトを広め隊」という名前で、コルンゴルトの作品だけを取り上げる小さな演奏会を企画してきました。毎回テーマを設けて、大学の友人に演奏してもらい、私が解説をする、というものです。今回のプログラムは、まさにその第1回公演のときのプログラムがもとになっています。コルンゴルトの音楽をちゃんと自分の耳で聴いてみたい、そしてたくさんの方に聴いてほしい、演奏してほしい、と思ったのが「広め隊」の始まりでしたが、今もその気持ちはほとんど変わりません。

clm_q.png  今回のプログラムの聴きどころを教えてください。
 すべてコルンゴルトによる作品ですが、編成や様式のさまざまな作品を聴き比べていただけるように工夫しました。編成では、オペラや歌曲、ピアノ独奏曲、そして室内楽曲。様式では、生涯を通して大きくは変わらないのですが、いかにも子どもらしい曲、子どもが書いたとは到底思えない曲、豪奢で後期ロマン派的な曲、ウィーンらしい曲、素朴でさっぱりした曲、と言ったように。結果、とても欲張りなプログラムになってしまいましたが、まずはその違いをお楽しみいただきたいです。
 最初にお届けする歌劇《ポリュクラテスの指環》は、コルンゴルトが17歳のときに書き上げて「オペラ作曲家」としての出発点となった彼最初のオペラです。堅いタイトルですが、宮廷を舞台としたどたばた喜劇です。それから、歌曲の〈まつゆき草〉とヴァイオリン・ソナタの第4楽章には同じメロディーが使われていて、二つを聴き比べることができるのも工夫したところです。コルンゴルトは、自分の作品を別の新しい作品に転用する、という手法を好んだので、その点にもご注目ください。《4つのシェイクスピアの詞による歌曲》は、コルンゴルトには異質とも言えるほどの素朴さがまた魅力的です。そして弦楽四重奏曲第3番は、第二次大戦中に映画音楽を作り続けていたコルンゴルトが演奏会のための作曲を再開したころに作られた、ボリュームたっぷりの意欲作です。これは全楽章ご堪能いただきます。今年びわ湖ホールと新国立劇場で上演されて話題になっている歌劇《死の都》の有名なアリア〈マリエッタの歌〉もはずしてはいません。

clm_q.png  コルンゴルトを初めて聴く方へ、ずばりコルンゴルトの魅力を教えてください。
 コルンゴルトは20世紀に活動した作曲家なので「現代的で難しい音楽」というイメージが強いようですが、決してそんなことはありません。とてもメロディアスで分かりやすい側面と、現代的で複雑な側面とが絶妙なバランスで組み合わされた、総じて親しみやすい音楽です。それゆえ、彼はウィーンの音楽界でもハリウッドの映画音楽の世界でも多くの人々の心をつかみ、成功を収めたのですから。
それから、これは私の主観ですが、彼の音楽には人柄の良さや優しさのようなものがにじみ出ているように思います。激動の時代に生きながらいつも人を幸せにするような音楽を書き続けたコルンゴルトの生涯に想いを寄せつつ、演奏会をお楽しみいただければ幸いです。


~出演公演~

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